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花咲くおしゃべり②

 クルルシュが帰国した数日後、ララスティはマリーカとシルフォーネの三人でのお茶会に参加している。


「ルティお姉様のお家にお邪魔するのも久しぶりですね」


 マリーカがそう言って手土産のジャムを披露していると、隣に座っているシルフォーネがジャムの瓶を手にしながら頷く。


「本当にそうですネ。まあ、ルティはお呼ばれする方が多いから仕方がないですケド」

「申し訳ないと思っておりますわ。ただ、お客様を頻繁に呼ぶと、本邸のかたがあまりいい気分にならないのではと思うと、どうしても二の足を踏んでしまいますの」

「ああ、なるほどですヨ」


 シルフォーネが手にした瓶からララスティに視線を向ける。


「カイル殿下を呼ぶならむしろ喜びそうですけど、面倒な虫も寄ってきそうですヨ」

「虫って……もしかして彼女のことですか?」


 マリーカが可笑しそうに笑うと、シルフォーネが「もちろんですネ」と頷く。


「ルティが参加していないお茶会では、自分に教養がないのがバレないように必死で、見ていて笑わないようにするのが大変ですヨ」

「わかります! 彼女、なんというか……こう、必死になればなるほど墓穴を掘っていきますよね」

「いまだにカイル殿下と二人で旅行を楽しんだと吹聴してるあたり、学習能力がないことはわかりきってますネ」

「あら、エミリアさんはいまだにその話をなさっておりますの? 最近はわたくしに確認に来る方がいなかったので、もうしていないのかと思いましたわ」


 シルフォーネとマリーカの会話に、ララスティが驚いたように口をはさむと、二人は「こりない人だから」と顔を見合わせて笑った。

 令嬢たちの間ではエミリアは虚言癖か妄想癖がある、『お可哀相な人』という目で見られているらしい。

 ララスティはエミリアが参加するお茶会には、シシルジアに確認して参加しないようにしているため、実際にどのような話をしているのかは知らない。

 しかし、聞くところによると「保養地での旅行を楽しんだ」「カイル殿下と一緒に過ごした」「二人の時間が幸せだった」と言う事を中心に話しているらしい。

 そこに嘘はないのだろう。

 ただ、話の組み立て方が、まるでエミリアとカイルが二人で旅行に行き、楽しく過ごしたように受け取れるようになっているのだろう。


(相変わらずそう言うのはお上手ですのね)


 前回もそうだった、とララスティは思い出す。


「でも……、実際のところ下位貴族のご令嬢は、彼女とカイル殿下の仲を応援する人もいますヨ」

「まあ! どうしてそうなるんです? ルティお姉様という人がいますのに!」


 マリーカが怒ったように言うのを宥めつつ、ララスティはそんな人がいるのかとシルフォーネを見る。


「よくある下克上ものに夢を見ているようですヨ。男爵令嬢は貴族とはいえ平民に近い存在だから、どうしてもそっちの目線に立ちやすいですネ。だから、元庶民の彼女に味方したいと思うようですヨ」

「ふんっ、なにもわかっていないのですね。王太子妃になるためには教養だけでなく品格も必要になると言うのに。平民上がりで周囲からの信頼を得ていない彼女を応援だなんて」


 マリーカが引き続き怒って言うと、ララスティは困ったように笑う。


「男爵位の方々は平民と結婚する家も多いですし、仕方がありませんわ。とはいえ、だれでも簡単に王太子の婚約者になれると思われるのも困ってしまうのですが……」


 ララスティの言葉にマリーカとシルフォーネは「当然」と頷く。

 しかし夢を見るのはただと言わんばかりに行動するのが平民や下位貴族だ。

 もっとも、だからといってそう言った考えや行動を制限することはできない。

 ジャムの瓶をテーブルに戻したシルフォーネは、「困ったものですヨ」とため息をつく。


「特に今は、伝染病のせいでまだ貴族全体が混乱してますネ。だからこそ、平民も入り込めると考えているのかもしれないですヨ」


 こんな時こそ貴族は結束を固めるべきなのに、とシルフォーネは肩をすくめた。


「でも、彼女は半分貴族の血が流れているとはいえ、平民から貴族になりましたヨ。しかも公爵令嬢。平民からしたらまさに下克上を見ているような感じでしょうネ」


 シルフォーネの言葉にララスティは苦笑してしまう。

 もしかしたら前回も、そういった下地があったからこそエミリアがカイルに好意を寄せるのを、周囲は受け入れたのかもしれない。


(様々な要因が重なっていたのかもしれませんが、結局のところわたくしの行動がよくなかったのは確かですわ)


