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変わる者、変わらない者②

 シングウッド公爵領に到着した翌日の夕方、次期当主と王太子であるカイルの訪問を歓迎するパーティーが開催された。

 当然主役はルドルフとカイルだが、カイルの婚約者であるララスティも当然注目される。

 華美ではないが、子供らしさを残しながらも品よくまとめられたドレスを着こなすララスティ。

 そのドレスに使用されている生地や装飾品はシングウッド公爵領で用意されたものだ。

 自然とララスティへの好感度が上がっていく。


「ララスティ様。そちらの髪留めが御髪にとても映えていますね」

「ありがとうございます。こちらに到着してすぐに購入したのですが、とても気に入っておりますの」


 微笑んで言うララスティに周囲が満足そうに頷く。

 ドレスに関しても、着心地がよくて気に入っている。サイズの直しもすぐにしてくれてとても動きやすいと絶賛するララスティは、自然と周囲に受け入れられていく。

 そして周囲はララスティの隣に立つカイルを向ける。

 王太子であるカイルがシングウッド公爵領を訪問し、長期滞在することは珍しい。

 この機会にお近づきになりたい、交流を深めたいと考える者は多い。


「カイル殿下は以前もこちらに来てくださいましたが、お気に召してくださいましたでしょうか?」

「はい。発展している場所なのにしっかりと自然が残っていて、気分転換する場所がしっかりあって、逆に仕事がはかどりそうですね。王都では息抜きをする時間を取ることがなかなかできなくて」


 カイルは苦笑して王都の息苦しさを冗談交じりに話し、周囲の笑いを誘う。

 和やかなパーティーになっているが、会場の端に居るエミリアは面白くなさそうに会場を眺めている。

 そして不意にニヤリと笑い、ララスティとカイルの方へ進んで行った。


「楽しそうですね。あたしも混ぜてもらっていいですか?」


 エミリアの登場に周囲が少々驚きを見せつつも、「ごきげんよう」とエミリアに挨拶をしていく。

 それに適当に返事をしながら、エミリアはニコニコと笑みを浮かべる。


「お姉さまはこちらの品物が本当に気に入ったみたいなんです。ついて早々に、滞在期間中の間に身につけるものを全部用立てたんですよ。王都から持って来たものもあるのに、すごいですよね」


 周囲の参加者はエミリアの言葉に驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔を取り繕う。


「そのようにこの領地をお気に召していただけて、我々も嬉しいですね」

「もしかしたら、このままここに住み付いちゃうかもしれませんね」


 笑って言うエミリアに、全員が咄嗟にカイルを見るが、カイルは「それは困るな」と困った笑みを浮かべると、ララスティの腰に手をまわして自分の方に引き寄せた。

 初めてされる行為にララスティが本気で驚いて目を大きくすると、カイルは「プハッ」と笑いをこぼした。


「そんなにめを大きく開いたら綺麗な瞳がこぼれちゃうよ」

「いきなりこのようなことをされれば、驚きもしますわ! しかも人前で急に……」


 すぐさま「照れて恥ずかしがる婚約者」を演じたララスティだが、周囲は初々しい婚約者同士の二人を微笑ましく見守る。


「あはは、ごめんごめん。でもこっちに来てすぐにララスティ嬢が叔父上と買い物に行って、寂しかったんだよね」

「何をおっしゃってるんですか、もう」


 カイルはララスティの腰から手を離さず、クスクスと笑ってから「僕が買ってあげたかったのに」と笑った。


「ドレス代はアインバッハ公爵家に請求されますわ。いくら婚約者にであっても、滞在期間中のドレスやアクセサリー類一式をプレゼントなんて、財務担当に怒られてしまいますわよ」

