5: 第二の太陽
炎が消え去った後、圧倒的な熱気はすぐに収まり、空気が明らかに涼しくなった。パチパチと鳴っていた火の音の代わりに、村人たちのかすかなすすり泣きや、あちこちから響く叫び声が聞こえた。レイカはその場に立ち尽くし、突然の気づきに心が奔走していた。
でも…彼は地球から来たんだよね?あ、あんな力を持っているなんて…ただの人間なのに…?
彼女の視線は再びソルに移った。彼の顔は相変わらず無表情だったが、その行動は彼の持つ力を完全に物語っていた。
考えてみて!これまで私たちが直面してきた状況—危険な目にあったたび—彼はいつも冷静だった。そのモンスターたちが私たちを殺そうとしたのに、でも…彼はまるで何も感じていないかのようだった!
彼女の唇が震え、信じられない思いが震える言葉となって漏れ出した。「ま、まさか…本当に力があるなら、すべてが説明できる…今まで生き延びてこれた理由が…」
その時、レイカはドラゴンが耳をつんざくような咆哮を上げたのを聞き、視線が空へと引き戻された。皆が空を見上げ、固まった。炎に包まれたワイルファイア・ドラゴン・ヴェイリールがその姿を現した。
ロォオオオアア!
その全身が激しく燃えていたが、驚くべきことに、ドラゴンはまるで無傷のように見えた。炎がその巨大な体を舐めるように襲うが、痛みや傷の兆しは一切見受けられなかった。
ドラゴンは高く舞い上がり、その体を包む炎がなおも燃え続けていた。あまりにも高く登り、その炎のシルエットは村全体に見えるようになった。空の中で、それはまるで炎から蘇った不死鳥のようだった。翼を一度大きく羽ばたかせると、その周りの炎は一瞬で消え去り、まるで最初から存在しなかったかのようだった。
村には重い沈黙が降り注いだ。そして、再び耳をつんざくような咆哮が静けさを破り、空気を揺さぶり、村人たちを恐怖で震えさせた。
ロォオオオアアアア!!
村人たちは耳を押さえ、ドラゴンの強力な鳴き声から身を守ろうと必死になった。咆哮が収まると、獣は頭を天に向け、巨大な顎を開けた。
その口の中で炎の玉が形成され始め、時間とともに大きくなっていった。空が明るくなり、その燃える火球は太陽さえも超える輝きを放った。村の周囲の温度は急上昇し、水溜まりは蒸気に変わった。熱は村人たちに押し寄せ、圧倒的で容赦なく、息苦しく感じられた。
恐怖が村人たちを津波のように襲い、彼らは愛する人々にしがみつき、涙が頬を伝ったが、それは地面に触れる前に蒸発してしまった。
ソウルはドラゴンがその壊滅的な反撃を準備するのを見つめていた。その火球は完全な大きさに達し、未曾有の力を放っていた。
「私たちはもうダメだ…」村人の一人が呟いた、その声は圧倒的な熱と絶望の中でかすかに聞こえた。
瞬時に、ドラゴンの口の中にあった巨大な火球は跡形もなく消えた。村全体が困惑して見つめ、何が起こったのか理解できずにいた。数秒後、彼らの混乱は衝撃に変わった。ドラゴンの体から再び炎が噴き出したからだ。
怒り狂ったドラゴンは再び耳をつんざくような咆哮を上げた。
ロォオオオアアアアアア!!
二度目の炎に包まれたにもかかわらず、その炎はドラゴンの厚い鱗を傷つけることも、皮膚を貫通することもなかった。ドラゴンは翼を二度力強く羽ばたかせ、炎を吐き出し、一瞬で消し去った。村人たちはそのドラゴンの不屈の力を目の当たりにし、恐怖で震え始めた。
「ま、まだドラゴンは生きている、二度も焼かれたのに!」
ドラゴンの動きは異常になった。激しく翼を羽ばたかせ、空へと急速に昇っていった。その巨大な姿は次第に小さくなり、最終的には雲の中に完全に消え去った。
皆が呆然と立ち尽くし、目の前で何が起きたのか理解できなかった。村人たちは恐怖に駆られ、次にドラゴンが何をするのかを恐れた。
「マ、ママ…あのモンスターは戻ってくるの?」子供が震えながら囁いた。
子供の母親はしっかりと彼女を抱きしめ、背中を優しく撫でながら言った。「静かに…もう戻ってこないわよ」と、声は震えていたが、優しく囁いた。
すべての視線が空に釘付けになった。永遠のように感じられる時間が過ぎても、誰も動くことができなかった。恐怖と緊張に体が固まり、一歩も踏み出せない。しかし、彼らの安堵すべきことに、ドラゴンが戻ってくる気配はなかった。張り詰めた空気が徐々に和らぎ、冷たい水が流れるように村全体に安堵の波が広がった。
「神に感謝を! ドラゴンは戻ってこなかった!」誰かが叫んだ。
「二度も無意味に焼かれて、怖くなったんじゃないか?」別の者が希望に満ちた声で言った。
村人たちが九死に一生を得たことを祝い始めたその瞬間、空に轟くような爆音が響き渡り、彼らのかすかな安堵を粉々に打ち砕いた。
ドカン!
