とあるサモナーズリフト
グロロロ!!
ゲーム時間も45分を過ぎたその時、マップ全体にドラゴンが轟く不吉なサウンドエフェクトが響き渡った。
「おい!エルダー湧いたぞ!!」
序盤からブルーサイドのプレイヤーたちによる一歩的な展開が続き、あっという間に勝敗が決まるかと思われたこのゲーム。
しかし慢心から生まれた少しのポジショニングのミスによって一度シャットダウンがレッドサイド流れると、試合はだらだらと長引き続けついにはエルダードレイクがマップの上に舞い降りる時間になってしまった。
「おい、なんか相手のADリコールしてね?」
誰がのミッドの深い位置に置いたワードにレッドサイドのAD、ジンクスがリコールしているのが映った。
「エルダー、、、できんじゃね?」
ブルーのミッド、タロンがすかさずエルダーのピットに集まるよう支援ピンを鳴らす。
「いましかねぇ!!やるぞ、エルダーラッシュだ!!!」
「視界はとっといたぜ」
サポートのパンテオンが置いたワードがボットの上側の森を広く照らしている。これだけの視界があれば、相手のドレイク周りの動きはすべて捉えることが出来るだろう。
タロンが沸いたばかりのエルダードレイクの懐にシュッと壁を飛び越え飛び込んだ。そして味方が集まるのを待たずしてドレイクを殴り始める。
「俺がDPS出せるから早いぞ!集まれ集まれ!!」
スキルとAA、パッシブの効果を余すところなく活用し、タロンがみるみるエルダーのヘルスを減らし始める。
「俺のチャンピオンはめっちゃエルダー遅いんだけど・・・」
タロンの判断を疑いながらも、ADのセナもエルダーラッシュに加わり始める。
「敵が来たら反転しよう!取り敢えず・・・殴れ殴れ殴れ!!」
ジャングラーのグラガスもボディスラムでドラゴンピットに入りラッシュに参加する。しかしセナよりももっと、タロンが行ったこの判断に不満そうだ。
ファーンファーンと警戒のピンを色々な場所に炊いている。
「ねぇカジックスの位置分からないんだけどぉ!下のトライブッシュとか暗いけど、あそこに隠れてたり、まさかしないよねぇ??それでエルダースティールされても俺のせいじゃないからