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喉元に爪を立てる①

「失態とは、ずいぶんですね」


 アーノルトが苦々しく言うと、ルドルフは目を細めた。


「高位貴族家の当主として吹聴すべきではないことを言い、王太子であるカイルに楯付き、独自の価値観で家庭内の醜態をさらし、挙句に衆人環視の中でララスティに暴力を振ろうとした。これを失態と言わずどうしろと?」

「なっ!」


 嘲笑うように告げたルドルフの言葉にアーノルトは顔を赤くする。


「確かに、カイルが王太子だから全ての事に頷けとは言わない。だが、たかがエミリア嬢のハンカチを受け取らないことに文句を言うとは。挙句、自分の婚約者の扱いについて意見を言ったカイルに、家庭内のことだから黙っていろというようなことを言ったそうじゃないか。王太子の婚約者が虐げられていて黙っていろと? 貴殿は王家を馬鹿にしているのかい?」

「そんなこと……」

「だが、実際に王太子の婚約者を蔑ろにしている」

「蔑ろだなんて……我が家は当然のことをしているだけです」


 はっきりと告げたルドルフに、アーノルトは反論するが、返ってきたのは冷たい笑みだった。

 ルドルフとアーノルトのやり取りに、エミリアは戸惑いながら、きょろきょろと視線を動かすしか出来ない。

 しかし、頭のどこかでアーノルトの言っている事が本当に正しいのか疑い始めている。

 平民だった時は周囲が自分たち家族を気にかけ、いつだって親切にしてくれていたし、よく遊ぶ友達もエミリアの行いを否定することはなかった。

 貴族になってからも、アーノルトはいままで貴族として過ごせなかった分、エミリアの分までランバルト公爵令嬢として優遇されていたララスティの物は好きにしていいと言われた。

 ララスティの物は、本来エミリアの物だとそう言われた。

 だから疑うことなく気に入ったものは貰った(・・・)

 けれども、ララスティだけでなくカイルからも否定されてしまった。

 ルドルフが話しているララスティを蔑ろにしているというのは、エミリアがララスティのものを好きにしているということ自体を言っているのでは、と考えてしまうのだ。


(でも、あたしは別に蔑ろになんてしてないし……)


 ララスティも最初は抵抗したが、最終的には快く(・・)エミリアにくれた、と内心で考え、エミリアはアーノルトとルドルフを見る。


「ほう? 当然のことだから反抗したララスティをまた打とうとしたのか?」

「それは……」

「今回の件で、ランバルト公爵は日常的にララスティに暴力をふるっている、そう考える者が出てくるだろうな」


 ルドルフの言葉にアーノルトはぎょっとする。


「俺は日常的に暴力なんかふるってません! そもそもあいつと会うことがほとんどないのに!」

「だから?」

「え?」


 冷たく問い返したルドルフに対し、アーノルトは間抜けな声を出した。


「貴殿のどんなにそう言ったところで、実際に大勢の目の前で暴力をふるいかけた事実は変わらない。そして、それを見た者がどう捉えるかは、相手の常識に左右されるが、それこそ各自の自由なんじゃないか?」


 躾とも思えない状況でララスティを打とうとしたアーノルト。

 さらに、エミリアの口から以前にもララスティを打ったことが暴露された。

 今頃パーティー会場では、貴族たちがアーノルトの行いで盛り上がっているだろう。

 以前から同情を集めていたララスティの不遇さに、さらなる同情部分が増えたのだ。


「しかも、異母姉の個人的な所有物を、異母妹に自由にさせる父親。あからさまな贔屓を良く思わない者もいるだろう」


 そう言ったルドルフはエミリアを見て、同情をするように目を細めた。


「エミリア嬢も巻き込まれて気の毒だね」

「え!? あたしですか?」


 驚くエミリアにルドルフは頷く。


「ランバルト公爵はララスティに対して非道な行いをしている事実を、多くの者の前で証明した」

「え?」


 よくわからないというエミリアにルドルフは丁寧に説明する。

 姉妹格差は元より、ララスティの意思を考慮せず蔑ろにし、異母妹に従うことを当然としている事実。

 反抗すれば躊躇うことなくララスティに暴力をふるっている事実。

 それが、王太子の婚約者に対する行いである事実。

 王太子であるカイルに対する行動も相まって、王家を蔑ろにしているとも取れる行動である事実。


「ララスティはアインバッハ公爵家の養女になることも可能なのに、ランバルト公爵()の願いで、まだ養女になっていない」

「お姉様が養女に!? なんでですか!」


 驚きのあまり大声を出してしまうエミリア。

 ルドルフは話してすらいないのかと、アーノルトをチラリと見た後にエミリアに視線を戻す。


「ランバルト公爵家には君がいるじゃないか」

「あたし?」

「そうだよ。ランバルト公爵は君を正式に家の籍に入れた。それは君がランバルト公爵家の継承権を得たということだ。つまり、現時点でランバルト公爵家の跡継ぎは二人いることになる」


 ルドルフの言葉にエミリアは少し考えた後、恐る恐る頷いた。

 そんなエミリアに、ルドルフは優しい笑みを向ける。


「だが、アインバッハ公爵家には跡取りがいないんだ」

「……えっと、お姉様の親戚ですよね?」

「そう。ララスティの母方の実家になるね」

「どうしてお姉様がその家の養女に?」


 理解しきれていないエミリアにルドルフは現在コールストの跡取りとして、一番ふさわしいのがララスティであることを説明した。


「でも、お姉様はうちの……」


 ランバルト公爵家の跡取りなんじゃ、と言いかけたエミリアは、自分の考えに違和感を覚える。


(跡取りなのに王太子の婚約者って、おかしくない? アインバッハ公爵家の養女になっても、カイル様の婚約者は変わらないのよね?)


