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7: 不平等な交換

レイカは好奇心を抱いてうなずいた。その時、シルヴァが手を上げ、待つように合図した。


「おお!でも、行く前に、彼らが死骸の片付けを終わらせるまで待とう。大丈夫?」シルヴァが尋ねた。


「うん、気にしないよ。」レイカは答えた。


レイカが作業員たちを見続けている間、シルヴァは彼女がまだ夕食を食べていないことに気づいた。シルヴァは何も言わずに歩き去り、二杯のシチューを取りに行った。


ドラゴンの死体に取り組んでいる男たちを見つめていると、レイカの腹が鳴った。彼女は夕食を忘れていたことに気づいた。


ああ、まだ食べてない...!


レイカはシルヴァから離れる口実を考えながら周りを見回したが、シルヴァはどこにも見当たらなかった。


どこに行ったんだ?


レイカは群衆を見渡し、前方でスプーンを持って二杯のカップを運んでいるシルヴァを見つけた。シルヴァが近づいてくると、一杯をレイカに手渡した。


「まだ夕食を食べていないんだよね?はい、どうぞ。」


レイカは両手でカップを受け取り、微笑んだ。


「ありがとう。」


遠くで、ソルはレイカが誰かと会話しているのに気づいた。邪魔したくなかったので、彼は再び夕食のためにシチューを配っている料理人のところへ続く行列に目を向けた。順番を待っていると、突然、後ろから誰かが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「ソル!並ばなくてもいいよ。シチューはもう用意してあるから。」


ソルは振り返り、シラスがシチューが入った椀を手に持っているのを見た。


ためらうことなく、ソルは行列を抜けて、数メートル先に立っているシラスの元へ歩いて向かった。


ソルがシラスに近づくと、シラスは木製の椀を手渡した。


「この熱いシチューでお腹を満たして、食べる場所を見つけなさい。」シラスは言った。「他の連中がまだ夕食を食べていないから、しばらく一緒に食べることはできないけれど。」


ソルは小さくうなずいた。シラスは温かい笑顔を浮かべ、そしてドラゴンの死体で作業している村の男たちの方へ歩き去った。


ソルは椀に目を向け、その蒸気が立ち上り、漂うほのかな香りを感じ取った。中には野菜—ジャガイモとニンジン—、そして一切れの肉が入っていた。どんな肉なのかは分からなかったので、試しに食べてみることにした。


一口食べた瞬間、その味と食感からそれが羊肉だと気づいた。その後、ソルは静かな場所を探して周囲を見渡した。


目を向けた先には、健康的な木のそばに座っている人物がいた—見覚えのある顔。それは入口の門番で、以前、斧で命を狙われた男だった。


門番はソルが近づくのを見たが、反応することなく、ただ黙って不機嫌そうにしていた。認識はしていたものの、何のサインも示さなかった。


ソルは静かに門番の隣に座り、シチューを食べ続けた。二人の間の沈黙を破ったのは、門番の深いため息だった。ソルは目の端で、門番の視線が夜空に向けられ、涙が静かに頬を伝うのを見た。


ソルも視線を上げ、夜の美しさに引き寄せられた。星々が明るく輝き、澄んだ空を横切って広がっていた。雲一つなく、静かな景色が広がっていて、それはまるで夢のように幻想的だった。


右を見ると、二つの月が空に浮かんでいた。大きな月が高い位置にあり、その下に小さな月が寄り添うように並んでいる。それは非常に珍しい二重月の光景であり、この静寂な風景に異世界的な雰囲気を添えていた。


しかし、その美しさに囲まれていながらも、ソルの心には何の感情も湧かなかった。ただ黙々とシチューを食べながら、この景色を記憶に刻んでいった。一方、隣の門番は自身の考えに沈んだまま動くことなくそこにいた。


その頃、レイカはシルヴァと並んでシチューを食べ終えようとしていた。食べながら、ふとシルヴァがすでに食べ終わっていることに気づく。シルヴァはレイカがまだ食べているのを見て、静かに待っていた。


