たてまち入学式
「...新たにこの館町高校の一員となった新入生の皆さんの学校生活が充実した物となるよう祈念して、式辞といたします。」
パチパチパチパチ!
...あれ、なんかみんな拍手してる。
俺も「…ご入学おめでとうございます!」あたりまでは聞いてたんだけどな...。
体育館一杯に並べられたパイプ椅子の上に座らされ、知らない偉い人たちの話をひたすら聞かされ続ける入学式。
もちろん話はまるで耳に入ってこない。
一応教室ではまあまあ仮眠がとれたのだが、やはり頭がボーっとしている。
ウトウトしないでしっかり椅子の上に座る事ぐらいは出来ているが、先生方の有難い話のほうは全く頭に入ってこない。
そう言えば体育館に横並びになっているパイプ椅子の上では、教室で見かけたあの一つ後ろの席の女の子が、今は隣に座っている。
それで少しドキドキしてしまうのも話が聞けていない一因かもしれない。
「全校生、起立!礼!着席!」
司会の先輩が号令して、ザザザッ!とみんなでしたがう。
この時気づいたけど、隣の女の子は何だか少し動きがふらふらしているようだ。
もしかして体が弱いのか?病弱だったりしたらちょっとかわいそうだ。
そんなことを妄想している間に、話をしていたステージ上の偉い人がどこかに行ってまた次の偉い人が話をするために登壇する。
にしても女の子一人をこんなに意識してしまう何て俺らしくもないな。
ゲームがあるので現実の事なんて興味もわかなかったが、その壁をぶち壊すほど隣にいる子の顔はかわいかった。
そんなにかわいい子が教室では前後、入学式は隣、たまたまとは言ってもずっと近くの席で気分が良い。
例えこの子とこんなに近くにいられるのが最初の最初、今だけだったとしても、それでも俺は自分の運の良さに満足だ。
でも、やっぱりこういう子はサッカー部のイケメンとかにすぐにとられちゃったりするのか?
なんか嫌だな、、、すごく嫌。
せめて席替えはしないで欲しい。
するとしても半年に1回で、、それなら少なくともあと半年は俺はこの子と前後の席でいられr...
ガコン!!
頭の中でいろいろボーっと考え事をしていると、突然そんな感じの大きな音が鳴った。
え...?
誰もが静かにするこの式典の際中で、気まずくその鈍い音が体育館に響く。
な、なんだ?
それはパイプ椅子の音だった。
誰かがパイプ椅子の上で姿勢を崩し足を浮かせて音を鳴らしてしまったようだ。
しかもその音が鳴ったのは隣の席、彼女のほうからだ。
だ、大丈夫か?
意識していることがバレないように、俺はすぐ隣にいるにもかかわらず俺はできるだけ視界の端にもあの子を入れないようにしていた。
でも大きな音が鳴ったので、安全のため流石にちょっと横目に見てみる。
ゆっくりと、顔を動かして隣の子の方を何となく視界に入れる。
美少女は、恥ずかしそうに俯いていた。
どうやらウトウトしてしまっていたらしい。
眠すぎて体が横に大きく倒れて浮き上がり、大きな音が鳴ってしまったみたいだ。
ま、まじか。
高校初日、入学式から居眠りなんて、普通しない。
やばすぎるだろ!
...まるで俺みたいだ。
いや、俺ですら居眠りはしていないんだぜ?
この子、意外と、、、眠っちゃうタイプなキャラだったりするのか?
まあでも、いま大きな音がなっちゃって反省しているみたいだし、今回ばかりは許してやるか...
もうするんじゃないぞ...。
数分後~
やばい、、この子また椅子倒すぞ!
美少女はまたウトウトとし始めていた。
すぐ前の壇上で校長先生とかPTAかなんかの会長とかがスピーチをしているのに、この子ときたら眠そうに、さっきから首をがくんがくんとさせている。
俯いて、だんだんと力が抜けていき、前のめりになってきたところでハッ!っとして座りなおす、ということをもう何度も繰り返している。
や、やばい、、、大丈夫かよ!
むしろ椅子の足を浮かせてしまうぐらいならまだましかもしれない。
このままだと椅子ごと横に倒れてバターン!とか、大きな音を会場に響かせることになる。
どうしよう、仲が良ければ肩を揺さぶって起こしてあげたりしたいけど、名前も知らない相手にそんなことはできない。
なのでヒヤヒヤしながらただ横で固まる。
頼む、倒れないでくれ...!
う、嘘だろ。
パッと見あまり不真面目そうな子には見えなかったのに。
教室にいたときはツーンとつまらなそうに座っていたけど、あの時は眠いのを我慢していたのか?
