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望むのはひとつ

 カイルたちが帰宅した後、残ったララスティとルドルフは隣り合ってソファーに座っている。


「わたくし、どうもカイル殿下の態度が納得いきませんの」


 ララスティの言葉にルドルフがくすりと笑いながらララスティの頭を撫でる。


「カイルとの約束は好きな人ができたら、互いに円満な婚約解消に向けて協力する。だったね?」

「ええ」


 頷くとルドルフが可笑しくてたまらないと言うように笑う。


「カイルは前回も今回も愚かな道を選ぶようだな」

「どういうことですの?」

「あれに好きな相手ができたのは間違いない」

「でも、それがエミリアさんだとは思えませんの。だって、前回あったような熱を感じられないんですもの」


 ララスティが不満そうに言うと、ルドルフは「そうだろうな」と笑い続ける。


「前回、カイルは『可哀相なエミリア』に同情して恋をして、愛に昇華させた。今だっていい親に恵まれない可哀相なエミリアはいるかもしれないが、それ以上に可哀相な存在がいるだろう」


 笑って言うルドルフに、ララスティは目を細める。


「それは、カイル殿下は可哀相なわたくしの方に惹かれているということでして?」

「ああ。弱者と自分が思った相手に弱い性質なんだろう」

「…………それはそれで、ある意味作戦通りなのでしょうか?」


 可哀相な異母妹を消し、可哀相な異母姉を演出し続けたのは他でもないララスティだ。

 けれど、あくまでも自分が二人の関係を盛り上げるための悪役にならないようにするためであり、カイルに好意を向けられるようにするためではない。

 不満気に眉を寄せるララスティにルドルフが可笑しそうに笑うと、「あれは正義感が強いからな」と今ここにいないカイルをフォローする。


「けれど、好きな人がわたくしであるのなら、このまま婚約関係を続けた方がカイル殿下にとっていいのではありませんか?」

「私はカイル自身ではないからわからないが、自分を犠牲にしてララスティの周囲からエミリア嬢を排除しようとしているのかもしれないな」

「…………もうすぐわたくしが伯父様の養女になるのをご存じないのでしょうか?」

「さてね」


 ランバルト公爵家はアインバッハ公爵家との契約を現時点で守れていない。

 ただ無駄に支援金を消費しているだけで、領民の理解を得られないと治水工事を進めていないのだ。

 このままいけば契約満了に合わせてララスティはコールストの正式な養女になる。

 そうなってしまえば、ランバルト公爵家と正式に縁を切り、エミリアともかかわりがなくなる。

 一方的にエミリアが絡んできたとしても、知らぬ存ぜぬを貫くことが出来る。

 カイルがそのことを知らないとは思えないのだが、なぜこのタイミングなのか。


「だが、カイルがエミリア嬢を選ぶと言うのなら今後の動き方も考える必要があるな」

「そうですわね。予定ではもう少し先でしたけれど……」


 ララスティたちはまだ十二歳であり、前回婚約解消を行った年齢を考えるとまだ時間がある。

 周囲も所詮は子供の感情と切り捨ててしまう年齢であり、自由に動ける時間も少ない。


「もう少しすればクルルシュ殿の手回しで帝国が動く予定だったから、カイルとララスティの婚約についても動かしやすいのに、今のほぼ何もない状態で急に婚約解消……というのは無理だろうな」

「ええ。エミリアさんとカイル殿下の噂がいくらあったとしても、エミリアさんでは陛下がお認めにはなりませんし、他の貴族も納得しませんわ」


 そう、何か一つでもララスティより優れていると示すことができればいいが、エミリアは現時点で何一つララスティより優れている部分がない。

 前回だって、異母姉に虐げられている可哀相な異母妹を演出して同情を買っていただけで、能力的な面で言えば何一つ優れたところなどなかった。


「カイルの話だと、エミリア嬢はカイルに愛していると言われ、優先されればそれだけでいいと言っているらしい。もちろんそれだけで満足できるはずもないが、建前上はカイルさえいれば他には何もいらないそうだ」


 ルドルフもララスティも、エミリアが求めているのは『王子様』であることは察している。

 そこに恵まれた異母姉の婚約者を奪ったというスパイスも加われば、さぞかし甘美なものに感じるのだろう。


「わたくしが関わったことで、前回になかったわたくしの養子縁組が実現しそうですし、エミリアさんの立場も変わりますわよね?」

「当たり前だ。前回は最後までララスティがランバルト公爵家の娘であり続けたから、アインバッハ公爵家は支援を続けていた。養女の話を何度しても交流をアーノルトに阻止されていたし、資金面での支援しかできなかったからな。もっとも、それも結局のところあの小娘に奪われていたがな」


