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9話 海上都市アヴィーチェ

澄み渡る青い空。

立ちのぼる白い雲。

カモメの鳴く声が響き、

海の上で僕達はボートに揺られている。


<ファリア>

「良い天気じゃなあ。部屋で実験をするのも良いが、こうやって波の音を聞き、小舟に揺られるのも乙なものじゃ」


<シリウス>

「はあっ、さっきからっ、僕しかっ、漕いでっ、ないんっだけどっ」


<ファリア>

「被検体であるお前が妾のために漕ぐのは当然じゃろうて。それにこのペースじゃと着くのは夜になってしまうぞ。ほれ、早く漕げ」


<シリウス>

「分かってるって!」


オールを一生懸命動かしながら僕達はある場所を目指している。

どうしてこんな事になったかというと………


――――――


少し前

カカミトより南西300km上空 空飛ぶ家


<シリウス>

「そういえばこの家ってどうやって飛んでるの?」


<ファリア>

「基本的には大気中にある魔力を吸収して飛んでおる。飛行術式を長時間維持するのは疲れるし面倒じゃからな。」


<シリウス>

「へぇ〜大気に魔力があるんだな~」


<ファリア>

「この世界はあらゆる物に魔力が込められておる。この部屋全ての物もそうじゃ、少なからず魔力が篭っておる。」


辺りを見回す。魔力的な何かを感じるわけでも無かったけど、窓、机、床、空気、僕の目の前にあるもの全てに魔力が宿っているのか。


<ファリア>

「転生者は魔力を持っておらん者もいるから、この世全てのものとはいかんがな。」


モリタミの人々を思い出す。

サトウや裕平は転生者だったけど魔術は使えないって言っていた。

彼らを思い出すとまだ胸が痛くなる。


<ファリア>

「しかしお前は妾の作ったホムンクルス。なのに魔力探知に引っかからないのは疑問じゃ。変身したのじゃから魔力を持ってる筈なのにの。」


<シリウス>

「そうなの?」


どうやら今の状態は魔力を持っていない判定らしい。


<ファリア>

「これはまた実験しないといけないのぅ?」


<シリウス>

「おい!やめろ!実験されるならここから飛び降りた方がましだよ!」


<ファリア>

「ほう、やれるものならやってみたらどうじゃ?」


ガタン


飛んでいた家が止まり、大きく揺れる。


<ファリア>

「ん、何か嫌な予感が」


その言葉を聞いた直後、家が落下していった。

床から足が離れて体が浮いている!


<シリウス>

「ああああああああー!これ落ちてる落ちてる!」


窓から下を見るとビーチが見えた。

海岸線に沿っていくつも高層ビルが立ち並び、数多の空飛ぶ車が行き交っている。観光地みたいだ。

そのビルの形が、街の風景がどんどんはっきり見えて―――


<シリウス>

「このままじゃ街に落ちちゃうよ!」


<ファリア>

「システムが言うことを聞かん。これは完全に壊れたな」


<シリウス>

「え、じゃあこのまま落ちておしまい?」


<ファリア>

「そうじゃな。まあ、妾は魔法使いじゃから何があっても生き残るがの」


<シリウス>

「悠長に喋ってないでなんとかならないの!?」


<ファリア>

「何とかしてやらんでもないがの?ほれ?」


僕に《《あれ》》を言え、と言わんばかりの表情をしている。

あれは絶対に嫌だ。だけどこのままじゃ落ちて死んじゃう。

………………クソッ!


<シリウス>

「………”実験”して良いから何とかして!」


僕の苦悶な表情と実験の言質が取れた事、それが非常にご満悦だったらしい。

ウキウキしながら魔術を唱える。


<ファリア>

「仕方ないのう、ほい、ritardand(リタルダンド)


