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正しい当たり前②

「エミリア嬢」

「はい!」

「……ララスティ嬢のたっての願いから、君と話す時間を用意するよ」

「はい!」


 カイルに話しかけられたエミリアは、先ほどまでの嫉妬にまみれた表情を消し、笑顔を浮かべている。


「じゃあ、あちらの席に」


 そういってカイルは会場の端にある個別スペースを見る。

 つられてスペースを見たエミリアは、別室に移動するのではないのかとがっかりし、何とかならないかとカイルを見るが、カイルはララスティの手を取って早速そちらに向かってしまう。


「ま、待ってください! なんでお姉様まで?」

「ララスティ嬢の願いで君の話を聞くんだ。付き添いを願うのは普通だろう? それに彼女は僕の婚約者。不測の事態でもない限り、婚約者以外の異性と二人きりになるなんてありえないだろう」


 なにを当たり前のことを聞いているんだとばかりに答えたカイルに、エミリアは裏切られたような表情を浮かべる。


「だ、騙したんですねっお姉様!」

「なんのことでしょう?」

「カイル殿下と話す時間を取ってくれるって言ったじゃないですか!」


 エミリアの言葉にララスティは頷く。


「ええ、ですからこうしてお時間をいただきましたわ」

「だったら邪魔しないでくださいよ! あたしは二人で話したいんです!」


 エミリアの言葉に、周囲の者が眉をひそめた。

 カイルが婚約者以外の異性と二人きりになることはないと言っているのに、自分のわがままで間接的とはいえ反論しているのだ。

 当然それに気分を害したのはカイルで、「ララスティ嬢が同席しないのなら話はなしだ」とエミリアに告げた。

 カイルがララスティの味方をしていると思ったエミリアは涙目になるものの、折角の機会を逃すわけにはいかないと、「お姉様も一緒で我慢します」と小さく呟いた。

 その言葉にカイルは呆れながらも、エミリアが付いてくるのを確認しつつララスティをスペースに案内した。

 周囲からの視線はあるものの、集団からは離れている位置にあるスペースのため、普通に話す分には会話内容が聞こえることはない。

 ララスティの隣に座り、エミリアに対面の席に座るように指示を出したカイルは、「それで」と口火を切った。


「僕に話があると言う事だけど、なにかな?」

「あのっあたし……カイル殿下に言われて、いろいろ考えたんです」

「うん」

「お父さんやお母さんの言う通りだけに生きていくのはだめなんだって思うし、お姉様ともっと仲良くしようと思いました」

「うん」

「だから、あたし頑張ってるんです! ねっ! お姉様!」


 急に話を振られたララスティは、困ったように微笑んで首をかしげる。


「えっと……、そう……ですわね」


 かしげた首を元に戻してカイルを見れば、カイルは小さくため息をついた。


「噂は聞いているよ。ララスティ嬢を家族(・・)の晩餐に誘っているんだってね」

「そうなんです! あ、でもお姉様ってばあんまり楽しそうじゃなくって……」


 急にしょんぼりとなったエミリアだけを見れば、ララスティの印象が悪くなるかもしれない。

 こういうところがエミリアのずるい所だとララスティは考えている。

 意識的なのか無意識なのかはわからないが、自分に有利な状況に見せるのがうまいのだ。

 けれどもカイルは様々な噂を入手しているし、ララスティからも直接話を聞いている。

 ララスティからの話は、エミリアたちに都合の悪い部分はあえて(・・・)ぼかして伝えられているが、それが逆に噂に現実味を持たせてくる。


「噂は耳に入っているよ。でも、噂を聞くとララスティ嬢が楽しめなくても仕方がないと思うな」

「え?」


 カイルの言葉にエミリアがショックを受けたように顔を上げた。


「招待をされた席で無視をされる。自分が分からない話で盛り上がられる。そんな状況でどうやって楽しめるのかな?」

「あっ……で、でもっ」


 エミリアは言い訳をしようと口を開くが、いい言い訳が思いつかないのか唇を噛んだ。

 普段はここでララスティがフォローに入るため、エミリアはララスティに視線を向けたが、ララスティは申し訳なさそうに目を細めただけで特に何も言わない。

 そのことに傷ついたような表情を浮かべたエミリアは、「お姉様、ひどい」と小さく呟いた。


「ララスティ嬢の何がひどいんだい?」

「だって、あたしがいないところでカイル殿下に色々言ったんですよね? それって、自分に都合がいいように話してても、あたしはどうしようもないじゃないですか。カイル殿下はどうせあたしよりお姉様の話を信じるんでしょう?」


 駄々をこねる子供のように涙目になったエミリアに、カイルは呆れた視線を向ける。

 先日の会話で僅かに上がった評価が既に下がりそうだ。


(素直な子なのはわかるけど、自分の非はなかなか認められないのか)


