表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

15話 勝者の城

<ミスガイ・トライアス>

「………………ボクの事どう思ってる?」


その言葉に一瞬固まる。


<ミスガイ>

「ボクね、ちょっとずつ成長するにつれて男の格好が少し嫌だと思うようになったんだ。それからシスターの格好したり、髪伸ばして三つ編みにした時に嫌だったものが少し抜けた気がして」


心と姿が釣り合わない。

そんなトライアスさんの心情を僕は推し量る事なんてできない。


<ミスガイ>

「それからこの格好をしてるんだ。そんなボクをみんなは受け入れてくれて、普通に接してくれて。みんなはボクの事知ってるけど、外から来る人に初めて知られちゃったから」


元気に話しているがその表情はどこか物悲しく映る。


<ミスガイ>

「正直に言って欲しい。どんな言葉でもいいから」


まっすぐ僕を見るトライアスさん。

これは自分の気持ちを誤魔化してはいけない。

まっすぐ向き合わなければならない。


僕は意を決する。


<シリウス>

「最初はびっくりしました。動揺もしました」


トライアスさんが静かに頷く。


<シリウス>

「でも修道院の人達や領主様達を見て、トライアスさん自身を尊重してちゃんと見ているんだなってそう思ったんです」


彼のあり方を街の人たちは誰一人として否定しなかった。

それは、たとえ彼が悩んでいても街のみんなに愛される人であり続けてきたからだと思う。

であるなら、僕がやりたいことは一つ。


<シリウス>

「………だから僕は、あなたと友達になりたい。たくさんあなたの話を聞きたい」


二日一緒にいたくらいでトライアスさんの事なんて分からない。

だからこそせめて、一緒にいられる時間だけはトライアスさんの事を知りたい。

いろんな事を話したい。


<ミスガイ>

「え、ええええええええええ!!こんな僕でいいの?嫌じゃない?」


<シリウス>

「全然です!」


<ミスガイ>

「そっかあ、よかったあ!」


彼の顔が明るくなる。その輝きは夜空の月より眩しくて。


<ミスガイ>

「じゃあもう敬語は禁止!これだけ一緒にいたんだから。僕のこともミスガイって呼んで」


このやりとりを少し懐かしむ。今度はもっと一緒にいられますように。


<シリウス>

「よろしく。ミスガイ!」


それから僕達は怪魚の種類だったり、ミスガイがレバーが苦手だったり、シスター長が実は890歳でおっかねえって話をしたり、車乗れるなら何乗る?とかそういうくだらない話をいっぱいした。


