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残響と花巡り①

 ルドルフが部屋から出て行ったあと、ララスティはカイルに誘われて、夕食までの間コテージ付近を二人で散策することになった。

 その際にどこからともなくエミリアが現れ、いつのまにか三人で行動しているということはあったが、比較的穏やかに過ごすことができたといえるだろう。

 夕食でもエミリアがお代わりを要求したり、味についてランバルト公爵家のほうがおいしいものもあると言ったりしていたが、そこまで騒ぎにはならなかった。

 またカイルも昼食時のような指摘をすることもなく、相変わらずエミリアをいない者として扱っていたが、エミリアは必死にカイルに話しかけようとしていた。

 見かねたふりをして、ルドルフが翌日にカイルとララスティで湖を見に行ってはどうかと提案してきたので、ララスティもカイルも楽しみだと言って行くことを決めた。

 それを聞いていたエミリアが何かをたくらんでいる様子だったが、ララスティはあえて気づかないふりをして、横に座るカイルに「楽しみですわね」とのんきさを装って言う。

 カイルも「どんなところだろう」と期待を隠せないようで、年相応の少年らしさが垣間見えた。


 その日の夜、メイドも部屋から下がった一人の時間。

 ララスティは明日のことについて考える中、ルドルフが言ってきた愛について思い出しては胸を手で押さえてしまったり、熱くなってくる頬を手で押さえたりと忙しい。


(ルドルフ様は大人だから慣れているかもしれないけれど、わたくしは前回はカイル殿下に必死だったし、今回だってまだ子供なんだから、手加減していただきたいですわ)


 そう思いながらも、まんざらではないのか、ララスティの口角は知らずに上がってしまっている。

 熱のこもったルドルフの視線はどこか心地よく、決して自分を見捨てないのだという何かを感じることができる。

 愛していると告げられて戸惑いはするものの、決して嫌なわけではない。

 むしろ心がフワフワして、これが嬉しいという感情なのかと理解するのに、少々時間がかかってしまうほどだ。

 ルドルフは大人ではあるけれども、ララスティの親と言うには少し若い。

 けれども兄と言うにはいささか離れている。

 十三歳という何とも微妙な年の差に、距離感をどうすればいいのかわからずにいるのだが、あのように愛を伝えてくれるのであれば、もう少し近づいてもいいのかもしれない。

 そうララスティは期待してしまう。


(だって、わたくしのことを愛してくれていますのよね?)


 それならば拒否されることなんてない。

 前回カイルに向けていた親へ求める愛情を、無意識にルドルフに向けようとしているが、本人は気づいていない。

 ララスティはアインバッハ公爵家の者から家族の愛情を感じることはあるが、どうしても他の家族という意識があるため、壁を一枚作ってしまうのだ。

 だからコールストを慕っていても、親へ向けるような無償の愛を求めるのはためらってしまう。

 愛情の求め方がいまだにわからないララスティにとって、まっすぐに愛を伝えて来たルドルフは、無償の愛を期待してしまう存在になりつつある。


(でも、もしルドルフ様がわたくしを疎ましいと思ってしまったら?)


 そう考えると、高揚していた気分が一転して沈み込んでしまう。


(もしそうなってしまったら、耐えられませんわ)


 ならばいっそ、初めから期待させないで欲しいとララスティは考えてしまう。

 そんなことを考えながらベッドの上で悶々としているうちに、いつの間にか眠りに落ち、ララスティはどこか懐かしい夢を見る。


 いや、懐かしいのだろうか?


 知っているようで知らない記憶を見ているような、水の膜を張った向こう側から自分を呼ぶ優しい声に曖昧に頷く。


『リリー、自然の中の空気はどうだい?』

『リリー、見えるかな? 綺麗な花だと思わない? 香りもとてもいい』

『りりー、湖が輝いているようだよ』

『リリー、この果実を食べてごらん。甘くておいしいよ』


 優しくこちらを労わってくる声。


 知っている声だが、誰の声なのかわからない。

 いや、知っている。

 そう……この声は———


(ルドルフ様の、声……)


 夢の中、ララスティは笑うことも感謝を伝えることもできず、ただ甘やかされる。

 ただ存在してくれているだけで愛おしいと伝えられ、大切に守られる。


そんな、まるでララスティの願望を閉じ込めたような甘い夢。

 揺蕩うようなその夢にずっと浸っていたいと願ってしまうような、優しい夢。


 ふと、何かを感じて目を覚ますと、薄暗くまだ夜明け頃なのだとわかる。

 それでも目が覚めてしまったので気持ちを切り替えて起きてしまおうと、ガウンを羽織ってベランダに続くガラスドアを開ける。

 流れ込んでくる冷たい風に、僅かに残っていた眠気がなくなり、朝の冷たい空気を思いっきり吸い込んで、「ふう」と息を大きく吐きだした。

 朝の誰もいないであろう時間だからこそできる、淑女の姿とは少し外れた行い。

 少しの罪悪感はララスティの心をどこか高揚させ、起きたばかりだというのに何か行動したい気分になってくる。


「おはよう、ララスティ」

「きゃっ!?」


 誰もいないと思っていたのだが、隣の部屋のベランダにはルドルフの姿がいつの間にかあり、思わず小さな悲鳴を上げてしまったララスティは、咄嗟に自分の手で口を押さえてしまった。

