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一滴の破滅への雫④

 カイルの提案から二週間後に、ランバルト公爵家の別邸でお茶会が開催されて以降、エミリアを加えた三人のお茶会は週に一度の頻度で行われている。

 もちろん、バランスを取るために王宮でのお茶会も週に一度行っているのだが、それまで一時的に顔を出していた下位貴族主催のお茶会に参加しなくなり、ランバルト公爵家に通うようになったという噂は、ララスティとのお茶会が目的にも拘らず、特に下位貴族子女の間でエミリアを目当てに訪問していると広まった。


(たった二ヶ月で、おもしろいほど噂が広まりましたわね)


 ララスティは王宮で王太子妃教育を受けた帰り、ハルトに呼び出され執務室に向かっている。

 恐らくはカイルにまつわる噂に関してだと予想はつく。

 いつもであればルドルフを仲介に使うのだが、直接動かなければいけないと思ったようだ。

 執務室に入室すると、そこにはハルトだけではなくルドルフもソファーに座っており、ララスティは思ったよりもハルトが今回の件を重く見ているのだと気づいた。


「ララスティ、わざわざ来てもらってすまないな」

「いいえ陛下、もう講義も終わって帰るところでしたので、どうぞお気になさらずに」


 ソファーに座るように勧められ、ルドルフの対面に座るとすぐさま侍従がお茶を用意してくれる。

 湯気の具合から、猫舌である自分にはまだ熱いと判断したララスティはカップを手に取らず、視線をハルトに向けた。


「ララスティの評判は聞いている。講師からの評判もよく、王太子妃教育は驚くほど順調だそうじゃないか」

「恐れ入ります」


 ハルトの言葉にララスティは座ったまま頭を下げ、にこりと微笑む。

 そのようすにハルトは満足そうに頷くが、すぐに「だが」と声を低くした。


「カイルとの仲はどうだ? お茶会の回数は増やしているようだが、あまり好ましくない話も聞いてしまってな」


 ハルトの言葉にララスティは困ったような笑みを浮かべ、「わたくしも困っております」と頷いた。


「わたくしの妹とカイル殿下の噂があることは承知しておりますわ。カイル殿下が妹とそういう関係でないことは理解しておりますし、これ以上噂が広まらないよう対処したつもりです。けれど、我が家でお茶会をするようになって、勘違いをなさる方もいらっしゃるので、今後どうしたらいいのか……」


 そう言って頬に手を添えるララスティに、ハルトは同意するように頷く。


「カイルにも聞いたが、ランバルト公爵家に行くのは、あくまでもララスティ嬢とのお茶会のためだと言っていた。君の妹が同席するのかとも問いただしたが……同席しているそうだな。それもララスティ嬢が快諾、むしろ推奨していると聞いた」


 その言葉にララスティは悲しそうな顔をして頷いた。


「わたくしのいない場所で親密になさるより、わたくしがいる場所で交流を持っていただいた方が、噂が広まらないと思いましたの。それに、我が家にいらっしゃれば妹とカイル殿下はどうしたって会ってしまいますわ。もしそれが誰かに知られ、わたくしに内密で会っていたなどとなってしまえば、より問題が大きくなると……」

「ランバルト公爵でしたら、エミリア嬢とカイルが二人きりで内密に会っていると知れば、喜々として周囲に言いふらすだろうね」


 ララスティの言葉を引き継ぐようにルドルフが言うと、ハルトは大きく頷いた。


「ランバルト公爵家に関しては父上が……というかお爺様が気にかけていたが、現状はどうなんだ?」


 ハルトの問いかけにルドルフは苦笑を浮かべる。


「資金は潤沢のはずなのですが、目的の治水工事は未だに着手されていませんね。ランバルト公爵の言い分としては、領民の理解が得られないそうですが、そもそも王都から出てすらいないのに領民の意見とは笑わせてくれます」


 それに加え、アインバッハ公爵家の提示した期限も迫っていると報告する。

 実際、アーノルトは王都から出たことがなく、スエンヴィオが代理で王都と領地を往復しているのだ。

 しかも、せっかくスエンヴィオが領民から承諾を得た条件も、王都に持ち帰ってアーノルトに話すと条件が悪いと却下してしまうのだ。

 この三年間、何度もその状況が続いているせいか、アーノルトとスエンヴィオの仲も険悪になりつつある。

 アインバッハ公爵家としては資金も人材も十分に支援している。

 スエンヴィオはそのことを十分に理解し、もし期限内に成果を出すことができなければ支援を切られるどころか、今までの支援金を返却させられる可能性すら考えている。

 王命とはいえ、アインバッハ公爵家が無駄金を投資し続けるのは無理があるのだ。


「契約が守られないなら、ララスティをアインバッハ公爵家の養女にする、だったか?」


 ハルトとルドルフの視線がララスティに集まり、ララスティは苦笑してしまう。


「それもありまして、わたくしはエミリアさんに、早く公爵令嬢としての自覚を持っていただきたく思っておりますの」

「だが、カイルがそこに関わる意味が分からないな」


 ハルトの言葉にルドルフは「それなのですが」と口を開く。


「カイルからエミリア嬢を指導するようになったと聞いた時、私は大勢のいる前で堂々と接すればいい。確かにそう言いました」

「ああ、そう報告を受けているし、カイルもそう言っていた」

「ですが、その話の大前提として、ララスティが同席している場所で、共に指導するというものがありました。なぜカイルがララスティがいない場所で、一人だけで指導すると解釈したのかが分からないのですよ」


