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欲するもの

 カイルが帰宅した後、エミリアはララスティに話があると言って別邸に残った。

 エミリアとカイルをいつものように二人きりにし、雑用を片付けて部屋に戻れば、そこにはカイルに縋りついて泣いているエミリアと、ララスティを見て動揺しているカイルがいた。

 その様子にララスティは内心で喜びながらも、表向きは驚いたように目を大きくし、慌てて入室し、誰にも見られないようにドアを慎重に閉めた。

 カイルはエミリアを引きはがし、向かいの席に戻るよう言ったが、エミリアは駄々をこね再びカイルに縋りついた。

 そのまま離れそうになかったため、ララスティはカイルを止め、自分が向かいの席に座った。

 気まずい空気が流れる中、ララスティはお茶を淹れなおし、エミリアの様子を気にするそぶりを見せた。

 エミリアはカイルから離れなかったが、ララスティが邪魔をしないと判断したのか、カイルに自分の体を寄せながらもララスティを盗み見た。

 そこには困ったように二人を見るララスティがおり、嫉妬や憎しみの色は見当たらず、エミリアはどこか拍子抜けしてしまう。

 三人ともに無言の時間が続き、エミリアの涙が止まったところで、カイルが改めてエミリアの体を離した。

 カイルは言い訳をすることも、エミリアを庇う事もなく、ソファを立ち上がりララスティの隣に移動して座り直す。

 その様子にショックを受けたようにエミリアは再び涙を流したが、カイルはエミリアからそっと視線を外した。


(だめよ……)


 エミリアはそんなカイルを見て、このままではカイルが自分を受け入れないと理解してしまう。

 十分に同情を向けられているはずなのに愛されない。

 ララスティの隣を当たり前のように選んだカイル。


(……王子様はあたしのものよ)


 エミリアは心の中でそう考えながらも、カイルに向ける顔は悲しみに満ちたものだ。

 だが、いくら表情を取り繕っても、カイルを見る獰猛な目は隠しきれていない。

 ララスティはその目の色に気づき内心で思わず笑ってしまうが、エミリアから視線を外しているカイルは気づかない。

 そのままエミリアが落ち着くのをまって、カイルは帰っていった。

 泣いたエミリアの目元は赤く、別邸に残るのであれば目元を冷やした方がいいとララスティがメイドに指示を出す。

 ララスティとしてはどちらでもよかった。

 エミリアがあのまま帰り、赤くなった目を見てアーノルトやクロエが騒ごうとも、こうして別邸に残って自分に何かを言ってきても、本当にどちらでもよかった。

 ランバルト公爵家を追い詰めるのなら前者であればいいし、エミリアとカイルと追い詰めるのなら後者であればいい。

 そして後者であっても、いずれランバルト公爵家は自滅していく。


「お姉様、あたし……本当にカイル殿下が好きなんです」


 メイドが冷やしたタオルを渡したタイミングで告白するエミリア。

 ララスティは驚いた表情を浮かべつつもメイドを下がらせ、ただ「そうですのね」と静かに返事をした。

 その態度が気に入らないのか、エミリアはムッとしたように口調を強める。


「本気よ! 冗談なんかじゃないんだから!」

「ええ、わかっておりますわ。以前からエミリアさんがカイル殿下に好意を寄せていることには気づいておりましたもの」

「……それなのに、あたしに見せつけるようにカイル殿下と仲良くしてたんですか?」


 エミリアが怒ったように睨みつけたため、ララスティは困ったように眉を寄せる。


「わたくしは、できるだけエミリアさんを思って行動したつもりですのに……」

「は?」


 ララスティの言葉の意味が分からず、エミリアは声を低くする。

 だが、ララスティからエミリアがカイルと二人になりたいと思っているのを察し、あえて二人の時間を作っていたことを聞き目を大きく見開いた。


「常識的に考えて、自分の婚約者と妹を二人きりにするなんてありえませんわ。カイル殿下も最初は驚いていらしたでしょう?」

「それは……まあ……」


 エミリアは曖昧に頷くと、「でも」とララスティを再度睨みつける。


「あたしの気持ちに気づいてたなら、もっと応援してくれてもいいじゃないですか! だって、お姉様はカイル殿下を愛していないんでしょう? あたしはカイル殿下が好きなんです! 譲って(・・・)くださいよ!」


(あら、久しぶりに聞きましたわね、その言葉)


 内心で嘲笑いながらララスティは困ったように眉を寄せる。


「エミリアさん、カイル殿下はものではありませんの。譲る譲らないのはなしではありませんわ。それとも、貴女は王太子の婚約者の地位を譲れとおっしゃっておりますの?」

「同じことじゃないですか」


 ララスティの言葉の意味が分からず、エミリアが首をかしげるがもちろん意味は違う。

 カイルだけをどうにかするのであれば本人の意思が優先される。

 だが、王太子の婚約者となれば、それこそ王家の意思や他の貴族家との調整が発生するのだ。


(はたして、エミリアさんはどちらが欲しいのでしょうか?)


