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ある意味彼らは似たもの親子

 シングウッド公爵領から王都に戻ると、エミリアは大量の荷物(・・・・・)を持ってカイルと一緒の馬車に乗りランバルト公爵家に帰った。

 その姿はなぜか多くの人に目撃されることになり、婚約者であるララスティを差し置いて、異母妹を王家の馬車(・・・・・)で送り届けたカイルへの批判の声が上がる。


「カイルは何を考えているんだ。せっかくルドルフがララスティとの良好な関係を宣伝するための旅行なのに、あの小娘を連れてくるどころか、王家の馬車で送迎するなど……」


 王都に戻って来た翌日、すぐさま王宮に呼び出したルドルフから旅行中の説明を受け、ハルトは深くため息をつく。

 確かに、カイルとララスティの仲がいいという話は広まったと、ハルトが派遣していた者からも報告を受けている。

 ただ、それ以上にエミリアの常識のなさと、それを咎めないカイルへの不信感を持つ声が大きく上がってしまっているのだ。

 しかも今回は貴族だけではなく、商人から街に散策した際に我が物顔でカイルの隣に侍るエミリアの姿が領民に目撃されており、平民から取引や旅行で訪れている帝国民にも話が広まっていると言う。

 もちろん、異母妹に好きにさせているカイルだけではなく、ララスティもしっかり戒めるべきだと批判の声も上がっていたが、そのような話が出れば、どこからともなく実家での扱いや暴力を受けていたことが伝わり、ララスティへの批判は鳴りを潜めてしまう。


「ララスティが抑えているので、コール兄上からの抗議はありませんが、ララスティを擁護している貴族家からは批判の嵐ですね。我が家にもさっそく旅行の責任者として、毅然とした態度を取るべきだったと、ありがたいご意見が届いてますよ」

「ふん……早晩でそんなわかりやすい(・・・・・・)抗議文を届ける家はまだ(・・)扱いやすい。本当に怖いのは、ララスティの考えに沿って沈黙している家だ」


 ハルトの言葉にルドルフは内心で笑う。

 今更そのことに対し危機感を抱いても遅い。


「…………それでも、ララスティとカイルの仲自体は良好なのは確かです。兄上は何を不安に思っているのですか?」

「隠居した爺さんたちが、秘かに動いているという情報が入っているんだ」

「へえ?」


 その言葉に、裏で動いているのは二人の父親である先王、グレンジャーだとハルトは暗に伝える。


「お年寄りが集まって、悪だくみをしているとでも?」

「父上に協力を続けてきた年寄りどもだ。隠居しているとはいえその影響力はまだ強く残っている。何を企んでいるのかは……考えたくないが……」


 ハルトはそう言って大きく息を吐きだすと「だが」と言葉を続ける。


「カイルがこのまま不適切な態度を正さないのであれば、その名は消されることになるだろうな」


 自嘲気味に笑うハルトに、ルドルフは托卵されているとはいえ、今まで息子として過ごしてきたカイルへの情があるのかと、気づかれないように目を細める。


「ララスティの子供が正当に王位につけるよう、私なりに努力していますが……」

「ああ、ルドルフには苦労をかけているよ」


 どこか疲れたように笑うハルトに、ルドルフは内心で笑ってしまう。

 信じて託している異母弟は、確かにララスティの子供が正当に王位につけるように動いている。

 けれどもその正当性は王太子妃となって子供を産むことだけではない。

 国王と貴族にその血の正統さを認められさえすればいい。

 少なくとも、優しく優秀なだけ(・・)のカイルよりも、生まれてくる予定の子供は王族の血を色濃く受け継ぎ、前回のようになるのならその優秀さも約束されている。

 なによりも、ララスティの子供の後ろ盾には帝国が付くことが、クルルシュとの密約で決まっている。


「私の苦労はいずれ報われると信じていますから大丈夫です。それにしても、お年寄りの動きは私の方でも探りましょうか?」


 ルドルフの言葉にハルトは小さく首を縦に動かす。


「………………もうすぐ、兄上のお母君の命日でしたね」

「ああ、そうだな」

「王家を代表して母上が墓参りに行くのに付き添う予定になっています。帰りに父上のところにも寄るでしょう」

「そうか」


 ルドルフの言葉に安心したように頷くハルト。

 これで、ルドルフはララスティへの接触だけでなく、グレンジャーへの接触に対する建前を手に入れることになった。


 そこまで話し、気分を変えるように紅茶を一口飲んだハルトは、「それで……」と口を開く。


「ララスティの養子縁組の話は、どこまで進んでいるんだ? もうアインバッハ公爵家で生活しているんだろう?」

「そのようですね。一応、ランバルト公爵家が契約を守れなかったら養子縁組をすることになっていますが、まあ……守れないでしょう」

「ほう?」

「ランバルト公爵家の領地では、未だに治水工事が始まってすらいません。領民とまだ和解出来ていないと言っていますが……派遣した者に聞いたところ、工事予定に関する立ち退きの件でもめているようです」


