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正しい当たり前①

 年が明けて初めてのお茶会。

 王家主催の大規模なモノになったため、今まで同じお茶会に参加したことのないララスティとエミリアも、さすがに避けることはできなかった。


「お姉様! どうして一緒に会場に行かないんですか!?」


 お茶会の前日、アインバッハ公爵家に行くために別邸を出た瞬間、待ち伏せをしていたエミリアが飛び出してきたそう問い詰めてきた。


「エミリアさん?」


 事前に護衛から人の気配があると言われていたので警戒していたが、いつものように思い通りに動いてくれるエミリアに、ララスティは内心笑ってしまう。


「そう言われましても、わたくしの後見はアインバッハ公爵家のおばあ様ですもの。子供であるわたくしが後見人と一緒に参加するのは当たり前ですわ」

「でも、家族じゃないですか!」

「そうおっしゃってくださるのは嬉しいのですが、こればかりは仕方がありませんわ」


 なだめるように言うララスティに、エミリアは「だって、一緒に行けないと……」と唇を噛む。


「一緒に行けないと不都合がありますの?」

「あります! お姉様と一緒に行かないと、カイル殿下に会えないじゃないですか」

「まあ……」


 ララスティは困ったように首をかしげながら、エミリアの中でカイルへの執着が随分強くなっていることに気が付いた。


「お茶会が始まればカイル殿下に挨拶も出来ますわ。時間が取れれば個別で会話も———」

「それじゃあだめ!」

「え?」

「あ……あの、えっと……カイル殿下にお姉様と仲良くなってるって、見てほしくて」

「…………そうでしたの」


 エミリアはカイルに自分の努力を知って欲しいらしい。

 まるで子供が親に成果を報告する前のような表情に、ララスティはいつかの自分の面影を見た気がしてしまう。


(カイル殿下に依存をしかけている? ふふ、面白いことになってきていますわね)


 ララスティはカイルへ親の愛情を求めた。

 けれどもエミリアはカイルへ、親から受けるはずの正しい導きを求めているのかもしれない。

 どちらも、親が正しく子供に接していれば、他の相手に求めることのないもの。


(お父様たちは本当に罪深いですわね)


 ララスティは気づかれないように内心で笑いながらも、表では相変わらず困ったように頬に手を当てて微笑みを浮かべる。


「えっと、カイル殿下にわたくしとの仲をアピールしてどうなさりたいのですか?」

「え、そうしたら褒めてもらえるじゃないですか」

「褒めていただくことが目的ですの?」

「はい!」


 まるでそこに迷いはないと言うエミリアに、ララスティは「そうですの」と呟き、笑みを浮かべる。


「では、会場で合流したらカイル殿下とお話しする時間を作れるよう、お願いしてみますわ。それでよろしくて?」

「本当ですか!?」

「ええ」


 にっこりと微笑むララスティに、エミリアは感謝を伝えると「絶対ですからね!」と言って挨拶もなしに立ち去っていった。


「困った子ですわね」


 ララスティはあえてそう言ってから待たせている馬車に乗り込んだ。


 翌日、ララスティはカイルにエミリアと話す時間を作ってもらうように頼んだが、カイルからも逆に条件が出された。


「わたくしも同席ですの?」

「当たり前だよね。婚約者以外の令嬢と二人になるなんてありえないしね」

「それはそうですわね。わかりました、同席させていただきますわ」

「うん」


 確かに旅行に行ったときに二人になったのは例外だし、あれはララスティとルドルフの工作があった。

 このように正面から話をしてほしいと言えば、カイルのように婚約者にも同席させるのが常識だ。


(もっとも、エミリアさんが納得するとは限りませんが)


 そんなことを考えながら、ララスティはカイルと共に会場に入る。

 その途端に集まる視線。

 ざっと周囲を確認すれば、周囲の人と少し距離を置いたところにエミリアがいた。

 普通、公爵令嬢ともなれば自然に人が集まるものだが、エミリアは噂のせいで近寄ってくる人が少ない。

 その数少ない令嬢も、下克上に憧れる下位貴族の令嬢ばかりで、エミリアに対して自分の妄想を押し付けてくるので、今度はエミリアが距離を取ってしまうのだ。

 さすがのエミリアも自分勝手な妄想を押し付けられるのは嫌なようだ。

 王家主催のため、舵取りは王妃であるコーネリアが行う。

 挨拶が終わった後、王妃の近くにいるララスティとカイルに早速数人の子女が挨拶に集まる。

 それに対応しながらも、ララスティはエミリアが挨拶に来ない事に内心で眉を寄せた。


(挨拶に来なければ、話し合いのきっかけを作れませんわ)


 ちらりとエミリアを確認すれば、のんきにクロエと軽食を食べており、こちらを気にしている様子はない。

 以前カイルに駆け寄ってきたときとはまったく違う様子に、周囲の人たちも戸惑いを浮かべている。

 だが、エミリアの中では、ララスティがカイルと話す時間を作ってくれるとわかっているので、焦る必要はないと思っている。

 時間になればララスティ()話しかけてくれると思い込んでいるのだ。

 そのことにしばらく気づかなかったララスティだが、エミリアが一向に行動しない割には、たまにこちらを気にかける姿を見て気づき、呆れてしまった。


(カイル殿下と一緒に居るわたくしが、何のきっかけもなくエミリアさんに話しかけると思っているのでしょうか。相変わらず貴族社会の暗黙のルールを理解していませんのね)


 親しくもない関係で、上の者が下の者に個別に話しかけることはほとんどない。

 家族とはいえ、この場には王太子の婚約者として参加しているララスティは、ただの公爵令嬢であるエミリアよりも上の立場だ。

 それに世間的にはララスティとエミリアは親しくはない。

 ララスティは家族と距離を縮めようと努力し、フォローもしているが、アーノルトたちがそれを台無しにしていると印象を操作している。

 それに、内心で考えていることはともかく、ララスティの動きは実際にそう見えるようにしている。

 エミリアがララスティに対して、家族で(・・・)食事をするよう誘っている事実を認めつつも、嬉しい反面家族仲を見せつけられて悲しいと言う話も広めている。

 実際、一緒に食事をしてもララスティに絡むのはエミリアのみで、そのエミリアもすぐ別の話題に気をそらしてしまう。

 そんな状態を隠さず話すララスティに同情こそ集まれど、エミリアの行動を称賛する者はいない。

 招待するのであれば、ちゃんと最後まで気を使って場の空気に馴染めるように配慮すべきなのだ。

 それができないのであれば招待する資格はない。


「彼女、視線だけ向けてくるけど、もしかして僕たちが挨拶に行くと思ってるのかな?」


 人が切れた瞬間、カイルがこそっと耳打ちをしてきたので、ララスティもカイルの耳に口を寄せて「恐らく」と返した。

 その様子は婚約者同士と言うこともあり親密に見え、小さく「キャー」という嬉しそうな悲鳴が小さく上がった。

 だが、周囲で喜びの悲鳴を上げている者がいる一方、カイルとララスティの親密な様子を見たエミリアは、ショックを受けたような表情を浮かべた。


(なんで仲良さそうにしてるの? 政略的な婚約でしょ? それに、あたしと話す時間を作ってくれるって言ってたのに、他の子の相手ばっかりで全然あたしのところに来てくれない。嘘だったの?)


 ムッとしたエミリアは軽食の乗った皿をクロエに押し付けると、駆け足にならないギリギリの速度でカイルとエミリアに近づいていく。

 周囲の貴族は、以前のパーティーの二の舞になるのではと警戒したが、前回のように駆け寄る事もないため、さりげなく道をふさぐしか出来ない。

 邪魔をされてなかなかカイルとララスティに近づけないエミリアは、次第にイライラしていくが、怒鳴ってしまってはアーノルトと同じようになってしまうとぐっとこらえる。

 エミリアが近づいてきたことに既に気づいているララスティは、カイルに確認すると、周囲に視線で道を譲るように指示を出す。

 その指示を受けて道を開け始めた貴族に、何が起きたのかわからないエミリアは驚きながら、導かれるように前に進む。

 カイルとララスティの前に辿り着いたエミリアは、カイルを見て嬉しそうな笑みを浮かべる。


「こんにちは! カイル殿下!」


 敬称を間違えずに言えたことを満足しているようで、すでに褒めて欲しそうに目を輝かせている。


「……ごきげんよう、エミリア嬢」


 カイルはララスティへの挨拶がないことにわずかに機嫌を悪くしながらも、義務としてエミリアに返事を返す。

 エミリアは挨拶をしたきり特に何かを言うわけでもなく、ニコニコとカイルの言葉を待っているようで、カイルは内心でため息を吐きそうになった。


「………………ララスティ嬢への挨拶はないのかな?」

「え? お姉様にもするんですか? えーっと、こんにちは、お姉様」

「ごきげんよう、エミリアさん」


 エミリアの顔にはどうしてこんな無駄なことをという感情が浮かんでおり、カイルはエミリアの性格は貴族に向かないと思えて仕方がない。

 挨拶が終わったのだから、早くカイルと話す時間を作って欲しいと言うようなエミリアに、ララスティは困ったように笑みを浮かべる。


「カイル殿下」


 ララスティがエミリアの視界に入るようにカイルの袖をつまんで合図を出せば、カイルは小さく頷いた。

 その様子も仲のいい婚約者同士に見え、周囲は安堵の雰囲気に包まれるが、エミリアにとってはヤキモチの対象でしかない。


(お姉様、もしかしてあたしに見せつけてるの? 愛の無い関係のくせに!)


 エミリアはそう考えてララスティを睨みつける。

 その様子が周囲の者にしっかりと目撃されているとも気づかずに……。


王家主催の催し事は決まっているものもあれば、決まっていないものもあります。

今回のお茶会は不定期に開かれるものなので、今まで登場しませんでした。


Eパートということはエミリア&カイルのターン!

だが、ここで進展するわけではないのです♡


進展しないのに書くのかよ!とツッコミを入れたくなったあなた!ブクマや評価をお願いします!★★★★★

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