 そんなララスティの仕草が面白かったのか、ルドルフは小さく笑うと「眠れなかったのかな?」と優しく問いかけてくる。


「いいえ、いつの間にか眠ってしまっていたのですが、初めての保養地に興奮しているのか目が覚めてしまいましたの」

「なるほど。昨晩は宿でなかなか寝付けなかったと言っていたから心配したけど、今日は逆だったのか」


 くすりと笑うルドルフにララスティは、自分の子供っぽい行動に頬を赤くしてしまう。


「ルドルフ様こそ、随分早いのですね」


 誤魔化すように言ったララスティの言葉に、ルドルフは「ああ」と頷いた。


「私も少し目が覚めてしまってね。朝の散歩にでも行こうかと思ってたんだ」

「散歩ですの?」

「うん。良ければ一緒に行くかい?」


 本当はララスティがベランダに出た音で目が覚めたのだがそれを隠し、ルドルフは自然な流れで散歩に誘う。

 ここまで目が覚めていればもう一度眠るよりも体を動かして起きてしまった方がいいと考えたのだ。


「そうですわね、ご一緒させていただきます」

「じゃあ、着替えておいで。さすがにその恰好で散歩はダメだよ」

「あっ……はい」


 ララスティは今の格好が寝着の上にガウンを羽織っただけであることを思い出し、再度顔を赤くして部屋の中に戻る。

 夜番のメイドを呼んで着替えと軽く髪をセットしてもらい、隣のルドルフの部屋の扉をノックする。

 するとすぐさまルドルフが姿を現し、「じゃあ、行こうか」とララスティをエスコートするように歩き出した。

 身長差があるため腕を取る事は出来ないため、差し出された手を握る形ではあるが、なれないエスコートに逆に緊張してしまう。


(手袋をしてくるべきでしたわ)


 手とはいえ、素肌が触れ合う感触にララスティは淑女としての嗜みを思い出すが、今から戻るのは逆にルドルフに失礼だと思いなおし、開き直って気にしないように努める。

 そんなララスティの考えをお見通しなのか、ルドルフは見えないように小さく笑うと、少しだけ握る手に力を籠める。


「ひゃっ!」

「ん?」

「……なんでもありませんわ」


 緊張もあって変な声が出てしまったと顔を赤くするララスティ。

 そんなララスティを可愛らしいと思いながら、ルドルフはララスティの歩調に合わせて歩き、コテージを出る。


「わあ」


 ベランダに出ていた時も感じていたが、朝靄のかかっている風景をめったに見ることがなく、その幻想的な雰囲気にララスティは無意識に声を出してしまう。


「あっちの花壇に行ってみよう」

「はい」


 進んだ先には庭師によって手入れをされた朝露を纏った花々の姿があり、ララスティはその色鮮やかさに、またもや感嘆の声を漏らしてしまう。

 そこには先ほどまでの緊張はなく、ただ愛らしいとルドルフは優しく目を細める。


「ルドルフ様、近くで見てもよろしいですか?」

「もちろん。でも、地面も濡れているから気を付けて」

「はい」


 つないでいた手を離したララスティは花壇に近寄り花を覗き込む。

 朝露のせいなのか、いつもよりも濃い花の香りが鼻孔をくすぐり、ベランダでかいだかおりとは別の新鮮な香りに、思わずうっとりとしてしまう。


「こういったものは、この時間に起きなければ体験できないのですね」

「そうだね」


 ララスティは嬉しそうに振り返って言うと、少しだけ名残惜しそうに花を見てからルドルフの元に戻る。


「もっとゆっくり見ても構わないよ。目的のない散歩なんだし」

「いえ、他のところも見てみたいですわ」

「なるほど。では、ご案内しましょう、お嬢様」


 どこかふざけた調子で言うルドルフに、ララスティは思わず笑ってしまう。

 そのころには出がけに感じていた緊張は、どこかに消えてしまっていた。


な、難産っ!!

メインカプの話なのに難しかった!

恋する乙女の描写がやっぱり苦手な私です!

勉強が足りないですねぇ(´;ω;`)


ブクマや評価をどうか、どうかどうかお願いします!★★★★★

ご意見ご要望ご感想どんどんお待ちしております!

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