全員が反射的に空を見上げた。その瞬間、空を覆っていた厚い雲が一気に吹き飛び、広範囲にわたって円形に散らばった。そして、太陽の光を遮る奇妙な物体が姿を現した。
それがゆっくりと近づくにつれ、その輪郭ははっきりとしていき、村人たちの胸に重い不安が押し寄せた。
「そ、それは…!」誰かが言葉を詰まらせた。
その物体の正体は、もはや謎ではなかった——それはドラゴンだった。猛スピードで地上へと墜落していたのだ。先ほどの轟音は、ドラゴンが音速の壁を突き破った音だった。重力に引かれながら、その速度はマッハ1を超えていた。
「みんな、ドラゴンだ!」誰かが警告の声を上げた。
パニックが瞬く間に広がった。空を切り裂くように急降下するドラゴンを見て、村人たちの脳裏に浮かんだのはただ一つ——できる限り遠くへ逃げろ、という本能的な叫びだった。
彼らの体は本能に突き動かされるように動き出し、恐怖に駆られながら後ろも見ずに走った。親たちは子供をしっかりと抱きかかえ、全速力で駆け出した。村は混乱の渦に包まれ、すべての人々がただ「生き延びること」だけを考えていた。
だが、その混乱の中で、一人だけ動かない者がいた。ソルは微動だにせず、降下するドラゴンをじっと見つめていた。
村人たちと共に走っていたレイカは、その異変に気づいて足を止めた。息を呑み、彼が逃げようとしないことに気づく。
——こんな時に、彼は何を考えているの…?
ソルの目は、上空の獣から離れることはなかった。彼は目を細め、その巨大な姿を捉えようと集中した。
「アレに使うか……」彼は、ほとんど独り言のように呟いた。
わずかに手を上げ、降り注ぐ太陽の光を指の隙間から通しながら、視界を確保する。
「そのままでいろ。」
その瞬間、空が突如として輝きを放った。光は一瞬にして溢れ、目が眩むほどの強烈さだった。空を見上げた村人たちは驚き、慌てて目を覆った。光は地面に反射し、焼け焦げた村全体を異様な輝きで包み込んだ。咄嗟に目を背けることができなかった者たちは、顔を手で覆い、盲目になるのではないかという恐怖に襲われた。
それは一瞬の出来事だった。しかし、その一瞬の間に見た者たちは、恐ろしくも美しい光景を目撃した。天から降り注ぐ龍の姿は、純白の光に包まれ、まるで太陽そのものが墜ちてくるかのようだった。その輝きは本物の太陽すら凌ぎ、まるで天空から舞い降りる第二の星のように見えた。
ドカン!
次の瞬間、強烈な光は跡形もなく消え去り、すべてがドラゴンの内部へと吸収された。そして——凄まじい爆発音が静寂を打ち砕いた。衝撃波が村全体を襲い、村人たちは耳を塞ぐしかなかった。その衝撃は骨の髄まで響き渡り、耐えきれず膝をつく者もいた。鋭い耳鳴りに苦しむ者、鼓膜が耐えきれず血を流す者——爆風の威力は計り知れなかった。
空から、黒焦げの物体が煙を引きながら落下してきた。
ズシン!
地面がわずかに震え、着地の衝撃が土を伝って広がった。村人たちは恐怖を抱えながらも、好奇心に駆られてゆっくりと近づいていった。そして、その正体を目の当たりにしたとき、彼らの目は驚愕に見開かれた——それは、ドラゴンの無残な亡骸だった。
かつての威圧的な姿は、もはや見る影もなかった。まるで焼け焦げた木のように真っ黒に炭化し、鱗はすべて崩れ落ち、ただの抜け殻と化していた。
村人の何人かは、その変わり果てた姿に言葉を失い、ただ驚きの声を漏らす。一方で、別の者たちは、いまだ燻る村の残骸へと目を向けた。焦げた木や焼けただれた有機物の臭いが、鼻を突くように漂っていた。だが、それでも村の一部は無傷のまま残っていた——ソルの迅速な介入のおかげだった。そのおかげで、完全な壊滅は免れた。
それでも、取り返しのつかない被害が残った。瓦礫の下に埋もれた者、炎に飲み込まれた者——失われた命は決して少なくはなかった。
子供たちの泣き声が村中に響き渡った。恐怖と悲しみに歪んだ顔で、彼らは必死に親や兄弟のもとへと駆け寄っていった。
しかし、助からなかった者たちもいた。彼らの中には、家族の焼け焦げた遺体のそばに座り込み、悲痛な叫びを上げる者もいた。亡くなった親や兄弟を抱きしめながら、彼らの声は悲しみに満ち、心を引き裂くような響きを持っていた。
「私の子供よ…まだこんなに幼いのに…どうしてこんなにも早く逝ってしまったの…?」
「うわあああ!!パパ…行かないで…!」
シラスは動ける者たちに指示を出した。亡くなった者たちの遺体を集め、村の中央に運ぶよう命じた。村人たちは迷うことなくその辛い作業に取り掛かり、一つひとつの亡骸を慎重に抱き上げ、横たえていった。
亡くなった者は五人。炎に包まれるか、崩れ落ちた瓦礫の下敷きになった者たちだった。負傷者は十一人。火傷や落下した瓦礫による怪我を負ったが、幸いにも救出された者たちだ。それ以上の行方不明者はいなかった。愛する者を失った村人たちは遺体のそばで泣き崩れ、他の者たちは静かに佇み、助けられなかった無力感に胸を締めつけられていた。
その時——悲しみの中で、突如として一人の男が立ち上がった。彼は家族の亡骸のそばに横たわっていたが、突然立ち上がると、手斧を掴んだ。その異様な動きに、周囲の者たちは驚き、息をのんだ。
「俺の家族は殺された…俺が他の人を助けようとしていたせいで…!」男の声は罪悪感で震えていた。「もし…もし先に家族を助けていたら…こんなことには…!」
彼は手斧を持ち上げ、その鋭い刃を自らの胸に向けた。
遠くからその様子を目撃したレイカの心臓が大きく跳ねた。
あの男…門の守衛をしていた人じゃないの…!?
レイカの心は沈んだ。彼を認識したが、彼が話している言葉は理解できなかった。しかし、彼の目の中に浮かんでいる苦しみは明らかだった――悲しみ、後悔、そして絶望。彼の足元には、若い子供と女性の命を奪われた遺体が横たわり、これが彼の家族であるという恐れを確認させた。
「この呪われた世界で絶望に沈むよりも、彼らに従ったほうがましだ!!」彼は叫び、感情がこもった声を震わせた。
涙を浮かべながら、彼は小斧を持ち上げ、自分の命を絶とうとした。しかし、彼が刃を胸に突き立てる前に、村人の一人が駆け寄り、彼の腕を掴んで止めた。その他の村人たちがすぐに介入し、彼の手から小斧を奪い、遠くへ投げ飛ばした。
守衛が村人たちに抑えられながらも暴れていると、突然、顔に一発が入った。血が口から流れ、顎を伝って滴り落ちた。彼は驚き、周囲を見回した。すると、シラスが目の前に立っており、顔には怒りの表情が浮かんでいた。
「正気か?! 自殺することで苦しみから逃れると思っているのか?」シラスは叫んだ。
守衛は村人たちを振り払い、口から流れる血を拭いながら、顔には苛立ちと悲しみが入り混じった表情を浮かべていた。
「お前の妻と娘が、もしお前が自分をこんなふうにしているのを見たら、なんて言うと思う?」シラスは詰め寄った。
「じいさん、そんなことするな…!」守衛は震える声で叫んだ。
しかし、彼の言葉は途切れた。シラスの後ろに立っていた二人の見覚えのある姿が目に入った。妻のマティルダと娘のエミリーが、心配そうな表情で彼を見つめていた。
「マ…マティルダ?エミリー…?」
彼は信じられない思いで瞬きしたが、目を開けると、二人の姿は消えていた。
彼は言葉を失い、体が震えながら膝をついた。涙が頬を伝い、静かにすすり泣いた。
「ごめん…マティルダ、エミリー。私はあなたたちを夫として、父として失敗した…」彼は悲しみの中で囁いた。
村人たちが彼の周りに集まり、慰めの言葉をかけた。シラスはその中で最前線に立ち、守衛の肩に手を置いていた。
その場面を見守るレイカは、黙って頭を下げた。愛する人を失った村人たちの顔が彼女の心に残り、彼らの悲しみが重く、そして切実に感じられた。
私は彼らを救うことができなかった...
