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14話 宰相と領主と友人と

<少年>

「やあ、すぐに入れられなくてごめんね」


<ミスガイ・トライアス>

「いいんですよ、選挙中でしたし。変な人が入ら内容にするのは当然ですし」


<少年>

「ここではタメでいいよ。私と君の仲じゃないか」


<ミスガイ>

「そうだけども………………」


<少年>

「こちらの方は?」


<ミスガイ>

「観光でこの街に来てる人で、僕が水路で気絶してた所を助けてくれたんだ」


何度も言うが気絶させたのは僕達である。


<少年>

「そうだったのか、私の友人を助けて下さりありがとうございます。私はここの領主、カントフォン・アヴィーチェです」


<シリウス>

「こちらこそわざわざご挨拶ありがとうございます。シリウスと申します、公爵」


<カントフォン・アヴィーチェ>

「よろしくお願いしますシリウスさん。名ばかりの公爵ですけれどね。それにしても幼いのに言葉使いが丁寧だ。年齢を尋ねても?」


<シリウス>

「二週間です!」


年齢が二週間!と堂々と言えるのも変な感じがするけども。


<カントフォン・アヴィーチェ>

「なるほど!転生者グレイトでしたか。ははは、私の勘違い……気にしないで」


カントさんはがっかりして肩を落とした。

見た目こそ僕と同じくらいの背丈だが、言葉使いや立ち振る舞いは明らかに年齢離れしている。いくつくらいなんだろう。


<ミスガイ>

「……カント君!今日は君の!」


<カントフォン・アヴィーチェ>

「どうしたミスガイ?」


彼はまっすぐカントさんの目を見つめる。


<ミスガイ>

「君の手伝いがしたくて来たんだ!!」


<カント>

「ありがとうミスガイ、でも大丈夫。私を手伝うよりはカッツ殿を手伝って欲しい。選挙も佳境だからね。明日の投票に向けて色々準備をしてもらっている」


トライアスさんもがっかりして肩を落とした。

無下になってしまったのはしょうがなかったけど、さっきの彼の姿は今までに見ない堂々とした姿だった。


<カント>

「こんな所では退屈でしょう。城の中を案内します。さあこちらへ」


カントさんが指を鳴らすと、複雑に重なった塀が整然と並べ替えられ、入り口への道が現れる。


<シリウス>

「すごい!」


なんだか秘密基地に来ているようでテンションが上がってしまう。


<カント>

「今日はお二人で?」


<ミスガイ>

「いや、三人で来た………ってソフィーさんがいない!」


後ろを振り返ってもどこを見ても女はいなかった。


<シリウス>

「楽しみにしてたみたいだけど気にしなくていいですよ。そういう人なので」


もしかしたら女は自分で色々見たいのかもしれない。

放っておくと何かをやらかしそうだが、場所が分からないので放置することにした。



入り口を抜けると正面にあったのは、床下から天井まで目一杯描かれている壁画。

まさに圧巻。


<シリウス>

「すごい!おっきい!」


描かれているのは二人の男性と女性が巨大な猫の化け物に立ち向かう姿だった。

一人の男性は剣を持ち、もう一人の男性と女性は杖を持っている。


<カント>

「この壁画は第二次魔術大戦時のアヴィーチェの様子を描いたものと言われています」


<シリウス>

「第二次魔術大戦?」


<カント>

「800年前に起きたとされる世界を巻き込んだ魔王軍との戦いです。中でも特に脅威だったのが”魔女”と言われる魔王直属の女の魔術師達の存在。奴らは当時の世界の人口の約半分を殺戮したと聞いてます」


<シリウス>

「そんな事が………………じゃあ魔女って言って怒ったのって」


<ミスガイ>

「もしかしてあの人に魔女って言ったの!?」


<ファリア>

――魔女は魔王に属する魔術師の総称じゃ。自らの快楽に従い魔術を使う野蛮な奴らよ。妾は寛大じゃからその言葉一旦は忘れてやるが、”二度と”魔女と呼ぶなよ――


あの時の冷めた声と表情は忘れられない。


<カント>

「なんということを!言われた方はたまったものではない。殺戮者の烙印を押しているようなものです。


特に”九家の魔女”と呼ばれる奴らはその残虐性と圧倒的な力から大戦から800年経った今でも恐れられているのです。悪いことしてると魔女に食べられるぞ、ってよくシスター長に言われてました」