 エミリアの疑問は、貴族教育が足りていないが故のものなのだが、それに気付いていない。

 子供が当主になれない場合、孫が当主になることは可能だし、養子をとって跡を継がせることも可能なのだ。

 コールストの場合、姪のララスティを養女にし、ララスティが当主になれなくともその子供に当主を任せればいいと考えている。


「君は、ランバルト公爵にこういわれたことはないかな? ランバルト公爵家のものはいずれ全て君のものになる、と」

「あ、言われました! だから大変だけど勉強を頑張れって」


 コクコクと頷くエミリアにルドルフも頷いた。


「その言葉の真意を説明すれば、ランバルト公爵は君を次の当主にしようとしているんだ」

「はあ!?」


 ルドルフの言葉に、エミリアは大声を出してアーノルトを見た。


「ちょっと! そんなこと聞いてないんだけど!」

「言わずともわかるだろう。ララスティよりもエミリアの方が我が家の当主にはふさわしい」

「勝手に決めないで!」

「それに、あれはどうせ家を出るんだ」


 アーノルトがそう言うと、エミリアは「それは、そうだけど……」と声を小さくする。


「あたし、当主なんて考えたこともないよ。だって、大変なんでしょう?」


 平民だった時に、仕事が大変だって言っていたじゃない、とエミリアは言う。


「その時って、おじいちゃんの補佐だったんだよね? でも大変だったってことは、今はもっと大変ってことなんでしょ? あたし、そんなの無理だよ」

「まあ、大変だろうね」


 エミリアとアーノルトの会話に、ルドルフは不意に割り込んだ。

 驚いてルドルフを見たエミリアだが、なぜかゾワリと嫌な予感がした。


「ただでさえ困窮しているランバルト公爵家なのに、今回の件で他の貴族家からの心証を悪くしている。まったく、支援してくれているアインバッハ公爵家の姪であり、後見を受けているララスティを大勢の目の前で蔑ろにするなんてね。王家に掛け合って支援の話を切って、ララスティを強引に養女にしてもおかしくない」

「は? 支援?」

「おや? 聞いていないのかな?」


 ルドルフの質問に、エミリアは小さい声で「知らない」と呟いた。


「それは、驚いただろうね。ランバルト公爵はね、家を建て直すための支援をアインバッハ公爵家から受けるために、王命で政略結婚をしたんだ」


 エミリアはアーノルトから、愛の無い政略結婚をしたとしか聞かされておらず、それが支援を目的としたものだとは知らずにいた。


「で、でも……お父さんはいやいや結婚したんですよね? その、王命っていうやつがあったから」

「そうだよ。元アインバッハ公爵令嬢も王命で仕方なくランバルト公爵家に嫁いだんだ」

「え?」


 ルドルフの言葉にエミリアは意外そうな顔をする。


「……まさかとは思うが、元アインバッハ公爵令嬢が好き好んで嫁いだと思っていたのかい? 相手に嫌がられているとわかっているのに? 愛していないどころか好意のない、むしろ金食い虫だと思っている相手に?」

「金食い虫って……」


 エミリアが驚きで何も言えずにいると、「言いすぎでしょう」とアーノルトが口をはさむ。


「事実じゃないか。婚約時代から貴殿が支援金を使って愛人と遊んでいたことは有名だ」

「なっ!?」


 指摘され、アーノルトか顔を赤くする。


「あれは俺の個人財産だ!」

「その個人財産は、アインバッハ公爵令嬢の婚約者であるランバルト公爵子息に対し、アインバッハ公爵家が支度金として用意した金だったはずだ。支度金をもらうときにこういったそうじゃないか、『今の状態では婚約者の体裁を整えることもできない。両親から渡される個人資産では何もできない』とね」


 だからアインバッハ公爵家はアーノルトに対して、婚約者に対する支度金という名目で支援金を渡したとルドルフは言う。


「結婚後は当主補佐の仕事について、前ランバルト公爵が生活費として分けていた支援金を、個人的に随分使い込んだそうだね?」

「どうして!」

「貴殿は忘れっぽいのかな? 以前渡した資料を見れば、支援金が何に使われたか調査した結果もあっただろう」


 ルドルフの言葉にアーノルトは顔を赤くしたままこぶしを握った。


アーノルトへの説教のターンです!

正論ドパンチでいきますよぉ!!

ところで、アーノルトって本当に何がしたいんでしょうね?w


気になった方もならない方も、ブクマや評価をしてくださるとうれしいです!★★★★★

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― 新着の感想 ―
いやホンマこの公爵なんで貴族やれてんだろうな
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