急減速していく家はふらつきながらも街からどんどん離れていく。

そうして人のいない砂浜に地面すれすれで停止した。


<シリウス>

「止まった?」


落下と揺れが収まったと一安心した途端、


砂浜に着地した衝撃で家が崩壊した。


<ファリア>

「あーあ、家がめちゃくちゃじゃ」


瓦礫を浮かせ、バラバラになった家から出てくる女。

家具に埋もれた僕をよそに、何かを探している。


<シリウス>

「ごほごぼほっほっほ………やっと出られた………」


女は瓦礫から一つの基板みたいなものを見つけ出した。

基盤には僕の頭ほどの魔石が付いているが、縦に割れている。


<ファリア>

「空中制御の魔石がこの様とは。久々に飛ばしたから色々脆くなっておったか」


<シリウス>

「どうするの?家も壊れちゃって、これじゃあモリタミの所まで行けない」


<ファリア>

「分かっておる。家のリフォームは必須じゃし、色んな物が買えるところが近くにあれば………」


後ろを振り返ると街が見える。

さっき上空で見た海辺のリゾート地。

街の看板にはこう書いてあった。


|――――――――――――――――――|

| ようこそ!()()都市アヴィーチェ! |

|――――――――――――――――――|

          |

          |


<ファリア>

「アヴィーチェ?この街があのアヴィーチェなのか?」


<シリウス>

「知ってるの?」


<ファリア>

「昔よく行っておっての。じゃが、妾の知っているアヴィーチェは海の上にあったんじゃが」


<シリウス>

「もしかして、あれの事?」


海の方を見渡すと、遠くに黒い島のようなものが見えた。


<ファリア>

「そうじゃ!あれじゃよあれ!場所も分かった事じゃし、船場に行くぞ、被検体」


piano(ピアノ)


女が魔術を唱えると、瓦礫と化した家が手のひらサイズまで小さくなり、腕の中に吸い込まれていった。


<シリウス>

「え!今のどうやってやったの!?」


そう女に聞こうとした時


<男1> 

「おい、お前達、ここで何をしている?」


<男2>

「アヴィーチェ警察だ。ここでは規定外の魔術の使用は禁止されている。我々と署まで来て貰おうか」


スーツ姿の男二人が僕達に話しかけてきた。

警察を名乗る男達は手錠を持って歩み寄ってくる。


<ファリア>

「面倒じゃの、conduct(コンダクト)


女は杖を二人に向ける。

男達は眉間に手を当てて苦しそうにした後、


<警官1>

「ああ、道に迷っていたんですね!すみません。人気のない所だったもので。」


<シリウス>

「これってもしかして洗n」

女が僕の口を手で塞ぐ。


<警官2>

「警戒解除っと、お二人は一体どこをお探しで?」


じゃあ、と言って船着き場まで案内して貰うことにした。



* * * * * * *


海岸都市アヴィーチェ ミッドタウン


<シリウス>

「わあああああああ、すごいですねこの街!」


<警官2>

「そうだろう?レヴィリオンの中でも屈指のリゾート地だからね」


通りには大勢の人が行き交っている。

観光客なのか薄着の人や、水着を着たまま歩いている人が大勢いた。

空中にはいくつもの商品広告が浮かんでおり、あちらこちらから食べ物の良い匂いがする。

雲を突き抜ける程のビルが建ち並び、人々の上を数え切れない程の車が飛び交っている。


目覚めた時には遠くからしか見えなかったけど、未来の都市が今目の前にあった。

初めての光景にずっと上を見てしまう。


<シリウス>

「ほんとに車が空飛んでる………」


<警官2>

「初めて見るかい?もしかして住んでるのって結構田舎の方?出身は?」


<ファリア>

「”リュージュ”じゃ、リュージュ」


(あまり喋るな。疑われる。)

(悪い。リュージュって?)

(極東にある島じゃ。)

ヒソヒソ声で女と話す。

どうやら警官には気づかれていないみたいだ。


<警官2>

「ああ、確かにあそこはかなり田舎ですよね」


<ファリア>

「しかし、昔ここはこんなんじゃ無かったんじゃがの」


<警官1>

「100年ほど前に再開発がありまして、今も新しい施設を作っている最中なんですよ」


<ファリア>

「なるほどの」


<警官1>

「ところで、あちらのアヴィーチェにはどのような要件で?」


<ファリア>

「知り合いに会いにな」


え、そうなの?初めて知ったんだけど!