にしても初日から睡眠不足だなんて、、なんだか親近感が湧く。
俺みたいに恥を忍んで教室で仮眠をとっておけばよかったのに。
...いや、普通は入学式の朝から机の上に頭を伏せて寝たくはないか...
かれこれ1時間ほどで入学式は終わった。
隣の女の子は結局最後までウトウトしたままだったが、なんとか事故は起きなかった。
式が終わると女の先生に案内され、俺たちは教室に戻った。
◇◇◇
「はい!みなさん入学式お疲れさまでした!それじゃあいまから10分ぐらい休憩でーす。これから教科書とか、配布するものがたっくさんあるので準備お願いしまーす!!トイレとか行きたい人は今行ってきてくださいね~」
おそらく担任となるであろうかなり若い女の先生が元気な様子でそう言った。
休憩と言われ、皆ぞろぞろと席を立ちあがる。
言われた通りトイレに行ったり、同じ中学出身の友達のところへ話に行ったり、人によって時間の使い方はまちまちだ。
俺は特にすることもないので、ぼーっと座っていることにする。
早く帰って寝たい...。
いや、なんか眠くもなくなってきたきたな逆に。
帰ったらLoLやるか...。
早くも話相手を見つけている人も多く、教室のなかは少しガヤガヤとしていて意外と騒がしい。
みんな陽キャすぎる、俺ときたら寝不足で、まともに受け答えが出来るかも怪しいのに。
そうだ!LoLやる人!!
LoLやる人はいないのか?
LoLやる人この指とーまれ!
LoLの話なら眠くてもできるよ!オタクだからね。
って、いねーか、はは。
心の中でそう一人で話を完結させつつ、スマホをバッグから取り出す。
暇だし、統計サイトでも見るか。
何となくOP.GGで自分のプロフィールを開いて昨日の対戦履歴を見返す。
青い。青すぎる。対戦履歴が青い。
昨日はとにかく勝てる日だった。だから対戦履歴も真っ青だ。
プレイしたゲーム全てでキャリーして、ダイアになった。
一晩経っていても、思い出すだけで少し気分が良くなる。
もう殆ど朝だったから一晩っていう程時間は経ってないけど...。
(ふふふ...)
誰にも聞こえないよう空気を吐くように一人小さく笑う。
(ふふ、ふははは...)
まあ学校で友達が出来なくても仕方がない。
ゲームの世界では俺がキングだ。
俺はいつか、LoLでチャレンジャーになる。
青春の一つや二つぐらい、いくらでも賭けてやるぜ。
(ふはははは!ハッハッハッハ!!!)
「...あれ...?」
フ、フハッー!??
突然、後ろから「あれ」という声が聞こえてきた。
心の中では大笑いしていたが、別に声に出していたわけではない。
だから人に聞こえたりはしていないはずだが。
しかし今の「あれ?」という声は俺に向かって言われたものだった気がする。
でも、後ろにはあの美少女だって座っている。
もしこれで後ろを向いて、全然俺とは関係のない事だったら、小さなことでいちいち振り向いてくる神経質なヤツに思われてしまうかもしれない。
ここはあえて聞こえなかった事に…。
にしてもかわいい声だった、あの女の子の声だといいな。
そう思っていると、次の瞬間今度は後ろからトントン!と肩が叩かれた。
なんだなんだ、一体誰が、何の用なんだ!!
しかし肩をたたかれたのだから仕方ない。
少しドキドキとしながらも振り向いてみる。
パッと、ごく自然に...
するとやはり、あの女の子がそこには居た。
朝の時より近い距離で、綺麗な黒い髪や、美しい瞳がよく見える。
整いすぎててちょっとまぶしいな...。
式典中の眠気は体育館から歩いて戻っている間に飛んだのか、今はそこまで眠そうではない。
しかし彼女が俺に一体何の用なんだ?
知り合い、、ではないはず。
なぜ俺を呼んだのか皆目見当もつかない。
とりあえずドライな感じで、何か返事を、、、。
「え、えっと…?何ですか?」
俺のことを見つめる彼女に単にそれだけ聞いてみる。
もしや何処かであった事があったかな?流石にそんなことは無いと思うけど...
少女は申し訳なさそうに苦笑いしながら答えた。
「あ、えっと...ごめんなさい...!!」
な、なんだ?
突然謝られた。
内心さらに戸惑っていると、その少女は少し興奮気味に話し始めた。
「の、覗き見するつもりはなかったんですけど...」
「はぁ...」
彼女が一体何の話を始めたのか分からなくて反応に困る。
覗き見...?何の話だ。
彼女は続けて言った。
「あの、もしかして...」
「は、はい...」
「LoL...やってるんですか...?」
「え...?」