愛に生きる者①
年が明け、ララスティは王妃であるコーネリアが主催する、貴族子女を集めたお茶会に参加することになった。
保護者としてアマリアスが付き添うが、ララスティは十二歳になっていることもあり、アマリアスは離れた場所で他の貴族夫人と楽しく歓談するにとどめている。
コーネリアは夫人たちと貴族子女を同時に眺めることが出来る場所に位置し、時折自らが動くか、気になったものを呼びつけて会話を行う。
(ハルトから、ララスティ嬢とカイルの仲の良さを広めるように言われているけど……)
コーネリアはそう考えながらカイルとララスティに視線を向ける。
ララスティは友人と席を囲み歓談し、時に年不相応な真剣な空気を出し、時に年相応な笑みを浮かべている。
一方、カイルの席にはエミリアが陣取っていることもあってか、家から指示を受けてカイルの傍についている子息以外、誰も寄り付かなくなってしまっている。
(カイルが国王になるにはララスティ嬢との結婚が絶対条件なのに、あの小娘が邪魔をしているせいでうまくいかないわ)
カイルの出生が明らかになり、コーネリアの愛する男はどこかに連行されていった。
ずっと愛していたが、ハルトからの真摯な愛に自らの想いを封印し、ハルトを愛するようになったが、周囲はそれだけでは許してはくれなかった。
なかなか生まれない次代を期待する空気は、コーネリアの心を重くしていき、だんだんと自分が苦しんでいるのはハルトのせいなのだと、自分の意思で求婚を受けたのにもかかわらず思うようになっていった。
そして、封印したはずの想いは徐々に蘇ってきて、心のどこかにあった諦められなさから実家から連れてきていた愛する男に縋るようになった。
年の離れた妹のようにしか思っていなかったはずなのに、次第に主従の関係から男女の関係にと変わっていった。
ハルト以外と関係を持つようになってしばらくして、懐妊が判明しコーネリアは怯えたが、生まれるまではどちらの子供かはわからないとして、ハルトの子であることを祈った。
だが、結果は赤髪の子供が生まれ、ハルトには祖父の髪の色と同じだと説明しその時は納得されたが、子供の父親は不貞相手だと後に明かされてしまう。
本来ならその時に自らも責任を取って王妃の座を降りるか、病死として毒杯を受ければよかったのだが、流行り病で疲弊した国に王妃の病死という重荷を背負わせることは得策ではないという判断から見逃された。
だが、それはコーネリアが王妃だったから免れたのであって、不貞相手の平民である男は違う。
コーネリアは貴族に生まれた娘として、王妃となったものとして愛する男が存命しているとは既に思っていない。
だからこそ、忘れ形見であるカイルの輝かしい未来を期待してしまう。
本来ならそのようなことを夢見る資格など、どこにもないのに。
「カイルとララスティ嬢をここに呼んでちょうだい」
コーネリアが侍女に告げると、侍女がララスティとカイルの元に向かい、それぞれが話していた子息令嬢に断りを入れてコーネリアの元にやってくる。
「母上、またですか」
カイルが呆れたように言いながらララスティの椅子を引いて座らせてから、その隣に自分も座る。
「だって、カイルったらララスティ嬢を放っているんですもの。母親として橋渡しをしてあげているの」
コーネリアは困ったように微笑みながらも、ララスティに同意を求めるように視線を向けたが、ララスティもまた困ったような微笑みを返した。
お茶会が始まってから、こうして何度かララスティとカイルがコーネリアのテーブルに呼び出されている。
初めは同じテーブルにつくように言われたのだが、エミリアがカイルについて移動してくるため、空気が微妙なものになってしまう。
そのためカイルが気を使って移動すると、やはりエミリアがついていき、誰もカイルのいるテーブルに行かないため、家からカイルと仲良くするよう指示をされている子息が移動したのだ。
「こうして二人がわたくしの傍で仲良くしている姿を見せることで、アピールできるでしょう?」
ララスティはコーネリアのこういうところは貴族らしいと考えてしまう。
王妃として政務を問題なく行っているコーネリアは、人々に対する印象操作も得意としている。
ルドルフからの話だと、コーネリアはカイルの出生が明らかになった際、カイルと共に死ぬことも考えていたらしいが、今は自分の子供であるカイルが国王になることを願っているという。
(愛する人との子供を国一番の存在にしたい、ということなのでしょうね)
ララスティにはその気持ちはわからない。
繰り返しの人生を生きているとはいえ、ララスティの記憶は二十歳で終わっており、子供を産んだ記憶はない。
ルドルフやクルルシュからの話でその後の結果として理解はしているが、それだけだ。
そこに感情はともなわれない。
会話内容が聞こえない者からすれば、コーネリアと同じテーブルを囲み、カイルとララスティが交流を楽しんでいるように見えるだろう。
参加している夫人や子息令嬢はその様子を微笑ましく眺めていたが、一部その状況が気に食わず睨みつけている者もいる。
もちろん、エミリアとクロエだ。
(なんでお姉様がカイル殿下と一緒に呼ばれるのよ)
エミリアはカイルがいなくなって話す相手がいなくなり、無言でララスティを睨みつけている。
(あたしとカイル殿下の仲を応援するって言ってたのに、王妃様にああしてアピールしちゃって!)