<ミスガイ>

「でもね、彼の一族はそんな九家の魔女の一家”スナイドル”を討ち取った家系なんだよ!」


<カント>

「この街全体を使って、総力戦でなんとか倒したと聞いてます。その栄光と魔女の恐ろしさを忘れぬよう絵画に残してはいますが、これを見る度に自分の未熟さを思い知らされます」


彼は2年前に領主になったと聞いた。

両親が病気で急に亡くなって、いきなり市政を任されたと思ったら街を明け渡すしかない状況になって。

どれだけの重責が幼い体にのしかかっているのだろうか。


<カント>

「選挙の手伝いでしたね、カッツ殿の所へ行きましょう」



アヴィーチェ城 選挙対策室


<カント>

「カッツ!手伝える事はあるか?」


部屋の中では空中に沢山の映像が映し出されており、10人程で編集作業やデータ収集をしていた。

その中に長身でちょび髭を生やした男が一人。複数の映像を見ながら指示を出している。


<カッツ>

「カント様、貴方様は玉座に座って休んでおいて下さいませ!選挙はこの私にお任せを。なるほど!お客人ですね!すぐに茶と菓子の用意を!」


カッツさんに別室に案内されたやいなや、みるみるうちに紅茶とお菓子がテーブルに綺麗に並べられた。


<カッツ>

「ミスガイ様はお久しぶりでございますね」


<ミスガイ>

「はい!久しぶ――」


<カッツ>

「おや!貴方様は皆様のご友人か何かですね!いえ言わずとも分かります。お初にお目にかかります。私はアヴィーチェの宰相、そしてカント様の懐刀、カッツ・ベルティエと申します。以後お見知りおきを」


トライアスさんの言葉を遮って僕に握手するカッツさん。

握手したまま手をぶんぶん振っている。

手を振り解こうとしても離してくれない。


<シリウス>

「シリウスです。よろしくお願いします」


<ミスガイ>

「カッツさん僕も手伝いますよ!」


<カッツ・ベルティエ>

「その心意気大変ありがたい!ですが未成人である貴方が手伝ってしまえば選挙法違反で終わってしまいますので!ミスガイ殿はカント様の話し相手になって下さいませ!度重なる心労で疲弊しておられるのに、ろくに休んでおられない!」


やっと手を離してくれたかと思ったら部屋の外に出て行ってしまった。

どうしよう、と互いに互いを見つめ合う三人。


あ、いいこと思いついた。


<シリウス>

「ぼ、僕トイレ行きたくなってきたなあぁああ」


<カント>

「ここを出て右へ、突き当たりを左に行くとありますよ」


<シリウス>

「じゃあちょっと行ってくるね!先に二人で話しててくださぁぁぁぁぁぁ」


僕はしゃべり終わる前に部屋の外に出て行った。

二人はポカンとして、閉まりきらないドアを見つめていた。


<シリウス>

「これで2人きりになったかな。それにしても本当にどこ行ったんだろう。ん?」


美しく清掃された廊下の一角だけ小石が散らばっている。どこから入ってきたんだろう。



アヴィーチェ城 地下室


暗がりの階段を浮遊しながら下る女。


ファリアである。

城に入るなり姿を消し、城内を探索していた。

最深部まで降りた彼女は一つの部屋を見つける。


<ファリア>

「ほう、魔術を弾く壁か。構造すら把握できぬとはよほどの秘密があると見える。じゃが大体は分かった」


杖を振るい、廊下全体に魔術をかける。


<ファリア>

「打てる手は打っておかねばの。あとは街の方じゃな」




すっきりした。

トイレに行くだけじゃ時間稼ぎにならないので、選挙対策室へ向かった。


<シリウス>

「カッツさん忙しい所すみません」


<宰相カッツ>

「いえ!なんでしょう!」


<シリウス>

「みなさんは外に出て演説とかしないんですか?」


<宰相カッツ>

「修道院のやり方を見れば、そう思われるのも難なくありません。

しかし!今の時代いかに効率的に宣伝するか!

