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16話 シリウスの魔術

日は落ち、瓦礫と化した街に闇夜が訪れる。

灯りは次々と消え、代わりに悲鳴だけが増えていく。

空は赤黒く染まり、水路からはボコボコと奇妙な音。そして這い上がる化猫兵。


空を見上げるソフィー。

杖を天高く掲げたかと思うと、突如稲妻を放った。

轟音が鳴り響き、思わず耳を塞ぐシリウス。

稲妻は何かに弾かれ、アヴィーチェ上空で爆散した。


<ソフィー(ファリア)>

「やはりというか、結界じゃの。これでは外の助けも無理か」


市民達が必死に外に連絡しようとしているが、繋がらないようだった。


<ソフィー>

「きよったな」


<シリウス>

「こいつらあの時と同じ!」


化け猫兵がにじり寄ってくる。

顔は違うが、魔王十七将デボン・キャトルズも同じような兵士を生み出していた。

だけど――


<シリウス>

「こんな数どこにいたの!」


<ソフィー>

「街を組み替えて巨大な魔方陣を作ったようじゃ。こやつらを生み出す為にな。あとは上の結界と、」


止めどなく水路から這い出てくる化け猫兵。

更に水路から黒い触手がウネウネと生えてきた。

なんか先端が糸引いてネチョネチョしてる。


<ミスガイ>

「うわっ!気持ち悪っ!」


<ソフィー>

「アレもじゃな」


化け猫兵がシリウス達を取り囲み、触手も今か今かと攻撃の機会を伺っている。


<ソフィー>

「はあ、全く面倒じゃが、」


一瞬にして元の姿に戻る。


<ファリア>

「やるしかないようじゃの。―Achtel(アヒテル)


杖を振るまでもなく8方向に魔弾が放たれる。

断続的に放たれた魔弾は周りにいた化け猫兵全てを粉砕した。

何本もの黒い触手が襲いかかる。


<ファリア>

「―Pause(ポーズ)