<ミスガイ>

「ボクさ、今まで街の外に出た事無いんだ、少し怖くて。でも選挙が終わって落ち着いたら外の世界をたくさん見たいって思ってる!」


<シリウス>

「じゃあその時は一緒に冒険しようよ!」


<ミスガイ>

「絶対しよう!ってもうこんな時間かあ。そろそろ寝ないと」


時計は23:30を回っていた。


<シリウス>

「明日は選挙だね。どこに投票するか決めた?」


<ミスガイ>

「うん、ボクはもう迷わないよ」




選挙当日


街中にアナウンスが鳴り響く。


『10:00より投票が開始されます。お手元の端末より投票を開始して下さい。端末の無い方は指定の投票所にて投票してください。』


宿屋


<ミスガイ>

「ボクは持ってないから行ってくるね!」


<シリウス>

「気をつけてね!」


外を見ると、城の前に巨大なモニターが空中に映し出されていた。


<ソフィー(ファリア)>

「ほう、あれで投票率が見れるのか。ここにも世話になったし、最後くらいは見届けてやるかの」


椅子から立ち、外に出ようとするファリア。


<シリウス>

「珍しい。僕も行くよ。どうなるか目の前で知りたいしね」


投票は粛々と行われた。

選挙を荒らす者は誰一人としておらず、刻一刻と時が過ぎていった。



* * * * *


そして開票の時間が訪れた。


『開票の結果をお伝えします』


多くの人々が城門前に集まる。

誰もが息を呑んでその瞬間を待っていた。



『カントフォン・アヴィーチェ票 48.9%

 ルナ・トライアス票      48.6%

よってカントフォン・アヴィーチェ当選となります』


<民衆たち>

『おおおおおおおおおおおおおおおお!!!』



アヴィーチェ城内 選挙対策室


<宰相カッツ>

「ほっ。やりましたぞ!カント様!」


<カント>

「はあっっっっっ。これで一段落だ」


椅子に座り込むカントフォン・アヴィーチェ。



郊外 トライアス修道院


膝から崩れ落ちるルナ・トライアス。


<子供たち>

『シスター!』


<ルナ・トライアス>

「大丈夫、ありがとう、ちょっと肩貸してくれるかしら。市民を率いた者として行かなくては」



城門前の壇上にカント、宰相カッツ、ルナ・トライアスが並ぶ。


<カントフォン・アヴィーチェ>

「私は未熟な領主だ。カッツ殿の助力が無ければ何もできぬ愚か者だ。だから次は君たちが未来のアヴィーチェを担って欲しい。この街が例えどんな姿になっても、いつまでも愛して守り続けて欲しい。それが私の最後の願いだ」


領主派の人々も修道院派の人々も等しく拍手で彼を称えていた。


<司会の男>

「最後にシスター長、お二人にメッセージをお願いします」


<ルナ・トライアス>

「わたくしはこの街を良くしたい一心で選挙に臨みました。残念ながら負けてしまいましたが、私も貴方もこの街を愛する者の一人である事には変わりません。カント様、ベルティエ殿、この街を最後までよろしくお願いします」


<カントフォン・アヴィーチェ>

「分かっています。これからが正念場です。」


<ルナ・トライアス>

「ベルティエ殿、領主様を、街をお願いします」


<カッツ・ベルティエ>

「ええ、生まれ変わらせて見せましょう。必ずや」


互いに握手を交わ三人。

街中が万雷の喝采に包まれる。

その光景をシリウス達は見つめていた。


<シリウス>

「よかったね!」


<ミスガイ>

「うん!ってやっぱりバレてたよね。」


<シリウス>

「見てたらね。領主様のところへ行かなくて良いの?勝利の祝いに」


<ミスガイ>

「やめとく。多分これまでのことでぐったりしてるから。今はシスター長をねぎらいたいかな。裏切ってしまった僕を受け入れてくれるかは分からないけど」


<シリウス>

「きっと大丈夫だよ。みんなも分かってると思うし」


ミスガイは修道院の方へ走っていった。


<ソフィー>

「接戦じゃったが、まあ無難な結果じゃな」


<シリウス>

「そういうこと言わないの」


<ソフィー>

「そういえばいつの間に小僧と砕けた仲になったんじゃ?」


<シリウス>

「秘密」




トライアス修道院


<ミスガイ・トライアス>

「ルナ……………………」


<ルナ・トライアス>

「いいんです。結果は残念でしたけど貴方は自分の心に従った、それが私は誇らしい。貴方は一歩ずつ成長してる」


ミスガイを優しく抱きしめる。


<母>

「だから大丈夫。年齢なんか、自分の姿なんか気にしないでこれからも思うように生きなさい」


<子>

「……………………おかあさん!!!!!!!」


感情が堪えきれず互いに涙が溢れる。

どんなに互いの心が離れてしまっても、どんな立場になったとしても、ボク達が親子である事だけは変わらないんだと、そう思った。


<子供たち>

『あー僕もやる!』

『わたしも!』


修道院の子供たちみんなで二人を抱きしめ合っていた。




* * * * *



アヴィーチェ城 選挙対策室


<宰相カッツ>

「終わりましたな」


<カント>

「ああ、でもここから始まる。新しいアヴィーチェが」


<宰相カッツ>

「どこまでもお供させて頂きます。そうだ!勝利の記念に街を動かしてみては!ここもいずれ崩される事かと思いますし、いま亡きご両親への手向たむけにもなりましょう。」


<カント>

「名案だ。最後にこのアヴィーチェの象徴を皆で眺めるのも悪くない。」



アヴィーチェ城 地下室


<宰相カッツ>

「ほほう、これが。」


<カント>

「そう、これがアヴィーチェ家で代々受け継いできた区画制御室、廻天かいてんだ」


カントが壁に手を当てると扉が開き部屋への道が現れた。


<宰相カッツ>

「すごい!中はこうなっていたのですね」


部屋の中はとても広くドーム状になっている。

その中央にぽつんと十字の巨大なモニュメントが刺さっている。


<カント>

「これが制御装置だ。それでは動かすぞ」


<宰相カッツ>

「はい。ついにですね」


制御装置の鍵を回す。


周囲の機械がグングンと音を立て、石の床にに光が走る。

部屋全体が振動し、これから街全体を動かして――


<宰相カッツ>

「………………ふふふ、はははははははは、あっははっはっはあああ!!!」


<カント>

「どうしたカッツ?」


<宰相カッツ?>

「この時を、この時を待っていた!200年だ!お前がこの部屋の扉を開け起動するこの時を!この部屋は代々の領主が《《自分の意思》》で開けなければ開かない扉。それは前の領主で確認済みだ」