 そもそも婚約者以外の女性と親密になるという発想自体がなかった、というルドルフにハルトは頷く。

 しかもカイルはエミリアのために、普通ならいかない下位貴族家のお茶会に出席している。

 これがララスティも同席する高位貴族家のお茶会なら、まだましだったとハルトはため息をつく。


 一方、ルドルフはカイルの行動は全て予想通りだったため、特に驚きはない。

 ララスティもエミリアに合わせて、カイルが下位貴族のお茶会に行くことは予想していたため、噂を聞いた時は表向きでは困ったようにしつつも、内心では大笑いしてしまった。

 マナーの問題があり、エミリアの参加するお茶会を下位貴族主催のものにシシルジアが絞っているのもあるが、ここ最近はカイルがエミリアとお茶会で親しくしているという噂のせいで、そもそも高位貴族からの誘いがなくなっている。

 利益が見込めないのに浮気する場所を提供するリスクは背負えない。


「カイルも何を考えているんだか」


 ハルトはそう言って疲れたように眉間を揉むと、ララスティに今後どうするのかを尋ねる。


「わたくしは、カイル殿下とは政略的な婚約とはいえ、良好な関係を築けていると思っております。ですが、そこに恋愛感情があるかと言えば、正直ございませんので……。もし、エミリアさんからまっすぐ恋心を向けられ、カイル殿下のお心が動いてしまったら、それはどうしようもないと思っておりますわ」

「それはまかりならない」


 ララスティの言葉にハルトは食い気味に言葉を返す。

 そこにはあくまでも重要なのはララスティを王家に迎え入れることであり、カイルとの婚約はその手段でしかないという意思が透けて見える。

 別に、ララスティの子供の父親がカイルでなくとも構わない。

 むしろハルトとしては自分を裏切った妻の血を引くカイルよりも、他の高位貴族の子息の子供を秘密裏に身ごもらせたいと思っているのかもしれない。

 ルドルフにはそのような相談はされていないが、ハルトがララスティと親しくしている子息の素性を調べているのは把握済みだ。


「申し訳ありません」

「……いや。だがカイルの婚約者は……王族に迎え入れる令嬢はララスティだということを忘れないように」

「はい」


 ハルトの言葉にララスティは頷くが、顔を上げる時に一瞬だけルドルフを見る。

 前回はカイルは避妊薬を飲まされ、結局ルドルフとララスティの子供が王位についたという。

 今回もララスティとカイルが結ばれなければ、カイルには同じ処置がなされるだろう。


(それでも、真実の愛があれば乗り越えられるのでしょう?)


 内心で笑いながらも、ララスティはあくまでも困ったような、悲しそうな笑みを浮かべ続ける。


「けれど陛下。カイル殿下はエミリアさんを随分を気にかけるようになっております。今のわたくしが二人の関係について何か言えば、エミリアさんはわたくしが嫉妬していると言いふらすのではないでしょうか」

「ふむ……」


 ありえそうだとハルトは眉を顰める。

 もちろんカイルとエミリアの関係が、今のところただの教師と教え子のような関係だと報告を受けている。

 だが、エミリアは明らかにカイルを意識しているとも報告がある。


「ランバルト公爵家でのお茶会で、エミリア嬢に遠慮してもらうのは難しいのかい?」


 ルドルフの言葉にララスティは泣きそうな表情を浮かべる。


「きっと、今更そのようなことをすれば、エミリアさんはお父様に報告なさいますわ」


 そうすれば、とララスティは両腕をさするように抱きかかえ、身を震わせる。

 アーノルトの仕打ちがまだ忘れられないという様子に、ハルトは同情し、ルドルフは内心で感心しながらも申し訳なさそうに謝罪した。


「いえ、ルドルフ様が謝る事ではございません。すべては家族に受け入れてもらえないわたくしの努力がたりないのですわ」

「そんなことはない」

「兄上の言う通りだよ」


 ララスティはハルトとルドルフに否定され、儚げに頷く。


(陛下がこのように動いたのですし、カイル殿下たちも次のステップに移動して欲しいですわね)


 そうでなければ、ララスティがお茶会であえてエミリアとカイルが二人になる時間を作る意味がない。

 カイルはこの二ヶ月の間で、すっかりとエミリアに気を許しているように見える。


(早く真実の愛をわたくしに見せていただきたいものですわね)


 ララスティはそう考え、話しかけてくるハルトに返事をしながら、ルドルフと密やかに視線を交わした。


物語の季節は6月なので、下拵えも終盤へのイベントを残すのみ!

って思ったらイベント2個あって、まだまだ先が見えないのです(´;ω;`)

それにしてもハルト、お前久しぶりの登場じゃないか!!


次はルドルフの仕込みターンです!

ここまで名前が一回か二回チラ見せされただけの人が登場します

しかもかなりやべぇ…


期待に大胸筋を膨らませている方はブクマや評価をお願いいたします★★★★★

ご意見ご感想ご要望や『誤字指摘(重要)』や『誤字指摘(とても重要)』や『誤字指摘(ものすごく重要)』お待ちしております!

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