彼女の視線は、失った者を悼む家族たちに向けられた。彼女は彼らの絶望を見て、その叫びの中に無力さを感じた。二度と帰ってこない人々を悼む声。
屋上から落ちた時のことを思い出し、彼女はその時、死について考えたことがなかったことに気づいた。まるで死を嘲笑うかのように感じていた。
レイカはため息をつき、視線を逸らした。
「死はいつもそこに潜んでいて、時が来るのを待っている…永遠の眠りの手は、私たちにいつでも届く…」
レイカが思索にふけっていると、突然、ソウルが村の入口から出て行くのが目に入った。好奇心が湧き、何も言わずに彼の後を静かに追った。
…
ソウルは彼らが来た道を戻っていた。途中で立ち止まり、沈みゆく夕日の橙色と赤の光がゆっくりと地平線に消えていくのを見つめた。彼は静かに、穏やかな風に揺れる小麦の音を聞きながら、遠くの鳥たちが空を飛んでいるのを眺めていた。その景色は平和で、美しく、自然の穏やかさを完璧に反映していた。
その光景を堪能していると、誰かが近づいてくる気配を感じた。右に目を向けると、レイカが彼に向かって歩いているのが見えた。彼女が近づいてきて、彼の隣に立つと、静かな雰囲気にぴったりの存在感を放っていた。軽い風が彼女の髪を乱し、肩の上にやさしく舞い上がらせた。
レイカは、ソウルに彼の力について直接問いかけるべきか、彼の真の正体に関する疑念を抱えたまま迷っていた。
「直接聞いてみるべきだろうか?もし私の疑いが完全に間違っていたら…?」
彼女が彼の隣に立っていると、心の中で思考が駆け巡った。ためらっている時間はない。
「私…!」
しかし、彼女が言葉を発する前に、ソウルは彼女に向き直った。その空虚で冷たい目が彼女の目と交わり、感情の欠片も見えなかった。彼の表情は、最初に出会ったときと全く変わっていなかった。
その目…
レイカは視線を落とし、少し躊躇いながらも決意を込めて静かな声で話した。
「私、あなたが私たちが空から落ちたときに助けてくれたのはあなただと思っていた。そして、モンスターたちのこと…あれはあなたが何か奇妙な方法で対処したんだと思う。」
一度言葉を止め、考えを整理しながら続けた。
「家々を焼き尽くした炎を消した時、そしておそらくドラゴンを倒した時、それですべてがはっきりした…私が抱えていたすべての疑問が解けた。」
ソウルは黙って聞いており、反応を見せることはなかった。
「ドラゴンの破壊によって命を奪われた人々を悼む家族がいる…」レイカの声は震え、涙が頬を伝って滑り落ちた。彼女は顔を上げて、ソウルを見つめた。
「そんな力があるなら、どうしてもっと早く使わなかったの?どうして彼ら全員を救わなかったの?」
涙は止まらず、彼女はソウルの顔に少しでも共感の兆しを探し続けた。しかし、ソウルの表情は変わらず、周りの苦しみには全く影響されていないかのようだった。
「私は効率的だと思ったことをしたまでだ。」ソウルは冷たく言った、その声に揺らぎはなかった。「それに、彼ら全員を救う理由はない。彼らの死は…私の関心事ではない。」
レイカの息が詰まった。ショックと信じられない思いが彼女を圧倒し、彼の言葉の重さがじわじわと胸に染み込んでいった。
「ど、どうしてそんなことが…?」
思わず立ち上がり、手を上げて、その手のひらを彼の顔に向けた。
「どうしてそんなことを、自分の仲間に言えるの?!あなたは無慈悲だ!」