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変わる者、変わらない者①

 シングウッド公爵領の屋敷につくと、ララスティは早速ルドルフと出かけてしまう。

 残されたエミリアとカイルは必然的に二人で過ごすことになり、エミリアは人目もはばからずカイルにあてがわれた部屋を訪れる。


「カイル殿下、お邪魔しますね」


 入室の許可もなく入ってくるエミリアに、カイルについて来た侍従たちは眉を顰めるが、カイルはエミリアに対して笑みを向けた。


「いらっしゃい、エミリア嬢。荷物の整理はもう終わったのかい?」

「そんなのメイドの仕事じゃないですか。それに、お姉さまが帰ってこないとあたしの分のドレスやアクセサリーがないし」


 当たり前のように笑って言うエミリア。

 ルドルフの後押しがあったとはいえ、カイルと約束した「ララスティの権利を害さない」というものに反している自覚はないらしい。


「それにしても、こっちに来る間も思ってましたけど、お姉様が着てた服って地味でしたよね」

「過ごしやすさや動きやすさを重視したんじゃないかな? 馬車の中でほとんどの時間を過ごすし、誰かの前に出て服装を見せる必要もないから」

「ええ!? カイル殿下やシングウッド小公爵もいるのに?」


 ララスティはわかってない、というエミリアにカイルはにっこりと微笑みを返した。

 実際のところ、着飾って馬車に乗っていたのはエミリアだけであり、カイルとルドルフも過ごしやすさや動きやすさを重視した服装にしていた。

 装飾品の少ない服は長時間の移動用に考えられたものでありながら、休憩時間に体を動かしても支障がないようになっている。

 当然そのような服を準備してこず、見栄えを重視した服ばかりを着用していたエミリアは、馬車の移動中ずっと「疲れた」や「つらい」と何度も口にだしていた。

 とても前回隠れてついて来たとは思えない文句の多さに、ルドルフは何度かあからさまにため息をついていたが、エミリアは気にしてないようだ。


「それにしても、今回の旅行中の服に困らないのはいいですけど、帰りに荷物が増えるのはなんだか面倒ですよね」


 そんな文句を言いながらも、エミリアは用意された紅茶をゴクゴクと音を立てて飲み、音を立ててソーサーにカップを戻した。

 その様子を確認し、カイルは一瞬だけ無表情になった後、にっこりとエミリアに微笑みかける。


「そういえば、勉強会はどう?」

「カイル殿下が知っての通りです。先生たちはみんなあたしに厳しくて……」

「そっか、大変だね」

「そうなんです!」


 カイルの言葉にエミリアは目を潤ませる。


「お婆様はお姉さまが勉強を教えてくれるなら安心だって言ってたけど、お姉さまはあたしじゃなくて他の人の講師をしてるし、なんの意味もありませんよね」

「誰を担当するか決めるのは僕じゃないから、そこの部分はなんともいえないな」

「そうですかぁ? カイル殿下が注意してくれれば、あたしにふさわしい授業内容になると思うんですけどね」


 当たり前のようにカイルの王太子としての影響力を利用しようとしているエミリア。

 その様子に侍従たちは本当にララスティと血が繋がっているのかと疑ってしまう。

 育ちの違いがあったとしても、あまりにも利己的な考えは貴族として過ごしていくのに危険すぎる。

 王太子であるカイルに近づけるべき者ではない。

 以前から侍従たちはそう判断し、陳情しているが、カイルは「そうだね、ありがとう」と言って笑って受け流すのみ。

 王宮でララスティと交流のためのお茶会を行っている時のカイルは、余裕を持った柔らかな空気で穏やかさを見ているだけで感じることが出来る。

 二人の間にまだ恋愛感情はなくとも、共にこの国を導いていくパートナーとしての情があるのだと感じることができる。

 それなのに、エミリアと過ごしている時のカイルはどこか気を張り詰めており、柔らかな表情を浮かべてはいるが見ていて安心ができない。


「……カイル殿下」

「なにかな?」

「勉強会にあたしが参加し続けているのって、カイル殿下に会えるからなんです」

「へえ」


 カイルは優しく微笑んだまま目を細める。


「だって、お姉さまは親戚の家に外泊(・・)を続けているから、カイル殿下はうちに来てくれなくなったじゃないですか。王宮にはあたしじゃ招待されないといけないし、会えるのは勉強会の時だけなんです」