 そこは反省すべき点だ。

 だって、ララスティはこうしている時点でエミリアにもカイルにも勝利している(・・・・・・)のだから。

 カイルとエミリアが結ばれたところで王家としては何の意味もない。

 ルドルフのところに子供ができても、複数人いなければ王家に養子に出すことはない。

 その約束でセレンティアを王家に嫁がせた。

 だからこそ王家はルドルフの婚約者を早々に決め、予備の用意を怠らなかったが、全ては伝染病で台無しになった。


「ワタシたちのような高位貴族は、横の繋がりを大切にしていますけど、下位貴族は縦の繋がりに目をやりがちですネ」

「権力志向が強いだけなんですよ。本当に大切な物が見えていないんです」


 マリーカがそう言ってお茶を飲むと、シルフォーネも肩をすくめた。


「けれど、そう言ったことに夢を見ることが原動力となって、平民の動きが活性化するのも事実ですわ。そのことを止めて生産性が落ちては元も子もありませんから、難しいですわね」


 ララスティがそう言ってマリーカに続くようにお茶を飲むと、「確かに」二人は頷いた。

 結局、エミリアに関してはこのまま様子を見ていくと結論が出たところで、メイドがララスティに近づく。

 エミリアがララスティを今夜の夕食に招待したいと言っているらしい。

 メイドの話を聞きララスティがため息をつくと、マリーカが「まだそんなことを!」とまたもや憤慨した。


「楽しくもない食事に懲りずに誘ってくるなんて、本当に学習能力がないんですね」

「うーん、彼女に悪気はありませんのよ。ただ、そうですわね……ちょっと、あの雰囲気の中で食事は楽しめませんわね」


 言いにくそうにするララスティに、マリーカは怒りを抑えられないように頬を膨らませる。

 ララスティは今までのお茶会でも散々、エミリア以外に無視されるような食事会、誘ったエミリアも自分に話しかけられるとすぐそちらに夢中になって、ララスティを気にかけなくなる。

 それは実際その通りで、エミリアに他の令嬢がお茶会で確認をした際に、エミリアは「そんなこと!」と否定しながらも、もしかしたらララスティには悪いことをしているかもしれないと認めている。


「申し訳ないけれど、今日はお断りするとお返事をしてもらえるかしら?」

「かしこまりました」


 ララスティの返事を受けてメイドが下がり、廊下に待機している執事に内容を伝えて所定の位置に戻る。


「そういえば、食事もそうだけどカイル殿下とのお茶会に参加したいというのは、まだ言っているんですか?」


 マリーカが言うとララスティは苦笑しながら頷く。


「まったく、ずうずうしいですね。婚約者の親睦会に異母妹が参加するなんて!」

「そもそもカイル殿下と楽しく過ごしたというのが嘘なら、カイル殿下は彼女にいい印象を持っていないと思いますヨ」


 二人の言葉にララスティは困った笑みを浮かべたままあえて何も言わない。

 カイルとエミリアの間にあったわだかまりがいくらか解消したのは、カイルとの話でもわかる。

 最近家族とはどうなのかと聞いてくるようになったのだ。

 それがカイルなりにエミリアを気にかけている証なのかもしれないし、今後さらにエミリアを気にかけていくようになるかもしれない。

 けれど、カイルはララスティに真実の愛の行く末を見せる以外何もできない。

 正統な血が流れていない時点で、ララスティとの婚約がなくなれば必要ないのだ。

 前回では生かされていたようだが、子種を殺す薬を秘密裏に飲まされていたらしい。

 そして結局ララスティとルドルフの子供を養子にして、自分は何も残らないまま死んだ。

 いや、エミリアとの真実の愛だけは残ったのだろうか?


(クルルシュ殿下もルドルフ様も言わなかったけれど、離宮に隠居してからの行動を監視していないわけがないもの。離宮に行って比較的すぐに亡くなったのだって何かがあったのかもしれない)


 けれどもなにか因果応報な終わり方をしたところで、今のララスティの心に響くかと言われたらそんなことはない。

 だから何だと思うだけ。

 あくまでもララスティの中では前回の人生は事故に遭った時で終わっている。

 その後に何かあったとしても、他人事のような感覚だ。


(もっとも、ルドルフ様と事実婚というのは衝撃的でしたが……)


 思い出して顔が赤くなりそうなのを我慢し、ララスティはマリーカとシルフォーネの会話に集中する。

 二人はエミリアの悪口を言い続けているが、ララスティは「あまり悪く言わないで欲しい」と宥める。

 あくまでもララスティは家族を思いやる可哀相な令嬢でいなければならない。


「二人とも、もしわたくしのために、無理をして彼女を悪く言うのならそれはだめでしてよ? エミリアさんは急に貴族になって教育を受け始めたんですもの、慣れるのにはもう少し時間がかかるかもしれませんわ」


 「その証拠に、少しずつ良くなっている」というララスティに、マリーカとシルフォーネは眉を寄せる。


「「いい人すぎです(ヨ)」」

「そうでしょうか? だって、家族ですからお互いにフォローできるところはしたいでしょう?」

「ルティが一方的にフォローしてるだけになるですヨ」

「その通りです! お姉様に甘えているんです!」

「まあまあ、二人ともどうか落ち着いてくださいませ」


 ララスティはそう言いながらも、この二人がララスティの意図をくみ取り、程よくまた噂を広めてくれることを知っている。


あれ? ルドルフとクルルシュのお話し合いは? と思ったあなた!

そこはまーだ内緒なのです!

書きたい! 私だって書きたい! でもまだステイなのです!


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