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24: 新旧の顔ぶれ

玉はもはや不可逆的な損傷に耐えることができず、ついに力尽きた。

一方で、ソルは目の前の奇妙な玉が抵抗をやめたことに気づいた。彼はただ、それに向かって歩み寄った。


「復讐が…約束を守れなかった!くそっ!」


「え、ええと――」


突然、玉はヒステリックな笑い声を上げた。


「ハハハハハハハ!そうだ、そうだ!敗北を認めよう!」


その奇妙な反応に困惑したソルは、問いただすことなく、狂人のように笑う玉をただ見つめていた。

数瞬後、笑いは止まり、玉は彼をじっと見つめた。


「お前…名前を教えろ。私を倒した者の名を知っておきたい。」


「俺の名前はシン…ソル・シンだ」と、困惑しながらも答えた。


その時、彼は玉が崩れ始めていることに気づいた。表面が少しずつ剥がれ、無へと溶けていった。


「ソル…シン…」


玉が半分の大きさに縮んだとき、それは最後の力を振り絞って、最期の言葉を口にしようとしていた。


「もう、自分一人では彼らの仇を討つことはできない。でも、あなたの存在があれば……この大陸は再び震えることになるでしょう……」


それの前に、ひとつの幻が浮かび上がった──遥か昔の記憶であった。映像の中には懐かしい顔ぶれが現れ、温かく微笑みながらそれに呼びかけていた。


「おーい! なんでそんなとこに突っ立ってるんだ? こっちに来いよ!」と、誰かが呼ぶ。


「毎回最後になるの、なんで? もっと早く歩けないの?」と、別の者がからかうように言った。


仲間たちの姿を再び目にしたとき、それは久しぶりに微笑みを浮かべた。一歩ずつ、仲間たちのもとへと近づいていく。その動きに合わせて、それの姿は変化し、かつての本来の姿──頭に角を持つ女の姿へと戻っていった。


「大鬼族よ…永遠に生きろ…」


その言葉を最後に、麗花を傷つけ、長きにわたり烈火の竜を弱らせていた存在は、完全にこの世から消え去った。


しかし、ソルにはその球体がかつて出会った存在と同一であるとは知る由もなかった。彼は、その正体も襲撃の理由もわからぬまま、ただその場に立ち尽くしていた。今や脅威は去ったが、彼の中では、まだ状況の整理がついていなかった。


「ただ、なんで自分のことをつけてきたのか聞きたかっただけなのに……向こうはいきなり反撃してきて、攻撃してきたんだ……」


──それでも。どこかで見たことがあるような気がする。いつだったっけ……?


ソルは肩をすくめると、静かに背を向けて歩き出した。


もういい。最初から話す気がなさそうだったし……今では、もういない。


その数瞬後、ヴェイリルが現場に現れ、ルミナイトへと向かって歩くソルを見つけた。


「ソル様、お戻りが遅かったので心配しました。周囲に魔物の気配もなかったので、様子を見に来たのです……」


ソルは振り返り、近づいてくるヴェイリルを目にした。


「……まぁ、いいさ。ルミナイトを取って、さっさとここを出よう。もう夕方だ。」


ヴェイリルは飛び寄り、目の前のルミナイトをじっと見つめた。


「これさえあれば、力を取り戻せる……」


彼女はそっとソルに視線を向けた。


「ソル様、これを運んでいただけませんか? そ、その……空中系の術で羽のように軽くしますから、持ち運びやすくなります……」


「好きにしろ」とソルは短く答えた。


ルミナイトに向き直ったヴェイリルは、静かに目を閉じ、力を発動させた。


『ライトウィンド』


緑の光輪が水晶のまわりに現れ、回転しながら徐々に速度を増していった。


「準備ができました、ソル様。」


準備が整うと、ソルは一歩前に出てルミナイトを握った。驚いたことに、それは岩からあっさりと外れた。


「便利でしょ?」と、ヴェイリルが得意げに笑った。


ソルは腕ほどの大きさのルミナイトを片手で持ち上げた。数キロはあるはずのそれも、ヴェイリルの空中系能力のおかげでまるで重さを感じなかった。


「本当に軽いな……」


「行きましょう、ソル様!」


ヴェイリルが先導し、二人は洞窟の入り口へと戻っていった。ソルは奇妙な球体との遭遇については何も語らなかった。彼にとって、それは一瞬の出来事に過ぎず、特に言うほどのことでもなかった。


