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血統を狂愛する翁

 ララスティが退室した後、ハルトは大きく息を吐きだしてしまう。


「ララスティがアインバッハ公爵家の養女になることはかまわないが、カイルの婚約者でなくなるのは阻止しなければな」


 だが、今の状態で無理にカイルの行動を制限すれば、それこそ、エミリアとアーノルトの怒りがララスティに向く可能性がある。

 そうなる前にいっそ王宮に保護してしまおうかとも思うが、アインバッハ公爵家との養子縁組の可能性があるのなら、そちらの顔を立てる必要がある。


「カイルもまだ子供です。馴染みのないおもちゃに目が行くのは仕方がないでしょう。しかも、自分を頼ってくる存在という甘い毒のようなもの。排除するにしても手順が必要ですね」


 暗にエミリアの始末を仄めかすルドルフだが、ハルトはそれも仕方がないと考えている。

 今のランバルト公爵家を存続させる価値はない。

 いっそのこと没落してしまえば後腐れもなくなると言うものだ。


「任せてくれれば、コール兄上と動きますよ」

「まあ、お爺様への義理は十分に果たしているし、あまりアインバッハ公爵家に負担をかけるのもよくないだろう」


 ハルトの言葉にルドルフは内心で「手遅れだがな」と思いつつ、神妙な表情で頷く。


「ララスティとカイルは、良くも悪くも対等な関係を維持しています。このままいけば良き夫婦関係を築けると思いますよ」

「そうか」

「しかしカイルは今、頼られる自分に酔いしれている部分がある。誰にも覚えがある感情でしょうが、そこに相手の恋愛感情が加わってくれば話は変わってしまいます。私の調べでは、エミリア嬢は随分カイルに依存をしているようだ」


 ルドルフの言葉にハルトは眉をひそめる。

 エミリアは人生で初めて叱られ、指導を受けたと思っている。

 それ以前にララスティやシシルジアが散々注意していることを忘れ、カイルに従えばいいと思い込んでいる。

 そう報告され、ハルトは何とも言えない気分になってしまった。


「恋は盲目、ということか。カイルも未熟なのに依存されても共倒れになるだけだろうに」

「……カイルが見捨てなければそうなるでしょうね」


 前回のララスティはカイルに依存し、捨てられた。

 いや、それ以前に王家がララスティに期待をかけすぎて依存していたのだ。

 そのことを思い出しながら、ルドルフは表向き微笑みを維持する。


「ランバルト公爵家のことになるのなら、一応父上にも話した方がいいでしょうね。兄上から話しますか? お忙しいなら私が話しますよ。久しぶりに母上の顔も見なければいけませんし」

「そうだな。ランバルト公爵家とアインバッハ公爵家の契約については、お前の方が詳しいだろう。任せる」

「了解しました」


 その後もいくつか話し合い、カイルの行動は続けて観察対象とし、見過ごせないほど悪化するようなら、ランバルト公爵家の没落を誘導するよう決定した。


(予定通りだな)


 執務室から退室したルドルフは廊下を歩きながらそう考え、今後の予定を組み立てていく。


(クルルシュ殿下が年に二回正式訪問することが決定したし、ララスティの後ろ盾が前回より強くなっている。父上に根回しをしておいてもいいかもしれないな)


 ルドルフはそう考え、進む方向をオーギュストのいる離宮へ向けた。


 先触れだけは急遽出したが、グレンジャーのいる離宮は静かにルドルフを招き入れる。

 隠居してからのグレンジャーは表舞台から身を引いてはいるが、未だに貴族家への影響力を持っている。

 むしろ、その自覚があるからこそハルトの治世を邪魔しないように動かずにいるのだ。


「父上、急な訪問にも拘らず受け入れて下さりありがとうございます」

「ああ」


 元々銀髪であることも関係し、実年齢より二十歳は若く見えるグレンジャー。

 ルドルフと並べば流石に親子に見えるが、ハルトと並べば少し年の離れた兄弟に見えるかもしれない。


「今日来たのはカイルの件か?」

「……お耳が早いですね」


 グレンジャーの言葉にルドルフは苦笑しながら頷く。

 その様子を見たグレンジャーは小さく息を吐いて、ルドルフに正面のソファーに座る許可を出した。


「ランバルト公爵家についてはもう十分だろう。父上だって義理は果たしたと理解してくれる」

「アインバッハ公爵家への補償はどうします? 兄上はランバルト公爵領をそのまま渡そうなどと考えていますよ」

「愚かだな。ランバルト公爵領は王領として管理し、管理移行後五十年は税収の半分をアインバッハ公爵家へ納める。並びに私が持っている土地の一部と、鉱山をララスティに(・・・・・・)譲渡しよう」


 アインバッハ公爵家ではなくララスティに譲渡すると言ったグレンジャーに、ルドルフは眉を上げる。

 暗にララスティが養女になることを認めたと発言したようなものだが、王太子妃になる予定のララスティに譲渡しても、アインバッハ公爵家に利益がないように思える。

 ルドルフがそう考えたことを察したのか、グレンジャーは笑う。


「あくまでもアインバッハ公爵令嬢であるララスティへの譲渡だ。所有権は王家に戻るのではなく、アインバッハ公爵家を継ぐものにある。まあ、ララスティが自分の子供に譲ると言えば別だがな」

「……ララスティならアインバッハ公爵家を優先するでしょうね」

「王家のことを考えれば、子供は何人いてもいい。ハルトはうまくできなかったが、ララスティにはうまく仕込めよ」


 そう言って含みのある笑みを向けられ、ルドルフはそっくりな笑みを返す。


「お前とララスティ……あとはアインバッハ公爵家に帝国の皇子か? お前たちが何を考えているかは根掘り葉掘り聞かないが、私を失望させるなよ?」

「父上は…………ララスティに子供が生まれて、その子供が王位につけば満足ですか?」

「お前の子供でもいいぞ。托卵でなければな」


 グレンジャーの言葉に、目的の大半に気づかれていると察し、ルドルフはため息をついてしまう。


「離す気はありませんが、年の差があるんですよ」

「だからなんだ? 私とセレンティアだってかなりの年の差だぞ」

「まあ、そうですけどね」

「シングウッド公爵を納得させるには、それだけ子供の数が必要だ。早々に結果を出すんだな」


 「お前は色だけなら私に似ている」というグレンジャーに、ルドルフは肩をすくめる。


「カイルとララスティがだめになりそうなら先に言いなさい。ハルトが養女にするのを止めておいてやる」


 戸籍上でも叔父と姪になれば結婚は不可能だと言うグレンジャーに、ルドルフは思わずうなだれてしまう。

 何よりも効率を重視するグレンジャーだ。

 目的を達成するのに最適な方法が取れるのなら、邪魔なものを排除するのにためらいはないのだろう。

 それが、実の息子を陥れることであっても……。

 息を大きく吐き出して顔を上げたルドルフは、何食わぬ顔をして紅茶を口にしているグレンジャーに呆れてしまう。

 カイルがハルトの子供ではないと知った当初は随分と荒れていたが、時間が経って冷静になったらしい。

 思えば、前回カイルへ投薬を最初に提案したのはグレンジャーだった。

 最終的に決定し実行許可を出したのはハルトだが、いつでも実行できるように準備はしていたのだろう。


「ああ、帝国がララスティの後ろ盾につくのは構わないが、必要以上の干渉はさせないように調整しなさい」

「善処はしますが、あちらの皇族は身内思いなので」

「ふん。父上がランバルト公爵家を気遣わなければ、こんな面倒はなかったのにな」


 好きで王命を出すわけではないと、以前グレンジャーが言っていたことを思い出す。

 アーノルトとミリアリスの婚約を決めた時は、国内でアインバッハ公爵家の力が大きくなりすぎていたとも聞いた。

 血筋も財力も王家に並ぶ、もしくは勝ってしまう家を放置することもできず、かといってあからさまに力を削ることを命じるわけにはいかない。

 そこで落ち目のランバルト公爵家と結ばせ、支援と娘の結婚を決めることで、影響力の拡大を阻止したのだろう。

 だが、当時は正解の選択であっても後々まで正解のままとは限らない。

 特に自分の立場を理解していない愚か者が関わってしまえば、正しくなったはずの結果も壊れてしまう。


「他の落ち目の貴族家もあったのに、よりによってランバルト公爵家だったのが王家にとっては災難だった……ということですか」

「引退した者が政治に口を出すとろくなことにならない証拠だったな。まあ、勉強になったさ」


 暗にもう政治に口を出す気はないと言っているグレンジャーに、ルドルフは呆れてしまう。

 口を出さないとしながらも、こうして尋ねられれば相手をするのだ。


「ともあれ、王家の血を引く者が王位につく。純血主義ではないが、血は濃い方がいいだろうな」


 だから励めというグレンジャーに、ルドルフは「じゃあ、ご協力をおねがいしましょうか」と笑みを浮かべるのだった。


前国王のグレンジャーは、王族第一主義ではなく、国を守護して導く王族を正当に維持することを重要視しています。

そのためなら家族とか正直道具です(ひどい

ちなみに、お忘れかもしれませんが、グレンジャーとオーギュストおじい様が兄弟ですね。

なんで二人の父親がランバルト公爵家をひいきしたのかと言えば、アーノルトの曾祖父が身を挺して庇ったのが二人の父親だからです。


そんな裏事情はどっかで書くかもしれないね!

もしかいて欲しい裏話などありましたら遠慮なくリクエストや質問をどうぞ!

ネタバレにならない程度に暴露していきます!

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