 ルドルフはそう言って笑い、ララスティの頭から手を離すとテーブルの上に置かれている紙を持ち上げる。


「子供とはいえ、エミリア嬢は貴族の契約というものが理解できていないようだ。もっとも、父親であるアーノルトも理解していないし、血筋かもしれないな」

「わたくしも同じ血を引いておりますわ」

「ララスティはミリー姉上の血が強いのだろう。そもそも教育内容も違うしな」


 笑ってルドルフはエミリアのサインが入った紙を確認する。


「それにしてもよかったのですか? エミリアさんとカイル殿下の逢瀬の場所を用意するために、シングウッド公爵家を提供するなんて……」

「表向きはララスティも同行しての行儀見習いだよ」


 建前は、エミリアの将来を心配したララスティがルドルフにエミリアの教育を頼むという形になっている。

 本来ならアインバッハ公爵家で教育してもいいと思われるかもしれないが、そうなった場合ララスティがアインバッハ公爵家の養女になった後も関りが生まれるかもしれない。

 それを危惧したルドルフが教育場所を提供することになった。という設定だ。

 それに合わせる形ではないが、カイルもルドルフから仕事を学ぶためシングウッド公爵家に通う形をとる。

 ハルトへはついでに(・・・・)ララスティとカイルの交流を深めると理由をつけるようだ。


「陛下が了承なさいますでしょうか? カイル殿下とエミリアさんの噂を手助けするだけだと思うかもしれませんわ」


 下手をすればシングウッド公爵家の信用を落とすと心配するララスティに、ルドルフは大丈夫だと笑う。


「エミリア嬢だけを招待して教育の場を用意するつもりはないんだ」

「あら、そうですの?」

「庶子から貴族の世界に足を踏み入れて、馴染まない子は他にもいるからね。男女関係なく教育の場として提供することにするつもりだよ」

「なるほど」


 それであれば、エミリアだけを特別扱いするわけではなく、エミリアに成果がでなくてもシングウッド公爵家の責任ではなく個人の資質の問題になってくる。

 カイルがルドルフに教えを乞うために訪問するのも、庶子への見本という建前を付属させればハルトも説得しやすいのかもしれない。

 なんせ、伝染病の混乱はある意味落ち着きつつあるとはいえ、後継者問題はどこの家も引き続きもめているのだ。

 未だに庶子として引き取った子供の教育について頭を悩ませている家は多い。


「教育に関しては各家に任せられておりますが、ルドルフ様がご提案なさっているように、どこかでまとめ教育したほうが効率はいいのでしょうか?」

「どうだろうね。帝国には平民用に教育機関があるようだが、それでも問題もあるし、個人の差は出てしまうようだ。帝国での教育機関は、どちらかといえば平民で才能のあるものを発掘するという意味合いが強いんだろう。跡取りや国を動かす人間を教育する貴族のものとは、また別になってくるのかもしれない」

「なるほど」


 ララスティが納得するとルドルフは紙をテーブルの上に戻す。


「我が家で教育を受けるために、各家から一定の謝礼金は受け取るようになるけど、ランバルト公爵家がどう出るかな」

「お父様がお金を出すとは思えませんが、エミリアさんのためならまた違うのでしょうか?」


 アーノルトはエミリアを溺愛している。

 エミリアがお願いをすれば謝礼金は出すかもしれないが、シングウッド公爵家で学ぶと言う事自体を歓迎しないかもしれない。


「エミリアさんは、お父様たちになんと説明するのでしょうか?」

「そのままじゃないか?」

「そのまま、とは?」

「カイルと仲を深めるために、我が家に定期的に通うと言うのだろう」


 その言葉にララスティは呆れてしまう。

 カイルとの噂を収める意味もあるのに、エミリアが噂を広める行為をするというのは意味がなくなってしまう。

 もちろん、エミリアとしてはララスティと婚約解消していないとはいえ、カイルと恋人になったのだから、大勢にそのことを広めたいのだろう。


「……ルドルフ様」

「なにかな?」

「カイル殿下に真実の愛が期待できなくても、エミリアさんの真実の愛はまだ期待できるのでしょうか?」

「ふむ」


 ルドルフとしては身分を重視しているエミリアの愛が真実の愛とは思えないが、ララスティが期待しているのであれば叶えたい。


「カイルとエミリア嬢の愛だの真実の愛を作り上げる(・・・・・)という事でいいのかな?」

「だって、前回はわたくしという犠牲を作って真実の愛を貫きましたわ。だったら、今回はわたくし以外を犠牲にすればよろしいのではないでしょうか」

「……思い込みと正義感の強さを利用するのか」


 ララスティの言葉にルドルフは困ったように笑う。


「わたくしの養女の話について、契約を絶対に守るようにお父様に持ち掛けて下さいませ。お爺様たちが何か言うかもしれませんが、契約は契約ですものね」


 にっこりと微笑むララスティにルドルフは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐにくすくすと笑った。


アインバッハ公爵家でなにを密会してるんでしょうね、この二人…(; ゜Д゜)

っていうか、コールストたちがこの二人を黙認してるっていうのがやばいと今更ながらに…あっやめてっ!なにをする!ふぎゃぁっぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!


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