 ルドルフの言葉にハルトが頷く。

 予定されている大掛かりな治水工事が実行されれば、住居をはじめとして大きな移動が必要になると計画書を見せてもらっている。

 それに伴い多くの領民に影響が出るのだから、交渉が長引くのも仕方がないのだろう。

 だが、だからこそコールストだけではなくルドルフが、期限を決めて不履行になる前提で条件を付けていたのが不思議でしかたがない。

 たとえそこに、亡くなった従兄妹のミリアリスが不当な扱いを受けていたとしても、だ。


「先代のランバルト公爵の時は領地運営をしようとした努力はありました。まったく意味を成していませんでしたけどね。しかし、今のランバルト公爵は駄目(・・)です」


 きっぱりと言い切るルドルフに、続きを促すようにハルトが頷く。


「ミリー姉上に対する行いも、ララスティに対する行いもそうですが……領地を持つ当主として、ありえませんね」

「支援を受けているにもかかわらず、領地経営に興味がないという話は知っている」

「興味がないどころじゃありませんよ」


 ルドルフはアーノルトが何十年も領地に足を踏み入れていないこと、アインバッハ公爵家からの支援があることで、領地からの税金はすべて私生活に宛てていることを伝える。


「なによりも、何の補償もせずに領民に立ち退きを命令しようとしたのを、前公爵が間に入って交渉に切り替えているのです。領民は新しい住居、生活に困らない仕事、当面の生活資金を求めているだけなのですが……」

「当然の要求だが、補償金で無茶な金額でも要求しているのか?」


 ハルトの言葉にルドルフはため息とともに首を横に振る。


「立ち退き指定範囲には作農地や酪農地が含まれています。領民は決して無茶な要求はしていません。ですが、ランバルト公爵は領民の努力と成果を蔑ろにしているようですね」

「ふむ」


 困ったように頷いたハルトを見てから、ルドルフは紅茶を一口飲む。

 実際のところ、ランバルト公爵領で絶対に治水工事をしなければいけないかといえば、そうではない。

 ただ、そこで治水工事を行うと関連した領地が恩恵を受けることが出来る。

 例えランバルト公爵領であっても、資金を出したのと主導したのがアインバッハ公爵家であるのなら、その手柄はアインバッハ公爵家のもの。

 契約書にもそのように記載されている。


「お爺様の最後の温情だったのに、ランバルト公爵家はまったく生かせなかったようだな」

「ええ、残念ですよ」


 アーノルトの曾祖父がルドルフ達の祖父を体を張って守った過去の功績により、没落の危機にあったランバルト公爵家を救うため、ミリアリスとの縁組、アインバッハ公爵家からの支援を王命で取り付けたのにそれが意味を成していない。

 意味を見出すとすればミリアリスがララスティを生み、今に至るまで大きな病やケガなく生き延びさせたことだ。


「ランバルト公爵は不作や流行り病で領民が苦しんでいても、過去に自分が見た領地のままであると思い込み、大丈夫だと思っているのでしょう。彼の祖父が当主を務めていた、まだ普通(・・)の状態だった時の領地と今の領地では、全く状態が違うのに」


 そう言って作り物の苦笑を浮かべるルドルフに、ハルトは「ララスティの養子縁組に関しては、王家からも後押しをしよう」と一言口にした。


久しぶりにハルトが登場しましたねw


でも、ハルトはルドルフのたくらみに気づいていませんし、父親が何かしようとしていることは察しましたが、その内容はあくまでも「カイルの排除」だと思っています。

その延長線上にララスティが王族に名前を連ねるかもしれないとは考えています。

だがしかし、そこに父親と異母弟が結託しているとは考えていません。


実はこのお話で一区切りなのです!

次話から章がかわりますのことよ!!!

早く続き書けよ! ここまで長いんだよ! と思っているあなた! 私もそう思います!

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