私どもも財政は厳しい。人口や観光客の減少で現状を維持するだけで精一杯。


ですので、我々は映像発信に特化いたしました。

アヴィーチェの財政や人口推移、産業状態を示した上で、新しい街に向けた予算やロードマップを動画で分かりやすく解説。


カント様には未来のアヴィーチェを象徴してもらうべく、未来の街の姿や海岸地域との連携、新たな産業の施策などを発表して頂きました。


ショート動画の作成、広告にもアップ。とにかく未来の姿をいかに現実的にできるか、そこを要点に情報を発信しております」



動画を見ると、未来のアヴィーチェの街が映し出されていた。

塀を取り払い、建物も最新式に一新。

街の中央に超高層タワーを建てるみたいだ。

街を明け渡すと言っていたけど、実際には再開発に近いのかもしれない。


<宰相カッツ>

「ですが、これ程多くの支持者が得られるとは!嬉しい、嬉しい事なのですが、市民達が歪みあう姿はこたえます。まつりごとゆえ飲み込む他ないのですが、どうにも慣れぬのです」


下の様子を見る。

警備の人に抑えられていた両派閥がついに衝突し、市民同士で揉み合いになっていた。


トライアスさんと城に入る前、こんな事を言っていた。


―シスター長はたとえみんなが傷ついたとしても、どんな手を使っても選挙に必ず勝つ、街を取り戻すって言ってました。だからこんな事になっても放置してるんです―


<宰相カッツ>

「これはまずい!警備兵をさらに増員!傷病者がいるなら城を解放し中庭で治療も行って下さい。シリウス殿済まない!私も行ってまいります!」


指示を出した後、部屋を出て行ってしまったカッツさん。

彼の方が休んでいないんじゃなかろうか。

選挙前に過労死しそう。




アヴィーチェ城 応接間


<ミスガイ>

「最近食欲無い?出してくれたクッキー1個も食べてないけど」


部屋はしんとして紅茶のカップを置く音が無機質に響く。


<カント>

「ああ、最近は特にな。ミスガイ、私は領主失格だよ。偉大な父上、母上から受け継いだ市政も上手くいかず大切なこの街を明け渡そうとしている。それも全ては私が幼いから、未熟だからなのだ」


外で市民達がもみ合っている声がうっすらと聞こえてくる。


<カント>

「150年以上生きているというのに未だ成長しない、君にもいつのまにか抜かされてしまった」


隣に座るミスガイの肩に手を置こうとするが届かない。

そんな彼の手をミスガイ・トライアスは包み込むように握る。


<ミスガイ>

「ボクを水路から助けてくれてありがとう。

ボクと沢山遊んでくれてありがとう。

ボクとくだらないことで競い合ってくれてありがとう。

喧嘩して、たくさん怪我させちゃったのに今でも友達でいてくれてありがとう」


<カント>

「ミスガイちょっと待ってミスガイ!」


<ミスガイ>

 「アヴィーチェが大好きなのに未来のために、()()()()()()()明け渡す事を決断してくれてありがとう」


<カント>

「それは……………………」


<ミスガイ>

「こうするしかなかったんでしょ。城を見てて前よりボロボロになってたのは分かってたから。もう800年経つんだもんね。いくら修繕しててもお城も街も限界が近いし、いつ崩れるか分からない」