触手の動きが止まる。

女が杖を振ると、一瞬にして灰となって消えた。


ドス、ドスと何かが迫る音。

振り返るとそこにいたのは巨大な化け猫兵。

高さは3メートル強。

他の個体よりも筋肉がさらに肥大化しており、奴の通った道は平に均されていた。


殴りかかる化け猫兵。

女は後ろからくる攻撃に目もくれず紙一重で躱わした。

直後素早く振り返り、奴の額に杖を当て ――


<ファリア>

「消えよ」


奴の頭部を消し飛ばした。

残った体はバラバラと崩れていく。


<ファリア>

「ふぅ、ってその顔はなんじゃ被検体?」


一瞬の出来事にに唖然とするシリウス、そして周りにいた市民達。

自然と拍手してしまった。

それに釣られて市民達も拍手や称賛の声でファリアを讃える。


<ファリア>

「こういうのもまあ、悪くないの」


女が満更でもない顔をしていると、遠くからミスガイがこちらに走ってきた。


<シリウス>

「ミスガイ!良かった!無事だったんだね!」


<ミスガイ>

「うん!さっきの雷見てたら、いてもたってもいられなくて!ソフィーさんは?」


まさにこの人だ、と女に向けて指をさす。


<ミスガイ>

「え、えええええ!若返ってるーー!!!それにその顔見たことある!確か侵入sy」


<ファリア>

「その話は後でじゃ」


<シリウス>

「それに名前もファリアって言うんだよ!」


<ミスガイ>

「その名前知ってる!確か魔法つk」


<ファリア>

「その話も後でじゃ」


<ミスガイ>

「それよりみんな、急いで修道院に行こう!ボクについてきて!」


市民達を引き連れて修道院へ向け走り出すと、女は真反対の方向へ歩いてく。


<シリウス>

「こんな時にどこ行くの?」


<ファリア>

「野暮用じゃ。被検体は小僧とくっついておれば平気じゃろ。後で修道院に集合じゃ」


それぞれ別の方向へと走る。

吹きすさぶ冬の風が、不吉な予感を感じさせた。



トライアス修道院


<ルナ・トライアス>

「みなさん!修道院の中に!早く!」


迫り来る化け猫兵を倒しながら、市民達に呼びかけ続けている。

1人の男の子がルナの背中に抱きついてきた。


<ルナ・トライアス>

「大丈夫?来ちゃダメだって言ったでしょ」


<こども>

「せんせいこわいよ〜」


優しく語りかけるも、子供の震えがルナにも伝わる。


<ルナ・トライアス>

「一緒に部屋の奥へ行きましょ」


子供を安心させるため、抱きつかせたまま一緒に修道院の中に入ろうとするルナ。

その歩幅はゆっくりと、でも着実に入り口へと向かっていたはずだった。


――ようやく隙を見せたな――


ルナの腹を一本の剣が貫く。

刺したのは抱きついていた子供。


<子供たち>

『先生!』


<ルナ・トライアス>

「あな、た、もしか、して……………」


<こどm……>

「この隙を待っていた!考える事が増えれば自ずと警戒心も落ちる。選挙期間中お前は一度も気を抜かなかった。壇上で3人で握手した時もだ!」


苦悶の表情と共に後ろを振り返る。

子供の顔がだんだんと霞んでいき、そこからオンズアーシの顔があらわになる。


<ルナ・トライアス>

「分身が……わた、しを舐めるな!AkarOr (アカーオール)!」


即座に魔術を放つ。

光の束が子供の半身を消し飛ばした。


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「詠唱破棄で倒すとは。やるね、でも遅いよ。この街は既にアタイのものだ」


そう言い残すと子供は灰となって消えた。

血を吐き膝を屈するルナ。

血溜まりが段々広がっていく。


<ルナ・トライアス>

「まだ……倒れ、るわけには、いきません」


<子供たち>

『早く治療を!!』


子供たちが取り囲み、ルナに治癒魔術をかける。


<ルナ・トライアス>

「みんなありがとう。少しだけ力を頂戴」


他の子供たちが魔力をルナに送る。


<ルナ・トライアス>

「主よ。我らが心を守りたまえ。Khiteキーテ gananガナン


光が修道院全体を包み込む。

入り口に足を踏み入れた化け猫兵が次々に光となって消えていく。

ルナは端末を展開し、全市民に呼びかける。


<アナウンス>

「こちら………トライアス修道院!

市民の皆様はトライアス修道院にお集まり下さい!神聖魔術を敷きました。他の建物より安全です!」




アヴィーチェ城 地下制御室 廻天


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「奴め、さすがに死なないか。だが虫の息、どこまで持つかな?」


磔になっているカントを眺めながら余裕の表情を見せる。


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「しかしさっきの雷、あんなものを放てる者がいようとは。それに魔力の通りが悪い、生み出した兵士の数も想定よりも少ない。………………そうか!侵入者か!」


検問所の写真を慌てて確認する。


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「この女は!!!魔王様の言っていた魔法使い!

ただの奸物かんぶつと思って放置していた!!」


浮かれていた。

200年の計画が成就しようとしているこの時に限って己の快楽を優先してしまった。

自らの失態に脂汗が吹き出す。


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「いや、こいつも殺して魔王様に献上しよう!

今はその力も無いと聞く。ならばアタイの敵じゃないね。魔力が通らないのなら、また()()()()()()()!」


修道院に向かって走るシリウス達。

水路から這い出る化け猫兵を魔弾で弾き飛ばすミスガイ。

追従する市民達も、みな杖を持って襲いかかる触手や兵士に攻撃する。

だが、


『助けてくれええええええ!』

『やめて!離して!』


走り疲れた人達から触手に捕まり、水路へと消えていく。

警備の人も応戦しているが圧倒的に数が足りない。


<ミスガイ>

「あとちょっとがんばって!」


修道院が見えてきた!