<カント>

「カッツ、貴公いや、お前は一体………………」


<繧ォ繝?ヤ繝サ繝吶Ν繝?ぅ繧ィ>

「ふふふ、正体が知りたいか、よかろう。宰相カッツ・ベルツィエは仮の姿、その真の姿は!」


宰相カッツの姿がどんどん溶けていく。

現れたのは全身に蛙の刺繍をした不気味な美女。


<繧ォ繝?ヤ繝サ繝吶Ν繝?ぅ繧ィ>

「魔王十七将が一人。オンズアーシ・ファタ・スナイドルだ」


<カント>

「魔王軍だと!それに……魔女………………」


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「先々代が世話になったな。だが復讐なんてくだらないことはしない。アタイはこの街を改造し、ここを()()()()()()にするのさ!!」


<カント>

「そのために最初から私達を!じゃあ本物のカッツ殿は……」


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「そうさ、アタイが殺した。計画を考えた時、あいつが一番入れ替わるのに便利な駒だったからねえ。ああ、ついでに教えておこう。お前の父親も母親もアタイが殺した」


<カント>

「お前が、父上も母上もお前が、お前があああああああ!」


オンズアーシを殺さんと立ち向かうカント。


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「無駄さ。アタイに敵いやしない」


彼を魔術でいとも簡単に拘束すると、十字のモニュメントに磔にした。


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「そうだねぇ、他にも色々やったよぉ。ルーンショット社を招き入れたのもアタイ。職人共を売ったのもアタイ。

そ・れ・と、お前を()()()()()()()()()()()のもアタイだよ!」


<カッツ>

「え……………………」


全身の血の気が引く。

悪寒が体を蝕んでいく。


<スナイドル>

「この表情をずっと楽しみにしていた!どうだ?いまの気分は。絶望したか?

信頼していた人は実はあの”魔女”で全ての元凶だと知った今の気持ちはどうだあ?」


<カッツ>

「が、あああ、あああああああああ、ごはっ、おえっ、があああああああああああああ!!!!」


ずっと信頼していた男は自分から何もかもを奪い去った魔女だった。

涙と嗚咽が止まらない。

全身に絶望が汚濁のように這い回る。


<スナイドル>

「あぁかわいそうかわいそうだねぇ。泣き叫ぶ事しかできないんだねぇ。辛いねぇ。愚かだねえ。みじめだねええええええええええええ!ケヒッ、ケヒヒッ、ケヒャヒャヒャヒャヒャァァァァァァ!!!!!!」


醜き高笑いがドーム中を塗りつぶす。


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「さあ最終段階だ、MOT-D発動!」



ゴゴゴゴゴゴゴゴ

腹に深く響く地鳴りが、アヴィーチェを轟かせる。


<アナウンス>

『只今より区画移動を開始します。危ないですので、そのまま動かずにお待ち下さい』



宿屋


<シリウス>

「これは?」


<ソフィー>

「教えたじゃろ。この街は可変式じゃと。」



―街の土台が海水でせり上がるし、街がブロックごとで分かれておって場所も移動する―


<シリウス>

「じゃあいよいよ見れるんだね!」


<ソフィー>

「そうじゃな。いよいよ………じゃ」


いつになく真剣な表情をする女。


<シリウス>

「でも振動長くない?ん!あれは!」


区画の切れ目から紫色の魔力が漏れる。

次々と紫の光が街中に立ちのぼる。


<シリウス>

「これがそうなの!?絶対おかしいよ!!」


すぐ横の建物にも紫の光が!

すると、宿屋が大きく揺れ始めた。


<シリウス>

「ん!うおおおおおおお!ぐはっっ」


急に壁に打ち付けられた。

宿屋が傾いて動いているのか!

部屋の物がこっちに滑り込んでくる!

それに――


<市民達>

『キャアアアアアアアアア』

『何が起こってるんだ!』

『だれか!助けて!埋もれちゃう!』


町中から悲鳴が聞こえる!