 会う機会を作ってくれているルドルフには感謝していると口にしつつも、できれば二人きりで会うだけにして欲しかったと文句を言う。

 何の用事もないのに、親しくもない他家に何度も訪問するなんてできないと理解していないエミリアは、気が利かないと続けて文句を言った。


「そんなことを言ってはいけないよ。叔父上はできるだけのことをしてくれているんだから」

「でもぉ……」


 もっとカイルに会いたいと言うエミリアに、カイルはにこりと笑みを向けた。


「ずっと一緒に過ごせる方法もあるけど、今はまだできないんだ」

「そんな方法があるんですか!?」

「うん。でも、その時は今の状況と(・・・・・)だいぶ変わっている(・・・・・・・・)けど、エミリア嬢はそれでも僕を愛して一緒に居てくれるかな?」


 カイルの言葉にエミリアは目を輝かせた。


「当たり前じゃないですか! あたしはカイル殿下の傍にずっといます!」

「ありがとう、嬉しいよ」


 嬉しそう(・・・・)に微笑んだカイルに、エミリアが思わずといったように抱き着く。

 その瞬間、侍従たちはカイルが嗤って(・・・)いるのを目撃し、ぞっとしてしまう。

 もちろんそれはほんの一瞬のことで、すぐにエミリアの体を離した時にはいつも通りの笑みを浮かべている。


「それにしても、こうしていると本当に落ち着きます」

「そうなんだ?」

「はい、この間も話しましたけど、家だとどうしても落ち着けなくて……」


 暴力こそ振るわれないが、愛情を感じられなくなってきたと言うエミリアに、カイルは困ったような笑みを浮かべた。


「前はあんなに仲のよかった家族なのに、どうしてこんなことになってしまったのかわからなくて……。あたしはただ、一緒にご飯を食べて、お茶を飲みながらおしゃべりをして、たまに一緒に買い物に行ったりお出かけして、そんな普通(・・)な生活をしたいだけなんですけどね」


 寂しげに微笑むエミリアに、カイルは「大丈夫だよ」と笑みを返す。


「買い物に行ったり出かけて遊ぶっていうことはなかなかできなくなるかもしれないけど、普通(・・)の生活をできるように、僕もがんばるよ。だから、エミリア嬢も今はつらくても耐えて欲しいんだ」

「あっそうですよね。お出かけするのもカイル殿下は大変ですもんね。はい! 大丈夫です。あたし、がんばります!」


 それからしばらくしてララスティとルドルフがいくつかの荷物と共に帰ってくる。

 出迎えたエミリアは「少ないですね」と馬鹿にしたように笑ったが、すぐにルドルフに「馬車に入りきらない分は届けさせるからな」と説明した。


「すぐにエミリアさんにわたくしが持って来たものをお渡しいたしますわね」

「そうですね、早くしてくださいよ!」


 エミリアはそう言ってララスティと一緒に部屋に向かうが、その後ろをルドルフたちもついて行く。

 部屋につくとララスティはメイドに指示を出して、こちらに来る際に持って来た鞄などを開けていく。

 そこから取り出される室内着や外出着、パーティー用のドレスにエミリアが目を輝かせた。


「流石はお姉様ですね、たくさんあるじゃないですか! もしかして親戚のお家でいろいろ買ってもらったんですか? いいですねぇ」


 ニコニコと服をメイドに指示を出して自分の部屋に運ばせるエミリア。


「衣類はそれで全てですわ。出先で新しく服も用意していただきましたので、出かける時に来ていた服もエミリアさんにお渡しいたしました」

「へえ、そうなんすかぁ」


 笑みを隠せないエミリアは次にララスティが開かせた鞄の中を見る。


「うわっ、もしかしてこれってアクセサリーですか? こんなに持って来たんですか!?」

「予定されているパーティーやお茶会以外にも、何かあった時のための予備もありますわ」

「ふーん……って、お姉様! その箱の中身もアクセサリーなんですよね? あたしにくれるんじゃないんですか?」


 エミリアが文句を言って手を伸ばすと、ララスティは焦ったように(・・・・・・)箱を胸に抱きしめる。


「こ、これは……」

「約束を破るなんて最低ですよ!」


 そう言って強引にララスティから箱を強引に奪ったエミリアが蓋を開けて歓声をあげる。


「うっわぁ! 綺麗! ふーん、こんな素敵なものだからあたしに渡したくなかったんですね。本当にお姉さまってずるいですね」

「……」


 ララスティはエミリアの言葉を聞きながらも、その手の中にある箱をじっと見た後に悲しそうに(・・・・・)顔を伏せた。

 カイルはその様子を見て、エミリアが見ていないと確認した後に、ぐっと手を握り締めて唇をかみしめたが、何も言うことなくエミリアとララスティのやり取りを見つめていた。


えへへ、下越しらえFパート作っちゃいました( ;∀;)

エミリアは自分がカイルと約束したことをすっかり忘れてるっぽいですねw


シングウッド公爵領に居る間に色々イベントを用意してますが

これはこれで長そう

本気で章分けタイトル変更したほうがよさげ?


ご意見ご感想お待ちしておりまっす!

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