市民たちの顔にも喜びの表情が戻った矢先、


<アナウンス>

『只今より区画移動を開始します。危ないですので、そのまま動かずにお待ち下さい』


<シリウス>

「また動くの!」


道が崩れバラバラになる市民達。

追い討ちをかけるが如く触手が襲いかかる。


<ミスガイ>

「シリウス危ない!っっっっ」


突き飛ばされるシリウス。

振り返ると彼の体にはいつくもの黒い触手が貫通していた。


<ミスガイ>

「にげ、て………………」


触手に引っ張られ海に落ちるミスガイ。

そんな彼を僕は見ていることしかできなかった。


<シリウス>

「あ、ああ……………………」


まただ。

また助けられなかった。

どうして僕は見る事しかできないのだろう。

打ちひしがれる僕の脳内には、亡き者にされたモリタミ達の姿が鮮明に蘇る。


サトウが斬られた。

エミーさんが潰された。

裕平さんが斃された。

アスカさんが光に消えた。


そしてようやく思い出した。

連盟軍と戦った記憶。

白い姿に変身した事を。



人々の悲鳴は鳴り止まず、瓦礫と化した街を見る。

魔女の所業を目に焼き付ける。


思い出せ。

あの時の高揚感を。

力を振るった爽快感を。

そして圧倒的な―



          殺意




         「殺す」


そう静かにつぶやいた。

同時に体が光り始める。

金に輝く光は次第に黒い稲妻へと変わり、周りの瓦礫を破壊していく。


体が膨張する。服が張り裂ける。

身につけていたブレスレットは砕け、

現れるのは白い巨躯。


僕を殺したのが銃なんだったら、

僕はお前達を殺す銃になる。

そうだ、僕は銃身だ。


<シリウス>

「僕の名はシリウス・”バレル”!」


襲いかかる触手共を全て拳で粉砕した。


<シリウス・バレル>

「お前達を射殺す白き銃だ!」


次々に現れる化け猫兵。


女からもらった魔道具は変身で砕けた。

杖は使えない。

自分で撃つしかない!


<シリウス・バレル>

「観測者よ掌握せよ!我引くは大いなる弓張月!」


手を銃の形にする。

指先に精神を集中させる。

魔力は渦を巻き、僕を覆い尽くすほど巨大になった。


<シリウス・バレル>

「行けええええええええ!弾丸バレット!!」


ぽすっ


青い魔力の渦は、虚しく霧散した。


<シリウス>

「うおおおおおおおおお!!!」


叫ぶ勢いそのままに猫兵士を殴り飛ばす。


中々に恥ずかしい!

殴る方が簡単だ!!


襲いかかる化猫兵。這い出てくる触手。

それらを次々に拳で粉砕していく。


一際大きな雄叫びが聞こえる。

後ろにはさっきの巨大な猫兵士が迫っていた。


殴りかかってくる奴の拳をギリギリで躱わし、腹に殴りを入れる。

奴は後ろにのけぞっただけで、大した傷すら付いていない。


さっきの巨大な魔弾だったらダメージを与えられるかもしれない。

でも飛ばそうと思うと霧散してしまう。


奴が足音を立て近づいてくる。


どうする?!どうする?どうすれば当たる?

何か方法は……………………


市民達を貫く触手を思い出す。


直接……貫く………それか!


遠くから当たるのは今の僕には無理だ。

なら魔弾が霧散する前に、


<シリウス・バレル>

「ゼロ距離で当てればいい!」


今度は手を手刀の形にして、

手全体に魔力を集中させる。

円形状に広がる魔力を必死に凝縮させる。

鋭く、鋭く、鉛筆のように!釘のように!


奴から再び拳が飛んでくる。


<シリウス・バレル>

「観測者よ掌握せよ!我引くは大いなる弓張月!」


――多くの魔術師が術を口で唱えるのは、

言葉にする事で魔術をイメージしやすくなるからじゃ――


女の言葉を思い出す。

イメージしろ!僕の魔術を!

叫べ!その名は!


<シリウス・バレル>

「パイル・バスター!!!!」


衝突する拳と手刀。

手刀を瞬時に拳の形に戻し、殴る!

敵の拳にめり込む魔弾。

そして腕を思いっきり引き、炸裂させる!


その衝撃は敵の肩まで届き、腕がまるごと爆散した。


もう一回!

敵の土手っ腹に手刀を突きつける!


<シリウス・バレル>

「パイル・バスター!!!」


敵の体に巨大な風穴を開けた。

屠った威力に耐えかねず、敵の肉体がボロボロと崩れていく。


<シリウス・バレル>

「よっっっしゃあああああああ!!!!」


魔術の成功と、敵を倒した喜びのこもった雄叫び。

その咆哮は反撃の狼煙であった。


   ―――――――――――――――

     15話 シリウスの魔術

   ―――――――――――――――



ミスガイ!ミスガイを探さなきゃ!

前は間に合わなかった。

でも今度こそは助けられるかもしれない!


走るシリウス。

市民達を助けながら、襲いかかる兵士や触手を破壊していく。

辺りを探していると、目の前に突然女が現れた。


<ファリア>

「ようやく変身したな。被検体」


<シリウス・バレル>

「びっくりした!そうだよ変身したよ!今は実験しないからな」


<ファリア>

「分かっておる。小僧を探しておるのじゃろ。この下じゃ」


魔力探知で既に探していたらしい。

女がすぐ横の水路を指す。

中には黒い触手がうごめいている。


<シリウス・バレル>

「行ってくる!」


空気を思いっきり吸い、意を決して水路に飛び込んだ。

今度こそは僕が君を助けてみせる!