「食べ終わったら、村の男たちを森へ案内しに行こう。」シルヴァは微笑みながら言った。


レイカはうなずき、自分のペースで食べ続けた。


「急がなくても大丈夫よ。」シルヴァは続けた。「あの人たちもまだ食べているから。」


その言葉を聞いて、レイカは焦ることなくゆっくりと食べることにした。数分後、最後の一口を飲み込んだ。


「それ、私が持っていくわ。自分の分と一緒に戻してくる。」シルヴァは申し出た。


レイカはカップとスプーンを手渡し、シルヴァは微笑みながらそれを受け取ると、洗い場へ向かって歩き去った。


ドラゴンの死骸の処理を手伝っていた村の男たちも、食事を終えつつあった。彼らは森へ向かう準備を始め、これからの作業に備えて装備を整えていた。準備が整うと、ドラゴンの残骸を積んだ荷馬車のそばに集まり、出発を待った。


レイカはシルヴァが荷馬車の方へ向かうのを見て、呼びかけた。


「さあ、行かなくちゃ!」


レイカはシルヴァに続き、荷馬車を引く男たちと共に森へ向かって歩き出した。彼らは村の入り口を通り抜け、黄金色の麦畑を横切りながら、森へと続く道を進んでいった。


シルヴァが先頭を歩き、レイカは静かにその後ろをついて行った。周囲を観察しながら歩いていると、明るい月明かりが地面に影を落としているのに気がついた。


今夜は満月なのかな?


レイカは空を見上げた。そこには、大小二つの月が星々に囲まれるように輝いていた。その幻想的な美しさに、彼女の心は穏やかに満たされていった。


「美しいでしょう?」


レイカが横を見ると、シルヴァが彼女の隣を歩いていた。シルヴァもまた、空を見上げていた。


「伝説によると、遥か昔、この空には一つの月しかなかったそうよ。」シルヴァは続けた。「その月は人々を魅了し、見る者の目を奪うほど美しかった。とても大きく、夜の闇を照らし、大陸全体を優しく包んでいたの。」


彼女は一瞬言葉を切り、物語を思い出すかのように目を細めた。


「その頃、とある強大な存在が月に嫉妬したの。その存在は、自分が誰にも注目されないことを恨んでいた。でも、月は違った。人々はいつも月を見上げ、その美しさに心を奪われていた。それが悔しくて、その存在は月を破壊しようと決意したの。自分に注目を集め、認めてもらうためにね。」


シルヴァの声が少し低くなり、真剣な響きを帯びる。


「ある穏やかな夜、月はいつものように昇り、大地を優しく照らしていた。人々はその輝きを讃え、何も知らずに魅了されていた。だが、その裏で、例の存在は陰謀を巡らせていた。そしてついに、その強大な力を解放し、月を粉々に砕こうとしたの。」


レイカは静かに聞いていた。半信半疑ではあったが、物語に興味をそそられていた。


「幸運なことに、月は完全に砕けることはなかったの。」シルヴァは話を続けた。「攻撃によって月の三分の一が欠け、その欠片が新たな月となった。そして、二つの月は今でも空に並んでいる。結局、その存在の計画は失敗し、恥じて大陸を去り、それ以来二度と姿を現さなかったそうよ。」


「全然筋が通ってないじゃない…」 レイカはつぶやきながら。


「だって、月には欠けた跡もないし、形も完璧な球体のまま… つまり、何十億年も前に自然に形成されたはずで—」


そこで、レイカははっと口をつぐんだ。つい余計なことを言ってしまったと気づいたのだ。彼女は横目でシルヴァを見ると、シルヴァは不思議そうな表情を浮かべていた。


あ… もしかして、この世界の人たちは、月の形成について全く知らないのかも… レイカは即座にそう悟った。


何か言い直そうとしたその時、シルヴァが突然くすくすと笑い始めた。


「ふふふ~ あなた、フメイロウと同じ反応をするのね!」シルヴァは目を輝かせながら、月を見上げた。


「伝説が本当かどうかなんて関係ないわ。ただ、こうしてその美しさを見られること自体が天からの贈り物なの。どんなに心が乱れていても、月を見上げれば不思議と悩みが消えていくものよ…」


レイカは黙り込んだ。シルヴァの言葉を静かに噛み締めながら、再び夜空を見上げた。二つの月が穏やかな光を放っていた。彼女は小さく息を吐き、ゆっくりと心が落ち着いていくのを感じた。


「はぁ… そうね。」レイカはそっとつぶやいた。その声には、わずかながらも本心がこもっていた。


そして、彼女たちは歩き続けた。


それから約三十分後、ついに森の端にたどり着いた。遠くに村の入り口が見え、両脇に灯された松明の光がぼんやりと揺れていた。シルヴァは周囲を見渡し、先頭の荷馬車を引く男に合図を送った。


