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逢瀬のための勉強会③

「ランバルト公爵令嬢、貴女はなぜいつもお茶のマナーを守る事ができないのですか」

「べ、別に守ってないわけじゃないです! あたしなりに美味しく食べようとしてるだけです!」


 マナー講義の一環で開かれたお茶会で、講師と同じ席になったエミリアが早速注意を受けてしまう。

 勉強会が始まってからエミリアが注意を受けない時はない。

 公爵令嬢として、レベルの高いマナーを求められているからと言うだけではなく、身につけているマナーすら守る気がないので注意されているのだ。


「そのように一杯目からお茶を楽しむでもなく音を立てて一気飲みし、あまつさえすぐさまメイドにお代わりを要求するなど……なにかあったのかと思われてもおかしくないのですよ。なぜそのようなことをなさるのですか」

「だから! 美味しいから思わず飲んじゃったんです!」


 エミリアの言葉に周囲のテーブルに座る子女も不安そうな顔をしてしまう。

 彼らもおいしいお茶を口にしたら、一気に飲み干してしまう癖があるのだ。

 不安そうに自分たちと同じテーブルについているララスティを見る視線に気づき、ララスティがにっこりと微笑むと自分が持っているカップをソーサーに戻す。


「貴族には暗黙の了解や空気を読むという技術を求められますが、同時に言葉で表現する技術も求められています。主催している側であれば、招待客の感想を聞く時間を取り、招待されている側であれば感想を伝える時間を取る。さらに言えば、それがどのような味わいでどのような感想を抱いたか伝え合うのです。そうして交流を深めていく。お茶会の交流の始まりは得てしてそういうものですよ」


 その後ララスティは「それに、開始直後にいきなりガブガブ飲んでしまうと、なんだか主催者が待たせたせいで喉が渇いたと、嫌みを伝えているみたいに見えるでしょう?」とふざけたように笑うと、話を聞いていた子女が釣られるように笑う。


「エミリア様にはそのご説明をなさらないのですか?」

「もうしていらっしゃいますわ、ほら」


 ララスティが視線を向けた先では、エミリアにララスティと同じことを、さらに分かりやすくかみ砕いて説明する姿があった。

 それでもエミリアは不服そうな顔をしているが、口では「わかりました」と言い、ケーキスタンドに手を伸ばした。


「エミリアさん、ですからケーキスタンドのものはセイボリーから召し上がってください」

「あたし、スコーンにたっぷりクロテッドクリームとジャムを乗せて食べるのが好きなんです」


 だからセイボリーはいらないというエミリア。


「あたしの分のセイボリーは他の人にあげますよ」


 そう言って、隣の席の令嬢の皿に自分の分のセイボリーのサンドイッチを乗せようとしたエミリアの手を講師が叩く。

 当然のように落ちて形が崩れるサンドイッチ。


「なにするんですか!」

「人のお皿に自分の分を勝手に乗せるとは何事ですか。この状態で本当にマナーでは及第点を貰ったのですか?」

「も、貰いました!」


 エミリアは思わずそう口にしたが、あくまでも付添人がいる状態(・・・・・・・・)で社交界に出るのに及第点のレベルだ。

 シシルジアがフォローをすることを前提としていたから許可が出ていたにすぎない。

 しかもそれすら自分の都合を優先して守らないのだから、講師が頭痛を感じるとため息をつくのも仕方がない。

 そのまま講師がつきっきりになった勉強会が終わるころには、エミリアは目に涙をため、お疲れ様でしたと挨拶をする講師を睨みつけている。

 その様子を呆れた気持ちで眺めるララスティだが、表面上はいつも通り穏やかな笑みを浮かべ、他の貴族子女と会話を続けていく。


(そろそろでしょうか?)


 いつも勉強会の終わりにはカイルを連れてルドルフが進捗を確認しにやってくる。

 一応表向きはカイルも進捗を確認するためということになっているが、実際には到着するとすぐにエミリアにつかまり、二人きりになりたいと離れて行ってしまうため、何のために来ているのかと秘かに笑われている状況だ。

 ララスティがたまたま隣に立っていた令嬢の髪がほつれていたのを直したタイミングでルドルフとカイルが登場し、いつも通りエミリアが「カイル殿下!」と駆け寄ったが、運悪く(・・・)ララスティと隣の令嬢が進行方向を遮っていたため、エミリアが二人を無理やり押しのけて行った。