 この点ばかりは、どうしても共感できないとカイルは残念に思ってしまう。

 どうせ素直なら自分の悪い部分を認め、改善するように動けばもっと印象が良くなるのに、とカイルは考える。


「ララスティ嬢からは、君に食事に誘われて、実際に家族の食事に参加したことしか聞いていないよ」

「え?」

「言ったよね。噂に聞いたって」

「で、でも! その噂だってお姉様が勝手に作ったものかもしれないじゃないですか」


 涙目で訴えるエミリアに、カイルはその可能性はなくはないと思いつつも、どうせならカイルに直接話した方が早いのに、そんな遠回りなことをする意味がないとエミリアの話を切り捨てた。

 それを感じ取ったララスティは悲しそうに微笑みながらも、心の中で嘲笑してしまった。

 カイルは印象操作についてそこまで詳しく理解していない。

 直接訴えられればもちろん状況は伝わるが、不特定多数の意見を自分で集めた(・・・・・・)方が信頼できる情報に感じるのだ。

 情報の裏付けは必要だが、カイルは家族に虐げられているという状況を広め、ララスティに得がないと思っているため、流れている噂が嘘だとはほとんど考えていない。

 家族に蔑ろにされている可哀相な娘という印象は、いい方向に行くこともあれば、問題に対処できない弱さを非難される材料にもなるのだ。

 王太子の婚約者として、そんな隙を見せるはずがないという思い込みが、思考を鈍らせていると気づかない。


「ララスティ嬢が自分にとって不利益な噂を流して何の得があるんだい?」

「え? あ、それは……」


 エミリアも家族は(・・・)仲良くするもの(・・・・・・・)という思い込みがあるため、ララスティが自分たちを陥れるような噂を流す理由が思いつかず、続きの言葉が出てこない。

 そんなエミリアの様子にカイルは目を細めてため息をつくと、「用事はそれだけ?」と会話を終わらせようとしてしまう。


「あっ、まって」

「……まだなにか?」

「その……前にうちに来たみたいに、また遊びに来てください」


 エミリアの提案にカイルが一瞬驚きに目を大きくしたが、すぐに警戒するように目を細める。


「なぜ?」

「王宮だと人目があってゆっくりできないんじゃないかなって思って。でも、うちならそういうの気にしないでいいじゃないですか」


 エミリアは妙案だとばかりに言うが、カイルはその気を使わない場所を用意するために、別邸の使用人がどれだけ気を使って仕事をするか理解している。

 カイルとしては使用人に予定外の負担をかけるのは好ましくない。


「王宮ではちゃんと手順が組まれているが、別邸の使用人はそうじゃないよ。毎回大変な思いをさせるなんて、気の毒じゃないか」

「え? 別邸?」


 エミリアがきょとんとした顔をするので、カイルも同じようにきょとんとした顔をしてしまう。


「なんで別邸なんですか? うちって言ってるじゃないですか」

「……それは、本邸でっていうことかな?」

「当たり前ですよ」


 不思議そうに言うエミリアにカイルは眉を寄せ、ララスティは内心で笑う。

 エミリアの中で、別邸は自分の家(・・・・)ではない(・・・・)のだとわかる態度。

 本人が無意識なのが面白くて仕方がない。


「僕はララスティ嬢の婚約者であって、君の婚約者ではないんだ。ランバルト公爵家で婚約者同士のお茶会をするのなら、ララスティ嬢のいる別邸で行うべきだよ」

「そうなんですか? じゃあ、お姉様が本邸で暮らせばいいんですね!」


 名案だと手をパンと叩いたエミリアだが、カイルはルドルフからララスティが別邸で暮らすのは、エミリアとの確執が原因だと聞いている。

 確かに幼い時のように、ララスティよりも自分の持ち物を豪華にしたいとわがままは言わないかもしれないが、未だに確執がないとは言えない。

 しかも、ララスティにはアインバッハ公爵家の養女になるという話も出ていると言う。

 その状況でいまさら本邸に戻るのは、第三者のカイルから見ても利点が見当たらない。


「……ララスティ嬢はどうしたい?」

「わたくし、ですか? ……わたくしは、出来れば仲良くしたいですが、努力が報われないまま一緒に過ごすのは、つらいですわ」


 悲し気に微笑むララスティにカイルは頷き、「そういうことだよ」とエミリアに向かって言う。

 だがエミリアは「それはお姉様の努力が足りないんです」と呆れたように切り返した。


どう考えても悪化してるようにしか見えないですねぇ( *´艸`)

これ、本当に真実の愛に向かっていけるんでしょうかw

予定ではこのあたりからカイルがエミリアを意識し始めるんですが…

エミリアの行動が思ったより自分勝手で進みません(汗


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