洞窟を抜けたその瞬間、月明かりが二人を迎え、夜の冷たい風がそっと吹き抜けた。ルミナイトが月光に晒された瞬間、その純白の表面がまるで幻想のように輝き始めた。


「なんて美しい……」ヴェイリルがそっと呟いた。


二人が小道を進んでいくと、ソルは影の中に動きを感じた。茂みに潜む魔物たちの目が、薄明かりの中でぎらりと光る。彼らはソルとその先導役である使い魔に警戒していたが、攻撃には踏み切れなかった。


「グルルル……」


夜の静けさを破るように、低い唸り声が響いた。しかし、どの魔物も襲いかかる勇気は持たなかった。中には怯えたように身を引き、闇の中へと退いていくものもいた。数体は頭を垂れて服従の意思を示すと、草むらの奥へと消えていった。小型の魔物たちはためらうことなく散り散りになり、本能的に相対すれば死を意味することを悟っていた。


周囲に敵の気配が漂っていても、ソルはそれを気に留めることなく、ただヴェイリルの後をついて歩き続けた。


その時、茂みの中から何かが動く音がした。二人は同時に足を止める。


「ソル様……」


ソルは言葉を返さず、ただ頷くだけだった。そして、慎重に歩を進め始める。


ヴェイリルの鋭い目が、前方にいる三つの影を捉えた。二体の小さな影と、それに伴う一体のやや大きな影。


「……あれは……?」


ソルは目を細める。やがてその姿が明瞭になっていく――痩せ細った体、緑色の肌、ぼろぼろの服、そして手に握られた錆びたナイフ。


突如、最も背の高いゴブリンが恐慌の叫びをあげた。


「アアアアアアアアアアッ!!」


ソルとヴェイリルを目にした瞬間、安堵の表情を浮かべて猛スピードで駆け寄ってきた。


「た、助けてくれぇぇぇぇ!!」


ヴェイリルの目が見開かれた。「ゴ、ゴブリンたち……!?」


三体の小さな存在はためらうことなく、ソルの背後に逃げ込み、その足にしがみついた。まるで、彼が唯一の救いであるかのように。


ソルはその必死な様子にも反応を示さなかった。ただ沈黙のまま、彼らの奇妙な姿をじっと観察していた。


――ゴブリン。


だが、その姿はソルがかつて読んだ漫画に出てくるような、醜く恐ろしいものではなかった。


(……どこかの異世界作品に出てきたゴブリンのような……)


