憧れと嫉み①
下拵えD(!?)がはっじまるよ~!!
春のパーティーから一ヶ月が経った五月に入っても、アーノルトたちの醜聞は当然消えていない。
クロエはお茶会に呼ばれることがなくなり、エミリアは社交デビューをしたというのに、どの家からも声がかからない。
自分たちで主催しようとしても手順が分からず、シシルジアに聞いたところで、恥の上塗りになるからと止められてしまう。
八方塞がりな状態の中、エミリアはなんとか挽回のチャンスをつかもうと、ララスティのいる別邸に行こうとしたが、扉のところで執事に追い返されてしまった。
またララスティの所有物を好きにされるわけにはいかないからだという。
さらに、訪問する時は事前に連絡をし、了承を得てから来るようにと念押しをされ、エミリアはその場で約束を取り付けようとしたが、明日は予定があるためエミリアに会うことはできないと断られてしまった。
(お姉様、予定ってなにかしら? あたしたちはお茶会とかできないのに、お姉様はできるの?)
エミリアは内心で不満に思いつつ、明後日会えないか尋ねたが、ララスティに確認するとだけ言われ、本邸に戻るよう促されてしまった。
仕方なしに本邸に戻ろうとしたエミリアだったが、ふと、中庭にララスティがいるかもしれないと思い、執事がいないのを確認してから別邸を回り込んで中庭に向かう。
本邸のものとは違い、そこまで広いわけではないが、きちんと整備されており、ところどころに背の高い生垣もあって見通しがいいわけではない。
エミリアは少し迷いながらも以前も辿り着いたガゼボに到着し、そこでお茶を楽しんでいるララスティを発見した。
「お姉様!」
「まあ! エミリアさん?」
突然声をかけられて驚いたのか、ララスティが目を丸くしてエミリアの名前を呼ぶ。
エミリアは素早い足取りでララスティの横まで行くと、許しもなく、またララスティと同じ椅子に座った。
「すみませーん、あたしにもお茶ください! のど渇いちゃってるんで、ぬるめで!」
傍に居たメイドに遠慮なく言うエミリアにメイドがララスティを見ると、ララスティは苦笑して頷いた。
メイドがすぐにお茶の準備を始めるが、「ぬるめではなく、アイスティーの方がいいかしら?」とララスティが言ったため、エミリアは「あ、そっちのほうがいいかも!」と手をパンッと合わせた。
「ではそれでお願い」
「……かしこまりました」
メイドはそういうと氷を取りに行くため下がり、その場にはララスティとエミリアだけが残される。
「えっとぉ、お姉様って明日は用事があるのよね?」
「ええ。王宮に伺うことになっておりますの」
「それってカイル様、じゃなくってカイル殿下と会うってことですか?」
ララスティの言葉にエミリアが嬉しそうに言うと、ララスティはゆっくりと頷く。
「いいなぁ。……ねえ、お姉様。あたしも一緒にいっちゃだめですか?」
もう社交デビューも終わってるし、というエミリアの言葉にララスティは困ったように微笑む。
「エミリアさんはカイル殿下の婚約者ではないでしょう? 私が行くのは婚約者同士の交流のお茶会のためですわ。他のかたをご招待するのはカイル殿下に確認する必要がありますの」
以前カイルにエミリアが参加したいと言い出していると話した時、はっきりと好ましくないと言っていたが、あえてそのことは伏せる。
「ちょっとぐらいいいじゃないですか~! あっそれかカイル殿下を家に呼びましょうよ! ほら、前は家でお茶会をしてたじゃないですか!」
名案とばかりに顔を輝かせるエミリアだが、ララスティはそれには事前の準備が色々と必要になると話す。
警備の問題もだが、提供する飲食物、季節や天候に合わせたお茶をする場所、こちらが着用するドレスやアクセサリー、そういったものの準備をするのは一朝一夕で出来るものではない。
ララスティの話にエミリアは「面倒くさいですね」と眉を寄せた。
「面倒でも、何かあってからでは遅いのですわ」
「ふーん。貴族って本当に大変」
「エミリアさんだって今は貴族でしょう?」
ララスティの言葉にエミリアは「そうですけど」と口を尖らせる。
「でもなんか、思ってたのと違うっていうか……退屈だし思ったより窮屈だし、正直平民の時の方が楽しかったなぁって。もちろん、こんなきれいな服を着るとかはできませんでしたけど、このドレスとかも着るのに時間がかかるでしょう?」
エミリアがスカートをつまんで言うと、ララスティは「あらあら」と苦笑してしまう。
「わたくしたちはまだ子供だから身支度に時間がかからない方ですわ。大人の女性になるとコルセットはもっときつく締め付けられる時がありますし、スカートも長く重くなりますわ」
「あー! それ! お母さんがすっごい文句を言ってるんですよ! なんとかなりません?」
エミリアは指をさして言って来たので、ララスティはさりげなくその指を下げさせながら、「コルセットが要らない体型を維持したり、新しいデザインのドレスを考案するしかありませんわね」と話した。
「お母さんにそんなのできるかなぁ」