「「きゃぁっ」」


 髪を直すのに気を向けていたから避けることが出来なかった、という体でララスティが体のバランスを崩し、同時に一緒に居た令嬢もバランスを崩して倒れてしまう。

 ざわめき慌てて駆け寄った子女たちを気にせず、エミリアはカイルの傍に行くと、目に涙をためたまま腕に抱き着いた。


「……エミリア嬢、今日()なにかあったのかな?」


 優しく尋ねるカイルに、エミリアはさらに目を潤ませてから講師に視線を少し送り、怯えたように震えてカイルに強く抱き着いた。


「あ、あたしがちゃんとできないって……確かにあたしも悪いんです。でも……暴力をふるうなんて……そんなことをする人が講師だなんて、あたし、怖くて……」


 声を震わせて言うエミリアに周囲が冷たい視線を向ける。

 講師が暴力をふるったとカイルに告げ口をするエミリアだが、実際は軽く叩いた程度だ。

 あれを暴力と言うのであれば、先ほどエミリアがララスティたちにぶつかったほうがよほど暴力に見える。


「暴力……それはよくないな。今日はもう帰って休んだ方がいいよ」


 カイルはそう言ってエミリアの腕を離そうとするが、エミリアは「じゃあ送ってください!」と震えた体を逆に押し付ける。

 カイルは一瞬だけ考えるそぶりをした後、「わかったよ。でもまだ用事があるからこの屋敷の玄関までだよ」と一言入れ、エミリアと一緒に広間を出て行った。

 その様子を内心で笑いながら見つめたララスティだが、いつの間にか近づいてきたルドルフの手を借りて立ち上がり、寂しそうな表情を浮かべて頭を下げる。


「申し訳ございません」

「それは何に対する謝罪かな?」

「無様なところをお見せしてしまいました」


 ララスティはあえて誰の何がどう無様とは言わない。

 ララスティが倒れたことを無様と言っているのかもしれない、カイルに抱き着くエミリアを無様と言っているのかもしれない、婚約者を優先できないカイルを無様と言っているのかもしれない。

 それは聞き手が自由に想像すればいい。

 ルドルフは困ったような表情を浮かべながら、ララスティの肩に手を置いて頭を上げさせる。


「ララスティが謝罪することじゃない。私から見ればカイルがちゃんと対処できていないのがよくないしね」


 ルドルフがララスティを擁護するような言葉を発したことで一瞬広間に緊張が走るが、ルドルフはカイルの叔父であり、ララスティとカイルの仲を深めるために動いていると有名なため、この程度の文句も言いたくなるのだろうと誰もが納得した。

 ララスティを慰めるようにルドルフは空いているソファーに誘導し、ゆっくりと座らせ、メイドにココアを入れるように指示を出す。

 すぐさま動いたメイドがララスティ専用の特別なココアをすぐさま用意し、テーブルの上に置くと、ララスティはそれをゆっくり一口飲み、ほっとした表情を浮かべた。

 そしてルドルフを見て「美味しいですわ」とにっこりと微笑み、壁際に下がっているメイドにも笑みを浮かべて首をわずかに傾けて感謝を伝えた。

 その自然な行動に、先ほどララスティが話していた感想を伝えるという行動の大切さと、それがもたらす効果に全員が実例として参考にしようと心に刻んだ。


「それにしても、勉強会に来ている子とカイルを交流させるために連れてきているのに、困ったものだ」


 ルドルフが残念そうに言いながらララスティの向かいに座り、メイドが当たり前のように用意した紅茶をゆっくりと飲む。


「……エミリアさんがあのようにカイル殿下に甘えてしまっては、カイル殿下も無下にはできないのでしょう」


 ララスティが困ったように眉を寄せて言うが、ルドルフはそれでは困る、と声を固くした。


「勉強会に集まっているのは貴族社会になれない元庶子の子女ばかりなんだ。昔からカイルと交流のある貴族子女とは違う。これからのために、少しでも交流を持って欲しいと思ってカイルをここに連れてきているのに、何の意味もない」


 ルドルフが何を言いたいのかわからない子女もいたが、言葉の意味を察した者がこっそりと意味を教える。

 カイルは自分たちのような庶子の出を大事にしない一方で、自分の婚約者を蔑ろにするエミリアだけをひいきしている。

 ララスティが異母妹を思って何も言わないのをいい事に、公然と不貞の罪を犯している。

 ルドルフはそれをよく思わず、何度もカイルに機会を与えているのに、カイルはそれを無碍にしている。


 それはあくまでも言葉の意味を察した者の推測でしかない。

 けれども着実にカイルの悪評がたまっていく行為だった。


下拵え、なげーな……(´;ω;`)

いや、本当にもうすぐ下拵え終わるんで!

私もこんなに長くなるとか予想外だったんで!!


はよう次の展開にもっていけ! という激励をしてくださる方はブクマや評価をよろしくおねがいしまっす!


ご意見ご感想もお待ちしております♡

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