「@#&#-#*!」


「@&#$。」


シルヴァの指示で、村の男たちは切り分けられたドラゴンの死骸を地面へ降ろし始めた。レイカは彼らの手際に見入っていた。慎重に森へと散らばるように配置される残骸を、彼女はじっと観察する。


数分後、作業は完了し、男たちは村へ戻る準備を整えた。


シルヴァは帰還の合図を送る。


「@&#@#!」


男たちが荷馬車を引いて戻り始める中、シルヴァはレイカがまだ無言で作業を見つめていることに気づいた。


「ずっと見てたけど、もう飽きちゃったでしょ?」


彼女は軽い口調でそう言いながら、地面に突き立てられていた松明を拾い上げる。


「さあ、村に戻りましょう。」


レイカはうなずいた。しかし、次の一歩を踏み出そうとした瞬間、彼女の動きが止まる。


背後から、声が聞こえたのだ。


「こっちへ来い…」


彼女は振り向き、謎の声の発生源を探すために周囲を見回した。しかし、目に映るのは闇に包まれた木々の輪郭と、散らばったドラゴンの死骸だけだった。困惑しながらも、肩に軽い衝撃を感じる。


「大丈夫…?」


レイカはビクッとし、突然の接触に驚いた。すぐに振り向くと、そこにはシルヴァが立っていた。


ああ…シルヴァか…


「なんだか様子がおかしいわね。大丈夫?」


レイカはもう一度辺りを見渡したが、思考はまとまらず、シルヴァは心配そうに彼女を見つめていた。


「だ、誰かが私たちを呼んでなかった?あの声…」


シルヴァは周囲を見回したが、彼女の耳に届くのは草むらに隠れたコオロギの鳴き声と、そよ風に揺れる葉の音だけだった。


「何のこと?私にはコオロギと葉擦れの音しか聞こえないけど…」


「それは――」


レイカはため息をつき、言葉を飲み込んだ。


「まあ、いいわ。あなたは先に行って。私はここで少しだけ待っているから。」とレイカは言った。


シルヴァは躊躇し、その後、レイカの道を塞ごうとした。


「ダメよ! ここにはモンスターが潜んでいるかもしれない!」


レイカは安心させるように微笑んだ。


「心配しないで。すぐに戻るから。ちょっと周りを見てくるだけよ!」


シルヴァはため息をつき、もう説得できないことを理解した。


「後で私たちに続いてきなさいね? それと気をつけて。モンスターがドラゴンの死体に引き寄せられて、あなたも襲われるかもしれないわ。」


その時、シルヴァはレイカに先ほど持っていた松明を渡した。


「これが松明よ。暗闇で見るために使えるし、もしモンスターが追ってきたら、それで追い払ってね。」


レイカは松明を取り、しっかりと握りしめた。


「ありがとう…」


シルヴァは歩き去り、レイカへの心配がまだ感じられる中、近くに待っていた村の男たちに近づいた。彼女は簡単に話をし、再びレイカの方をちらりと見た。


レイカは彼らに気を取られることなく、周囲に集中していた。彼女は何か異常がないかを探し続けたが、見えるのは静かな森だけだった。


「おかしいな...今、確かにはっきりと聞こえたのに...」


突然、再び声が聞こえた。今度はもっと鮮明で近くから聞こえる。


「もう少し近くに来て...」


その瞬間、レイカは動きを止めた。ゆっくりと頭を回して、それを見た—ドラゴンの胸から発せられる、かすかな脈打つ光。好奇心が湧き上がり、自然と近づこうとする自分を感じた。


それは...?


一瞬ためらった後、レイカは一歩前に踏み出し、光に視線を固定した。その時、強い風が吹き抜け、松明の火を消してしまった。周囲の暗闇が深くなり、わずかな光だけが彼女の道しるべとなった。


光がなくても、レイカは進んだ。謎の光に引き寄せられるように。近づくにつれて、再び声が響き渡る。今度はもっとはっきりと、まるで彼女に直接語りかけるように。


「お前...莫大な力を手に入れたいか?」


レイカは驚き、松明が手から滑り落ちて、地面に鈍い音を立てて落ちた。彼女は周囲を見回し、息が乱れながらも、再びその光に意識を戻した。


あの奇妙な光は...ドラゴンの体にあったもの...私を呼んでいたのか?