「うーん、ララスティ嬢はあまりものを欲しがってくれないから、婚約者用の予算には余裕があるよ」

「そうでしたの? でも、催し物に一緒に参加する際にドレスなどは贈ってくださっていただいておりますわ」

「周囲に聞くと、婚約者にはもっと貢ぐらしいよ? 皆さんどう思います?」


 カイルが周囲に尋ねると、カイルが正しいと笑う。

 贈り物をし合うのも交流を深める手段の一つだと言われ、ララスティが「でも」と拗ねた顔で反論をする。


「カイル殿下はわたくしが差し上げたハンカチのお返しにと、手の込んだ髪飾りなどをくださいますの。お返しが何倍にもなりすぎですわ」

「そのハンカチは、ララスティ嬢がすごい繊細な刺繍をしてくれたものじゃないか。時間的対価は同じだよ」

「そういう問題ではありませんわ」


 ちょっと怒ったように頬を膨らませたララスティに、カイルが「えー?」と言って笑えば、周囲にも穏やかな笑いが広がっていく。

 どこまでも仲の良い婚約者という印象を与えるララスティとカイルに、当然エミリアが気分を良くするわけがない。


「そうなんですよ! お姉さまの刺繍は本当にすごいんですよ。あたしはどんなにがんばってもお姉さまには勝てません」

「もう、エミリアさんまでそんなことを言って、恥ずかしいですわ」


 ララスティが照れたように言うと、エミリアは「いえいえ、本当にすごいですよ!」と笑う。


「あたしもがんばりましたけど、刺繍の先生にはまだまだ頑張りましょうって言われます」


 しょんぼりと落ち込むような表情を浮かべたエミリアに、周囲が「教師なんてそんなもの」と笑って慰めた。


「そうなんですか? それにしても、カイル殿下がお姉さまに義務(・・)じゃないプレゼントしてたなんて、びっくりしました。どんなものを贈ったんですか? あたしが見たことあるやつですか?」


 エミリアがそう言った瞬間、ララスティがカイルの横でビクっと体を震わせ、ちらっとエミリアを見た後すぐに視線をそらした。


「え、ええ……」


 気まずそうにエミリアから視線をそらしたまま答えるララスティに、エミリアは「ふーん」と笑う。


「あたしもお姉さまみたいに、素敵なものを贈ってくれる婚約者が欲しいです」


 そう言って意味深にカイルに視線を投げかけたエミリアに、周囲は戸惑ったような空気になったが、「エミリア嬢はかわいらしいから、すぐにいい人ができるさ」とカイルが言ったことで、「そうですね」と同意して和やかな空気に戻した。

 その空気も気に入らないエミリアは「あたし、結婚するなら愛し合って結婚したいんですよね」とポツリと言う。

 その言葉に、周囲はエミリアを結婚に夢を見る子供と捉え、「そうなるといいですね」とにこやかにエミリアを見る。


「お父さんはあたしに家を継げって言ってるんですけど、あたしには当主とかって無理だと思うんです。旦那様に愛されて、ゆーっくりする生活があってるんですよ」


 続けられたエミリアの言葉に周囲は苦笑してしまう。

 家を継ぐことになる子供がよく抱える不安、逃避願望などは理解できるのだ。

 けれども、貴族の子供であるのなら義務からは逃れられない。


「そのような生活ができればいいですが、そのような生活は貴族夫人としては問題がありますわね」

「まったくです。まあ、体調や精神的な問題があれば別ですが、貴族としての義務がありますからね」


 クスクスと笑い合う周囲の招待客に、エミリアは一瞬だけムッとした表情をしたあと、悲しそうな表情を浮かべた。


「あたし、ずっと平民として育って来たから貴族の生活にまだ慣れないんです。家族のだれも頼れないし……」


 そう言って悲しそうにララスティを見るエミリアだが、ララスティはずっと下を俯いていて表情が見えない。


「まあ、それはお気の毒に……。ご両親は? ララスティ様の異母妹ということは、お義母様とお父様が再婚なさったのですよね?」

「あ、はい。二人はあたしをちゃんと見てくれてないんです。甘やかしていればいいっていう感じで、ずっとお人形みたいに扱われてて……。それに、最近はあたしが何か言うと機嫌が悪くなるみたいなんです」

「まあ」


 うまく同情を買えたと思ったのか、エミリアはゆっくりとした口調で言葉を続けた。


「貴族になる前は、何の苦労もしませんでした。欲しいものはなんでも買ってもらえたし、友達とも楽しく過ごしていたんです。なのに急に貴族になるって言われて、友達と離れることになって寂しくて……」


 エミリアの言葉に周囲は「まあ」と同情しているように(・・・・・・・)相槌をうつ。


「貴族になっても慣れない生活が続くし……それに、あたしもずっと気づかなかったんですけど、貴族になってもあたしがお父さんやお母さんのお人形なのは変わんなかったんです。いるだけでいい、なにもしなくていい。そう扱われてたのに、最近になって急に厳しくなって……もう、あたしどうしたらいいのかわからなくて……。お姉さまも家にいないし」


 そう言ってエミリアがララスティを見たが、その瞬間エミリアは大きく目を見開いた。

 エミリアが視線を向けた先には、ララスティを慰めるように顔を寄せて話しているカイルの姿があったのだ。


パーティーのターンは1話で終わるはずだった…(´;ω;`)

話しを短くまとめられるようになりたい!


エミリアのやらかしを見守りたいと言う奇特な方はブクマや評価をどうかお願いいたします!

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