「ちょ、ちょっと!なんでマスター・ソルの後ろに隠れてるのよ!?」ヴェイリルが声をあげた。


そのとき、一番背の高いゴブリンが震えながら口を開いた。


「ど、どうかお許しください、親切な方…俺たちはラ、ラビッドウルフに追われていて、か、隠れてくださ——ひぃぃっ!」


夜を切り裂くような低いうなり声が響いた。


ヴェイリルは即座に振り返り、その鋭い感覚が危機を察知する。ラビッドウルフが一体、牙を剥きながらこちらへ忍び寄っていた。


「アオオオオオォォン!!」


その遠吠えを合図に、茂みの中から次々と現れるラビッドウルフたち。光る目で獲物を見据えながら、獣たちは四方から群れを囲んだ。その体には緊張と殺意がみなぎっていた。


「バカなゴブリンたち!あんたたちのせいで巻き込まれたじゃない!」とヴェイリルが叫んだ。


一体のラビッドウルフが彼女に飛びかかった——だが、霊的存在である彼女の体は実体を持たず、獣の体はそのまま彼女をすり抜けていった。


その光景に、ゴブリンたちも狼たちも動きを止めた。


「な、なんなんだあれは……?」と一番背の高いゴブリンがヴェイリルを指さして呟いた。


「使い魔…変なの…」ともう一体のゴブリンがつぶやいた。


混乱の只中、さらに一体の狼がソルに突進してきた。迷いもなく、まっすぐに牙を向けて。


だが、ゴブリンたちの予想に反し、ソルはまったく動かなかった。


「お客様、しれ…何をしてるんですか…?」と、背の高いゴブリンが不安げに尋ねた。


ソルは狼の牙を避けることなく、左腕をゆっくりと上げ、わざと噛ませた。


その瞬間、ゴブリンたちは悲鳴を上げた。


「に、逃げろ!あの人間、正気じゃないぞ!」背の高いゴブリンが叫び、仲間とともに逃げ出そうとする。


だが、次の一歩を踏み出すよりも早く、周囲のラビッドウルフたちが次々と倒れ込んだ。ソルの腕に牙が触れた、その瞬間に。


地面に横たわり、痛みにうめく狼たち。中には抵抗する暇もなく、そのまま事切れる者もいた。わずか数秒で、周囲の敵は全て沈黙した。


地面に広がる血。首元には深い傷が刻まれていた。


呆然と立ち尽くすゴブリンたち。信じられないという表情で、倒れた狼たちを見つめる。


「な、何が起きたんだ…!?いきなり、全部倒れたぞ…!」と、背の高いゴブリンが声を震わせた。


「フン!これこそが、マスター・ソルの力よ!」とヴェイリルが誇らしげに言い放った。


「マスター…ソル?」と、ひとりの小さなゴブリンが呟く。


「でも…人間…動いてなかった…」もうひとりが、呆然とした口調で続けた。


「ラビッドウルフを、指一本動かさずに倒すなんて…すごい人間だ!」と、背の高いゴブリンが叫んだ。


三匹のゴブリンは顔を見合わせ、うなずいた。そして、躊躇なく膝をつき、ソルの前で深く頭を下げた。


「私たちを助けてくれて、ありがとうございます、恩人様!」と、背の高いゴブリンが叫んだ。


「あり…が…とう…ございます!」と、他の二匹も感謝の声を合わせて続けた。


ヴェイリルは目を細め、ゴブリンたちに不審な点を感じ取った。


「ねぇ…おかしなことに気づいたわ。三匹の中で、あんただけ流暢に話しているわね?」と、背の高いゴブリンに向かって質問した。


「はっ!」


ゴブリンたちは素早く立ち上がり、ぼろぼろの服を手で払いながら、慌てて姿勢を整えた。


「私は『翻訳者』という能力を手に入れました。このおかげで、モンスターとも人間ともコミュニケーションが取れるんです」と、背の高いゴブリンが説明した。


ヴェイリルは驚きで目を見開いた。


「それは…すごい!ただのモンスターが、そんな能力を持つほどの知性を得るなんて—本当に素晴らしい成果だわ!」と、彼女は叫んだ。


彼女はゴブリンに近づき、新たな好奇心をもって彼を観察した。


「どう呼べばいいの、ゴブリン?」


背の高いゴブリンは照れくさそうに頭を掻いた。


「私…名前がないんです…」


ヴェイリルはしばらく考え込んだ。


うーん…


その後、ふと閃きがあった。


「私が君を識別する手間を省くために、これからはゴブチキと呼ぶことにするわ。どうかな?」


ヴェイリルの言葉を聞いた瞬間、背の高いゴブリンの目が驚きで輝いた。


「ゴブ…チキ…?その名前、すごい!」


ゴブチキは頭を深く下げ、感謝の気持ちを込めて言った。


「名前をつけてくれてありがとうございます、恩人の使い魔。光栄です。」


その言葉が口をついて出た瞬間、ヴェイリルの雰囲気が一変した。彼女から強力なオーラが放たれ、周囲が激しく震えるような緊張感が漂った。


「な、何を言ったの?」


「え…え?」ゴブチキは困惑して目を瞬きながら言った。


「カラミティ・ドラゴンをただの使い魔だなんて—恥を知れ!」


ゴブチキは驚きのあまり目を大きく見開き、周囲を見回した。


「カラミティ・ドラゴン?どこですか?」ゴブチキは困惑しながら周りを見渡した。


ヴェイリルのオーラがさらに強くなった。