イライラしながら睨みつけていると、不意に名前を呼ばれてエミリアが視線を向けると、同じテーブルについている子息が困ったように眉尻を下げている。
「カイル殿下とララスティ嬢の旅行に、エミリア嬢がついていったとお聞きしましたが……」
「はい! カイル殿下にお願いをしたら、ついて行っていいと言ってくれたんです!」
「そうですか」
エミリアの言葉に子息たちが不愉快そうに眉を顰める。
「どうしてついて行こうとお願いをしたんですか?」
「え?」
その質問にエミリアはきょとんと眼を瞬かせる。
「カイル殿下と一緒に居たいからに決まってるじゃないですか」
他に理由などないと言わんばかりのエミリアに、子息たちが視線を交わした。
「そうですか。てっきりララスティ嬢と交流する時間を作るためだと思ってましたが、カイル殿下と一緒に居るためですか」
「お姉さまと交流ですか? なんでそんなことをする必要があるんです? 家族なのに今更交流とか必要ですか?」
不思議そうに聞き返すエミリアに、子息たちは呆れつつ、冷たい視線を向ける。
「ララスティ嬢がランバルト公爵家を出ているのは周知の事実ですよね。そもそもそれ以前も、おひとりで別邸で暮らしていらっしゃいました。家族とはいえ十分に交流できていたとは思えません」
「……でも、家族だから改めて交流する必要ないですよね。お父さんもお母さんも、お姉さまと一緒の時間を過ごそうとなんてしてませんし、お爺様もお婆様も別邸に行ったことはないと思います」
エミリアの言葉に子息たちは「そうですか」と頷き「失礼します」と断りを入れて席を立って移動していった。
一人になったエミリアは首をかしげながら、近くにいるメイドに「お腹がすいたからケーキを何個か持ってきて」と命令した。
「どちらのケーキにいたしましょうか。お好みをお聞かせいただければいくつかこちらで選ばせていただきます」
「じゃあ、酸っぱくないやつがいいわ」
その言葉にメイドは頷くと一度場を離れ、しばらくしてカートに十個ほど小ぶりなケーキを載せて戻ってくる。
「お待たせいたしました。どちらのケーキがよろしいですか? ご希望があれば味もご説明させていただきます」
メイドがそう言ってカートの横に立っていると、エミリアが立ち上がってカートに近づきケーキを覗き込む。
「なんか、小さいものばっかりですね。まあいいですけど」
エミリアはそう言うと、チョコやフルーツをたっぷりと使用したケーキを横にある皿にのせていく。
「エミリア様、サーブでしたら私が」
メイドがそう言うも、「いいの、あたしが持っていった方が早いですから」とエミリアは言って席に戻ってしまう。
その様子にメイドは呆れたような視線を向けたが、無言でカートと一緒に場を離れて行った。
その光景を見た子息令嬢や夫人たちは呆れた視線を向けた後、近くにいる人とヒソヒソと言葉を交わした。
なにげにコーネリアがちゃんと出るのって初めてですかね?
っていうか、カイルの実父の話を出したのも初めてですかね?(汗
コーネリアの愛人は、コーネリアの実家から連れてきた護衛騎士で、一回りぐらい年上の平民です。
今生きているのかなどは、まあ……ね?(*´▽`*)
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