口に出そうなのを必死で手で抑え、上を向く。

そうして目に入ったのは、一際巨大な空中広告。


驚きの空をあなたに。新型車 FAB-500

ルーンショット


もはや車の原型は無く、卵形の乗り物だった。タイヤがないのでもはや別の乗り物の気がする。

今飛んでる車は少なくともタイヤがあるが、もはやそれも要らなくなるらしい。


<ファリア>

「ほれ、何をしておる、置いていくぞ」


<シリウス>

「待って!」




――――


そして船着き場まで案内してもらい、小舟を借り、今に至る。


<シリウス>

「もっと色々見たかったな~ほんとにあっちじゃないの?看板にもアヴィーチェって書いてあったし」


<ファリア>

「妾が知っているのは向こう(海の上)のアヴィーチェじゃ。なぜアヴィーチェを名乗っているのかは知らんが。それに………ああいう街は嫌いじゃ」


言葉を吐き捨て、海岸線から目をそらす女。

あの街に何か嫌な所があったのだろうか。


<シリウス>

「そういえばボート借りられてほんとよかった」


<ファリア>

「昔はもっと多く行き交っていたのじゃがの、1日に1回しか船が出ていないとは」


今日のアヴィーチェ行きの船はもう出てしまったようで、かろうじて店に飾っていたボートを貸してくれたのだ。


<ファリア>

「それに一銭もお金持ってなかったし」


女が持っていた装飾品と引き換えに船を貸してくれたからよかったけど。


<ファリア>

「基本妾は自給自足で生活していたからの、自分で何でもやっておったし。金とは無縁なのじゃ」


<シリウス>

「へえ~自給自足とはね、さすが魔法使いと言われてるだけはある」


女は機嫌を良くしたのかフン、と言ってドヤ顔をしている。


<シリウス>

「だったら早く着けるように魔術でなんとかしてくれない?はぁ、さすがに疲れてきた」


<ファリア>

「情けないの、それでも妾のホムンクルスか。手漕ぎボートしか無かったんじゃから頑張って漕ぐしかないじゃろ」


<シリウス>

「あんなに発展してるのにここだけ人力なんて!どこかに魔術が発動する何かとか付いてないかなあ?」


少々ヤケクソになりながら船の中を探す。


<ファリア>

「ほれ、柄に四角い部分があるじゃろ。そこに魔力を込めてみよ、多少は早く漕げよう」


<シリウス>

「じゃあ早く言ってよ!」


本当に早く言って欲しかった!とりあえず言われたとおり魔力を込めようと柄を強く握る。


<シリウス>

「何にも起こらないけど………」


<ファリア>

「まだ魔力は出せぬか」


何度も手を握るが、特に何も起こらない。


<ファリア>

「仕方ないの、ほれ貸してみよ。魔力を込めるとはこうやるっのじゃ!」


女がオールを一漕ぎすると、小舟がモーターボートの比じゃない速度でかっ飛んでいく。


<ファリア>

「やっほ~い!良いスピードじゃ、これならすぐに着ける。どうじゃ?こうやって………って被検体よ」


<シリウス>

「おろおろげrぽpごろごぼろごおろおごっg………飛ばすならそう言ってくれ」


あまりの急加速に体が着いていかず、海に思いっきり吐いた。


<ファリア>

「ほら、しゃっきりせえ。見えてきたぞ」


顔を上に向ける。遠くから見た黒い島のようなものは海に浮かぶ城壁だった。

その上から中世風の建物が見え隠れし、中央には西洋式の城がそびえ立っている。

まさに海上の要塞。


<シリウス>

「着いた………………おろbごおごろごごろごbほばおほ」


  ―――――――――――――――――

    9話 海上都市アヴィーチェ

  ―――――――――――――――――

☆いっしょに!なになに~☆


大気の魔力

大気には魔力が宿っており、熟練の魔術師は空気中の魔力を使って魔術を行使できる

車や電車、飛行機、家屋の明かり等は空気中の魔力を一部取り込んで動いている。

かつては魔力が空気中に満ち満ちていたが、現在では減少傾向にある

そのため、大気の魔力の使用制限が設けられている



FAB-500

ルーンショット社による次世代型車両

軍事用車両であるFABの全周天モニターを民間用に改修

車の形状は車輪をオミットし卵型

さらに動くリラクゼーションをコンセプトに操作系統は無くし完全自立飛行運転、

室内のカスタマイズ性を高めるため、魔術で空間を広げ、ソファーやベッド、シャワー室が置ける程広い



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