深く深く海に沈む。

腹には触手が刺さり、魔力を吸われていくのを感じる。

朦朧とした意識で周りを見ると同じように魔力を吸われている人達がいた。


ああ、もうダメだ、ボクはここで死ぬのかな。


スガイ!


何か聞こえる。


ミスガイ!!


<シリウス・バレル>

「今助けるから!!」


シリウスの声を聞く。


そうだ、ボクは行かなきゃ、いつかシリウスと一緒に冒険するんだ!

やられて分かったけどこれは物理的に刺さってる訳じゃない、力ずくて引っこ抜ける!


<ミスガイ>

「んんんんんん!!!」


力ずくで触手から脱出した。

シリウスは!

触手に邪魔されてこっちまで来られない!


<ミスガイ>

「がはっっごっっ」


急に水が口に入ってくる。

あの触手は魔力を吸うだけじゃなくて()()()()()()()()()()

息がっ……………

次々に触手が体に刺さる。


<ミスガイ>

「もう、ダメっ………だ…………」




暗い、真っ暗だ。

真っ暗闇の中に懐かしいものを見た。

――多分これは走馬灯だ。


シリウスやファリアさんと会ったこと。

子供たちと一緒に勉強して、たくさん遊んだこと。

シスターの格好をした時、みんなが怖がらず笑いもせず受け入れてくれたこと。

街の人たちも温かく見守ってくれたこと。

カント君とたくさん喧嘩したこと。

そして、

水路に落ちたとき、みんなが助けてくれたこと。



80年前

まだボクがもっと小さかった頃――


<ミスガイ>

「どうして”オレ”なんか助けた。お前に怪我ばっかさせてるのによ」


<カントフォン・アヴィーチェ>

「何言ってるの、私達は友達!でしょ?友達を助けるのは当然だって」


無言で手を握るカント。


<カントフォン・アヴィーチェ>

「おーい!大丈夫だよ!怖くないよ!」


カントの呼びかけで子供たちが駆け寄ってくる。


<男の子>

「だ、大丈夫だった?」


<ミスガイ>

「ああ、問題ねえ」


<男の子>

「ほんとに!よかった!」


吐き捨てるように返事をしたというのに、手を差し伸べてくれたっけ。


<カント>

「ほら君も、握手だよ!」


3人で握手をした。

それを見て他の子供たちも集まってきて、みんなでお話しして。その時に決めたんだった。今度はボクが――



ああ、そうだ。

ボクはみんなに助けられてきた。

友達になってくれた。

ボクは好きだ。この街が、ルナが、みんなが大好きだ!


だから今度は、今度こそは!


<ミスガイ>

「ボクがみんなを助けるんだああああああ!!!」


内側から光が溢れる。

周囲の触手も猫兵士もろとも消滅していく。


<ミスガイ>

「ごへうおっほっごはっへ、いたっっ」


岸に上がる。

シリウスじゃない。

何かに弾き飛ばされたような感覚。


<……>

「ごへっへっおへっ、外の空気ってこんなに悪ぃのかよ。」


人が立っていた。

ボクと同じようにむせている。

一目で分かる。あれは”神父”の格好だ。

だけど髪が長い、ボクと同じ三つ編みだ。

彼が後ろを振り返る。


その顔はまるで鏡写しの如く()()()()()()()だった。


ボクの無事を確かめると彼は高らかに謳う。


<ミスガイ?>

「ここまでよくガンバった!後は”オレ”に任せときな!」

☆いっしょに!なになに~☆

シリウス・バレル

シリウスの変身形態

彼の心に呼応するように魔力が呼び覚まされた事で変身を遂げた

体躯は成人体型にまで成長し、肌色も真っ白に変化する

筋力も向上しており、並の魔王軍兵士なら一撃で倒すことができる


パイル・バスター

魔弾を放つと霧散してしまうシリウスが編み出した魔術

詠唱は魔弾と同様

手を手刀の形にして魔力を収束、尖らせ敵に突き刺し、同時に殴りを入れる事で確実に着弾させる事に特化している

シリウス曰く最強のデュクシ

貫通と殴りの衝撃、着弾後の炸裂といった三つの攻撃を同時に行う事で、格上の相手にも通用しうる魔術となった

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