レイカはその脈打つ光の前に立ち、目をその安定したリズムに固定した。かすかな光が柔らかく揺れ、ドラゴンの胸を照らしながら、彼女はためらった。


「何を私に望んでいるの?」と彼女は慎重に尋ねた。


空気が柔らかな、不気味な笑い声で満たされた。


「ふふふふ...」


光はさらに強く脈打ち、周りにかすかな影を落とした。


「私はお前に、全ての人間が渇望するものを与えよう。力だ。」


レイカは黙って聞き続け、不安が増していった。


「お前たち人間は弱く、もろい。そんな脆さを乗り越えるために、何かもっと大きなものを求める—世界を変え、深い欲望を満たすことができる力。それこそが、お前が欲しているものではないか?」


レイカは動かずに立っていた。彼女の思考は渦巻き、謎の声の提案をどう受け入れるかを悩んでいた。その提案はまるで禁断の果実のように彼女の前にぶら下がっていた。彼女は唇をかみしめ、リスクと結果を天秤にかけていた。


これは怪しい…こんなものを見返りなしで提供する人がいるだろうか?そんなことを信じるのは愚か者だけだ…


しかし、別の考えが彼女をむしばみ、無視するにはあまりにも鋭く、強く感じられた。


私は力を求めていない。けれど、時々… 何もできずに傍観していたことがあった。人々が苦しむのを見て、彼らが...


彼女の拳が強く握られた。思い出したくない記憶が押し寄せてきた。


ソウ… 彼は他の人を守る力を持っている。何度も私を助けてくれたけど、ずっと彼に頼るわけにはいかない。私も何かできるようにならなければ…


レイカが決断を先延ばしにしていると、ドラゴンの胸の中のかすかな光は一定のリズムで脈打ち、その存在感が時間とともに重くなっていった。


彼女は決断を遅らせすぎている...


光はわずかに輝き、焦りを見せるようにきらめいた。そして、もはや彼女の返事を待てないかのように、その光は意図を持って前に進んできた。


瞬く間に、その謎の光がレイカの体に入り込んだ。レイカはそれに気づいたが、反応するには遅すぎた。すぐに鋭い痛みが胸に走り、彼女は地面に倒れた。胸を押さえながら、呼吸をするのに苦しんだ。


「な、何をしたの!?」 レイカは息を呑み、声に動揺がこもった。


その声は、楽しんでいるように話した。


「はっ!ためらっても無駄だ、こっちの人間。お前の体を力で奪うのが一番の選択だ。」


レイカは無力感を感じ、まんまとその謎の存在の罠にかかったことを悟った。


「これが…お前の本当の目的なのか…?」レイカは激しい痛みに耐えながら息を切らし、問いかけた。「私に力を与える代わりに、私の体を奪うつもりなのか?」


謎の声は冷酷に笑った。


「はっ!それが分からないか?最初から取引は不公平だったのだ!」


レイカは呻き声をあげ、痛みがさらに激しくなり、瞬く間に強くなっていった。


「さて… 少し痛むかもしれないが、お前の精神を消し去って、体を支配するまでのことだ。すぐに終わる、眠れ、愚かな者よ…」


耐えきれず、レイカは声を上げて叫んだ。


「アアアアアアアアアアアアア!!」


遠くで、その叫びを聞いたシルヴァはその音の方向を向き、レイカが立っていた場所が今は完全に暗くなっていることに気づいた。松明の光は消えていた。


「なんてこと… 彼女に何が起こったんだ?」シルヴァは胸に不安が広がるのを感じながら思った。


迷うことなく、彼女はレイカがいた場所へ向けて走り出した。しかし、森の縁に差し掛かったところで、しっかりとした手が彼女の腕を掴み、引き戻した。振り向くと、彼女に同行していた村の男の一人が立っていた。


「そこに行くのは危険だ」と男は急いで言った。「まずはシラスのじいさんに報告した方がいい。ここでの対応は私たちがする。」


シルヴァは、レイカへの心配と男の警告の間で迷った。少しの間、決断できずに悩んだが、結局、選択肢はないことを悟った。彼女は頷いて、村へ向かってできる限り速く走り出した。


しばらくして、シルヴァはようやく村に到着した。急いで走ったため、息が荒くなっていた。周囲を素早く見回し、木のそばで女性と話しているシラスの姿を見つけた。


「シラスさん…!」彼女は急いで声をかけた。


シラスは名前を呼ばれると顔を上げ、シルヴァの声に気づいた。息を切らしながら彼女が目の前で止まったのを見て、彼は彼女に視線を向けた。


「どうした?」シラスは心配そうに尋ねた。


「はぁ…レイカ…困っているようなんです!」

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