「目が見えないのか?私のことを言っているんだ、この馬鹿者!」


ゴブチキはヴェイリルをじっと見つめ、頭から足元まで慎重に観察した。すると、突然、彼はクスクスと笑い出した。


「ええぇ〜、冗談でしょう、恩人の使い魔。カラミティ・ドラゴンはものすごく大きいんですよ?君のサイズだと、恩人のような強い方の使い魔がぴったりだと思いますよ!」


ヴェイリルは彼の言葉を聞いて凍りついた。その瞬間、何かが彼女の中で壊れた。


彼女のオーラが暴力的に膨れ上がり、彼女の足元の地面が少し震えた。


「名前をつけたのは間違いだったわね。徹底的に叩いてやらないと—」


「おい」と、ソルが口を挟んだ。


ヴェイリルは一瞬立ち止まり、振り返ると、ソルが彼女をじっと見つめているのが目に入った。


「レイカたちが俺たちを探しているかもしれない。戻ろう。」


「でも…!」


「放っておけ。」


ソルの命令に逆らえず、ヴェイリルは頭を下げて彼の側に戻った。


「ちっ!」


その間、ゴブチキは頭をかきながら、まだ「使い魔」がなぜそんなに怒っているのか考えていた。


「うーん… 俺、ジョーク間違えなかったよな?」


ヴェイリルはまだ怒りが収まらないまま、何も言わずに先に飛び去った。ゴブチキはその様子を見て、完全に困惑したままだった。


ソルは黙ってヴェイリルの後を追いながら、彼女たちが戻るべき場所へと向かって歩いた。数分後、ヴェイリルが遠くにほのかな光を見つけた。


「前方に光が見える。あれが集落に違いない。でも…」


彼女は振り返り、目を細めた。三匹のゴブリンがまだ後ろに付いてきている。


「なんでお前らみたいなゴミがついてくるんだ?」


ゴブチキはソルとヴェイリルの後ろをついて行きながら、他の二匹のゴブリンが彼にぴったりくっついているのを見て、落ち着きなく動いていた。


「そ、それは…村に戻る道がわからないんです…」


「それがどうして私たちの問題だっていうんだ?さっさと消えろ!」ヴェイリルは怒鳴った。


「でも—」


「本気でぶっ飛ばしてやろうか!?」とヴェイリルは叫び、ゴブチキに向かって飛んで行った。


「先に行ってるよ。お前ら、こいつらをなんとかしろ、ヴェイリル」とソルは冷静に言って、ルミナイトを抱えたまま歩き出した。


「待ってください、ソル様—!」


ヴェイリルは言葉を途中で止め、遠くの光に向かって消えていくソルを無力に見つめていた。しばらくして、彼女はイライラしたため息をつき、ゴブリンたちに向き直った。


「すぐに出て行けって言っただろ。さっさと消えろ、いい加減にしろよ?」


突然、ゴブチキがヴェイリルの前で涙を流し始めた。彼の目は大きく見開かれ、表情はまるで同情を引こうとするかのように大げさに歪んでいた。


「お願いだ! しばらく、うちに泊めてくれ! 俺たちは村に戻る道がわからないし、周りには怖いモンスターがたくさんいるんだ! ううっ!」


その後ろにいる二匹のゴブリンも必死に頷き、ゴブチキの頼みを熱心に支持した。


ヴェイリルは彼らをじっと見つめ、時間が経つごとに苛立ちが募っていった。しかし、彼らのしつこい頼みが続くうちに、ついに長いため息をついた。


「わかった、わかった! 仕方ないから集落に戻してやる。でも!」 彼女は指を差し出した。 「泊まれるかどうかは、私が決めることじゃない。そこにいる連中が決めることだ!」


ゴブチキの涙で濡れた目は喜びで大きく見開かれた。明るい笑顔が彼の顔に広がり、彼はヴェイリルに向かってにっこりと笑った。


「親切にしてくれてありがとう! 朝日が昇ったら、すぐに帰りますから!」


「はいはい。ついてきなさい」とヴェイリルはつぶやいた。


ゴブリンたちは静かに彼女の後ろについて行った。一方、ソルはすでに先を歩き、遠くに見える集落の光へと着実に進んでいた。


歩きながら、ゴブチキは考えにふけっていた。ヴェイリルの怒りを買ったあの会話を思い返していた。


「フ、フミリアさん、あの—」


彼が言い終わらないうちに、ヴェイリルが大きなため息をついた。


「念のため言っておくけど、私は名前があるし、女だよ。」


ゴブチキはビクッと体を震わせた。


「え、あ…あ! そうだ! あの、名前は…何だっけ、あれ?」


「ヴェイリル!」


「きゃっ! はい! ヴェイリル様、ヴェイリル様…!」


ゴブチキは突然、言葉を止めた。彼の目は大きく見開かれ、思い当たる節があったのだろう、顔に驚きの表情が浮かんだ。


「待って…ヴェイリル? ドライスの大森林の守護者、野火のドラゴンヴェイリル?」


彼はその場で凍りつき、信じられないという顔で彼女を見つめた。


「ま、まさか…冗談だよな?」


ヴェイリルは足を止め、ゴブチキの目を見つめ返した。


「私のような大いなるドラゴンが、そんな冗談を言うと思うか?」

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