あちこちで建物が崩れる音がする!


そしてようやく振動が止まった。


<シリウス>

「……………終わった?外に出よう!」


崩れかかった宿から外に出る二人。

街はあちこちで建物が倒壊し、瓦礫の山となっている。

そして街の空に選挙で使っていたモニターと同じものがあちこちに映し出されていた。





そこにいたのは磔にされている領主カント。

そして名状しがたきバケモノの姿だった。

右手は蛇、左手は箒。

建物を背負った化け猫に蛙の体をした女が乗っている。

斑点が体中に出現し、無数の黒い尻尾が触手のように蠢いている。

美しかった顔は、全てを嘲け笑うようなおぞましい形相に変形していた。


<バケモノ>

「ご機嫌よう皆の衆。

アタイはオンズアーシ・ファタ・スナイドル。

オンズアーシ・ファタ・スナイドル!

九家の魔女の裔にして魔王17将が1人。そして宰相カッツ・ベルツィエの真の姿である!」


<市民達>

『バ、バケモンだあああああああああああ!』

『カッツ様が魔女!そんな!』

『領主様があんなところに!』

『まずい、まずいまずいまずいまずいまずいよ!』


<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>

「200年前からこの街で暗躍し、少しずつ荒廃していくように仕向けてやった。

この街が廃れる姿、お前達の活力が失われていく様はとても面白かった。

お前達の考えが2つに分かれ、いがみ合う姿は滑稽だった。

そして選挙という最後の希望に縋り、敗れる様はいい、とてもいい味だった!


これからはアヴィーチェ改め第二の魔王城だ。その為にお前達には贄となり、アタイに死ぬまで使い潰されるがいい。ケヒャヒャヒャヒャヒャァァァァァァァ!!!!」



映像が切れると同時に水路から何者かが這い出ようと腕を出す。


<市民>

「………………大丈夫ですか?」


水路から引っ張り上げようと手を伸ばす。

掴んだ腕はヌメヌメしていて上手く掴めない。

奥まで手を伸ばそうと水面を見ると、


<化猫>

「ニャアアアアアアア」


ムキムキな人型の体に化け猫の顔。

胸には魔王軍の紋章。

オンズアーシ・ファタ・スナイドルが生み出した化猫兵だった。


<市民>

「ヒィィィィィィッ、うわっ!」


腕を引っ張られ、海に落とされる市民。

落ちた彼女に黒い触手が這い寄ってくる。


<市民>

「きゃあああああああああああああああ」




市民オモチャたちが次々と海に落とされ、悲鳴がそこら中から聞こえてくる。

ああ。なんて甘露な断末魔。


<オンズアーシ>

「いい、いい!悲鳴が満ちていくのを感じる!実にいい!さあどんどん悲鳴を捧げよ!魔力を!贄を!ケヒッ、ケヒヒッ、ケヒャヒャヒャヒャヒャァァァァァァァ!!!!!!」


     ―――――――――――

       15話 勝者の城

     ―――――――――――

 

笘?>縺」縺励g縺ォ?√↑縺ォ縺ェ縺ォ?樞?


オンズアーシ・ファタ・スナイドルの動向


200年前 

アヴィーチェに潜入カントの祖父を殺す

その後も市民に成り代わり街を調査


150年前

宰相カッツ・ベルティエ(本人)殺害

成り代わる

カントフォン・アヴィーチェに対し成長阻害の魔術をかける


120年前 

計画の立案 

手始めに職人ギルドと職人派遣業を経営


110年前 

ルーンショット社を海岸地域に招き入れる工作を始める


100年前 

ルーンショット社による海岸地域再開発が行われる

職人を派遣 ルーンショット社に売り込む

海上都市アヴィーチェに魔力を少しずつ引き込む

テチテチが現れるようになる


90年前  

海岸都市アヴィーチェの完成

観光客を海岸に誘導

アヴィーチェ行きの乗船場を潰し始める


80年前 

MOT-Dの搭載


2年前  

計画に必要な魔力が集まる

カントの両親を毒殺 

カントを説得、分家に海上都市を明け渡す提案を行う


1年前  

シスター長による異議申し立て

面白そうだからという理由で受諾し選挙を開催する

計画を最終段階に移行する


今日   

計画を実行 

廻天の使用権限を手に入れ、魔王城へと改造する

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