<カント>

「そうだが、カッツ殿のと話し合ったとはいえ時期が早過ぎたんじゃないかと思ってる。もっと考えておけばみんながいがみ合う事もなかったろうに」


<ミスガイ>

「でも今はみんなが街の未来を考えてる。元気がなくなっていた街からずっと目を逸らしてきたけど、みんなが必死でどうにかしようとしてる。


結果がどうなってもアヴィーチェは今まで以上に良い街になると思うんだ。だから君の決断はきっと間違いなんかじゃない」


<カント>

「……………………ありがとう、本当に。」


止めどなく溢れる涙。

ミスガイはハンカチで彼の目を拭う。

握られた手を今度は握り返し、固く握手を交わす。


<カント>

「明日は決戦だ。どんな結果になっても私は私の役割を最後まで全うしよう」


<ミスガイ>

「うん!ほらクッキー食べて。腹が減ってはなんとやら、だよ!」



   ――――――――――――――――

     14話 宰相と領主と友人と

   ――――――――――――――――



夜 公園


<ファリア(老婆)>

「さて昨日の続きじゃ」


<シリウス>

「なに急に呼び出して。城にいた時どこ行ってたの?」


<ソフィー(ファリア)>

「調査じゃ。それよりも昨日の事を踏まえ、もう一つ話しておく必要があっての」


<シリウス>

「何を?」


<ソフィー>

「魔術の分類じゃ。

魔術は大きく分けて三つに分類されておる。

自身の魔力を消費して火や水などの物質を作る”構築魔術”」


杖から魔弾を発射する女。


<ソフィー>

「既存の物体に干渉し、そのものの姿形を変える”変容魔術”錬金術や呪術じゃな」


杖を振り上げると砂の壁が出現した。


<ソフィー>

「そして転生者の世界にある神話や物語にある魔術を再現する”伝承魔術”。

ルーンや神聖魔術はここに入る。妾は管轄外じゃがの。


小僧の信仰しておる宗教は神聖魔術と強い結びつきがある。何せ信仰しておらんと使えぬのじゃからな」


<ミスガイ>

「あ!規制が緩いってそういうことだったんですね!」


<ソフィー>

「小僧気づいておらんかったのか。そして唯一対魔王軍に特化した魔術でもある」


<シリウス>

「すごいじゃないですか!使えるんですか?」


<ミスガイ>

「練習してるけど使えないです……」


<ソフィー>

「被検体、お主は錬金術によって生まれた。であれば変容魔術の適性が高い。それに人ならざる存在のお前はキャッチボールのような人の感覚は通用せん。


ならば分身を隣に生み出すように自らの体を変化させ切り離すイメージ。呪術的なイメージであれば魔弾も飛ぶかと思うての」


言葉がいちいちしゃくに触る。

でもやってみなければいつまでたっても上手くならない。


<シリウス>

「まあ、やってみるけど……………………」


バルーンアートやる時みたいに長い風船を小さい玉に分けていくようなイメージを思い浮かべる。


<シリウス>

「観測者よ掌握せよ!

我引くは大いなる弓張月!」


魔力が昨日よりも纏まっていくのを感じる。

今度は行ける気がする!


<シリウス>

弾丸バレット!」


遠くへ飛べるよう思いっきり叫んだ。


青い弾丸はふわふわとゆっくり移動して、1メートルいかないかくらいで霧散した。


<シリウス>

「……………………」


<ミスガイ>

「飛んだ!飛んだよシリウス君!やったね!」


彼はとても喜んで僕にハイッタッチしてくれた。

あんまり上手くいってなかったけどなんだか嬉しい。


<シリウス>

「あ、ありがとうございます!」


<ソフィー>

「微々たるものじゃがの。ちゃんと飛ぶのにいつまでかかるのやら」


僕達は一通り練習した。

女は飽きたのかまた早く帰ってしまったが。

昨日のようにベンチに腰掛けて彼と話す。


<ミスガイ>

「最初よりは飛ぶようになったね!」


<シリウス>

「それでもちょっとですけどね」


僕以上に嬉しそうに魔弾が飛んだことを喜んでくれた。

ここを出るまでには何とか形にしたいな。


<ミスガイ>

「ねぇシリウス君。聞いてもいいかな」


<シリウス>

「どうしました?」


<ミスガイ>

「………………ボクの事どう思ってる?」


☆いっしょに!なになに~☆


第二次魔術大戦

800年前に起きたとされる魔王軍との戦い

戦火は世界を巻き込み、死傷者は当時の人口の半分まで渡ったという


大戦時、特に九家の魔女と呼ばれる魔王軍の精鋭は脅威であり

その狡猾さ、残忍さ、圧倒的な力は後世まで語り継がれ、現在でも多くの人々に恐れられている。


魔術の分類

構築魔術:物質の構築 

     炎 水 魔弾等

     

変容魔術:物質の変化 

     呪術 錬金術等


伝承魔術:物語の魔術、まじないの再現

     ルーン 神聖魔術等

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