 真実の愛を貫くのであれば、身分と財産を失ってもカイルを選ぶだろう。

 でも王太子の婚約者(・・・・・・・)を望んでいるのなら?

 エミリアの真実の愛の相手がカイルという個人ではなく、王族の王太子であるカイルだとしたら?

 ララスティはクルルシュが以前少しだけ話した可能性を思い出す。

 前回では、ララスティの代わりに王太子妃になったエミリア。

 ルドルフの話でもクルルシュの話でも、ララスティの事故後の人生は順調ではなかったという。

 それでも、真実の愛を貫いて王太子妃となりカイルの隣に立ち続けた。


「では、もしカイル殿下がわたくしとの婚約解消を機に、王太子の座を追われたら? いっそ王族ではなくなってしまったら? エミリアさんはそれでもカイル殿下を好きだと言えますの?」

「はぁ? 何言ってるんですか? お姉様との婚約がなくなってもあたしがいるんだから、カイル殿下がそんなことになるわけないじゃないですか」


 馬鹿にしたように笑うエミリアに、ララスティは困ったような顔を向けた。

 まるで聞き分けのない子供に対するような顔。


「そう、でも……わたくしも人生がかかっておりますの。だから、ちゃんと確認をしたいのです。もし仮にそうなった場合、エミリアさんは……カイル殿下を愛し続けることができますの?」

「当たり前じゃないですか。カイル殿下はあたしの理想の王子様(・・・)なんです!」

「そうですの」


 エミリアの言葉にララスティは柔らかな笑みを浮かべた。


「……ご存じの通り、わたくしとカイル殿下の間に恋愛感情はありませんわ」

「だからっ」

「けれど、同じ家の娘とはいえ、王命は簡単に覆せるものではございません」

「そんなことありません! 愛し合わない人同士より、愛し合っている人同士の方がいいに決まってるもの!」


 強く言うエミリアに、ララスティはゆっくりと頷いた。


「そこまでおっしゃるのなら、わたくしはエミリアさんの思いを止めることは致しませんわ。そして、カイル殿下がエミリアさんの想いに答えるのであれば、わたくしはカイル殿下を応援いたします」


 エミリアではなく、カイルを応援すると言うララスティに気づかず、エミリアは笑顔を浮かべる。


「本当? カイル殿下があたしを選んでくれたら、お姉様は邪魔をしないのね!?」

「ええ、わたくしは邪魔をいたしませんし、カイル殿下に協力をいたしますわ」


 にっこりと微笑むララスティにエミリアははしゃいだ声を出し、「よかったぁ」と気を抜いたようにソファーの背もたれに体重をかけた。

 その姿を笑みを浮かべながら見つめるララスティだが、あくまでも協力するのはカイルに対してだと内心で笑う。


「じゃあ、あたしとカイル殿下がうまくいくように手伝ってくださいよ! そうだなぁ、次にカイル殿下がうちに来る時、最初から席を外してくれません?」

「それをカイル殿下がお望みであればそういたしますわ」

「だめですよ、カイル殿下がお姉様にそんなこと言うわけないじゃないですか。手伝ってくれるんでしょう? だったら言うとおりにしてください」

「……それが、エミリアさんの望みですの?」


 ララスティが確認するように尋ねれば、エミリアはすぐに頷く。


「そうですよ。あたしとカイル殿下が幸せになるために、お姉様は邪魔なんです」

「……わかりましたわ。次にカイル殿下がいらしたときは、わたくしは出来る限り早く席を外しますわね」

「出来る限りじゃなくて、最初からいなくていいんですよ」


 エミリアの言葉にララスティは困ったように微笑みつつ、内心で「馬鹿な子」と呟いた。


エミリアの言動から考えて、根本的なところは変わってなさそうですねぇ

まあ、それもララスティの中では予定通りなのかも?( *´艸`)

次はカイルがエミリアを選ぶかの選択をするターンかな?

さてはて、どうしようかなぁ(*´▽`*)


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