無理そう、と呟いてエミリアは大きくため息をついた。
「あーあ、お姉様みたいにいろんな才能があればよかったのに。そうしたら人生勝ち組ですよねぇ」
なんせ未来の王太子妃でしょう。と羨ましそうに言うエミリアに、ララスティは内心で「その座を奪ったのは貴女だけど?」と思いつつ、表向きは「そんなことありませんわ」と言う。
「わたくしだってそこまで多才ではありませんのよ。貴族令嬢の嗜みの中で刺繍やレース編みが少し得意なぐらいですもの」
「でも、勉強もできるんですよね?」
「それはまあ、カイル殿下の隣に立つ者として無知でいることはできませんもの」
「そっかぁ」
ララスティの言葉にエミリアは「うーん」と何かを考えるように唸る。
「お姉様は、なんでカイル殿下の婚約者になったんですか? 王命なんですよね?」
不意にそう聞いて来たエミリアに、ララスティは内心で少し背中を押してみるか、と笑う。
「ええ、王命ですわね。恐らくですが年齢の釣り合った高位貴族令嬢の中で、わたくしは少し特殊ですから、それを理由にしているのかもしれませんわ」
「特殊って?」
エミリアがきょとんとした顔をしているので、ララスティは母方の祖母が帝国の元皇女であることを説明する。
そして、憶測で確証はないが、伝染病を解決する手立てを作ってくれた恩や、アマリアスが所有している農耕地の件を考えてララスティを選んだのではないかと伝えた。
すると、エミリアが「なにそれ!」と怒ったように声を上げる。
「それってお姉様の意思を全く無視してるじゃないですか! ひっどい!」
「貴族の婚約や結婚とはそういうものですわ」
「お姉様はそれでいいんですか!?」
エミリアの言葉にララスティは寂しそうな笑みを浮かべると、「しかたがありませんわ」と口にする。
「けれど、カイル殿下もわたくしもお互いに愛情があるわけではないですし、本当に好きな相手ができたら、穏便に婚約解消に動こうと話し合っておりますのよ」
「え!?」
ララスティの言葉が意外だったのか、エミリアが大きな声を出した。
「そ、そんなのありなんですか?」
「本当はいけないのでしょうが、わたくしはあまり幸せな家庭に恵まれている方ではありませんので、将来のパートナーは愛せる相手を見つけられればそれでいいと思っておりますの」
「あっ……」
そこでアーノルトのララスティに対する態度を思い出したのか、エミリアはシュンとしてしまう。
「なんか、ごめんなさい」
「なにがでしょう?」
「お父さん、お姉様を打ったりしたから」
エミリアの言葉にララスティはびくりと体を震わせたが、次の瞬間には「気にしないでくださいませ」と笑みを浮かべた。
「そう? でも、さすがに女の子の顔を打つのはないですよね! お父さんにもいっぱい文句を言ったんですけど、もし痕が残っちゃったらお姉様がお嫁に行けなくなっちゃうじゃないですか」
「……そう、ですわね」
「平民でも顔に傷のある女の子って難しいのに、貴族なら余計に大変でしょう? もう、本当にお父さんって仕方がないですよね」
わらうエミリアにララスティは柔らかな笑みを返す。
(お父様のことを責めるのに、自分がわたくしのものを奪っていったことには触れませんのね)
自分が悪いことをしたとまだ受け入れることが出来ないのかもしれないが、引き伸ばせば引き延ばすほど立場が悪くなっていくだけだ。
もっとも、エミリアの立場が悪くなろうともララスティにはどうでもいい。
「……そういえば、明日のカイル殿下とのお茶会ですが」
「はい! どうかしましたか?」
ララスティが話を戻すと、エミリアは食いついてくる。
「少し長めのお話になるかもしれませんわ」
「え? なんでですか?」
「カイル殿下と保養地に行くことになっておりまして、その最終確認をする予定ですの」
「……二人で旅行に行くって言う事ですか?」
「二人ではありませんわ。保護者としてルドルフ様もいらっしゃいますし、メイドや侍従、警護の者もそれなりの人数がつきそいますもの」
ララスティはそう言って微笑むが、エミリアは「でも、二人で旅行に行くんですよね」と引かない。
その目には、あからさまに羨望と嫉妬の色が浮かんでおり、ララスティはもう一押し、と内心でにんまりと笑う。
「王都からそこまで離れたところではありませんが、湖が綺麗と評判なのだそうです。わたくしも初めていくところですし、今から楽しみですわ」
「へー、いいですね」
どこか上の空になったエミリアを見て、ララスティはどう出るかと内心楽しみで仕方がない。
Aが長くなってきたのと、ここからエミリア&カイルを意識+ルティ&ルドルフを意識していくのでDに変えました!
Aに変わりましてDがルティのメイン、Bは相変わらずルドルフの裏工作、CがなくなってE(!?)がエミリア&カイルメインの話になる……かもしれない!(未定!
この先のプロットはできててもまだふわふわしてる私に応援をよろしくお願いします!
あ、風邪ひきかけてます!(バカじゃなくてアホの子だから




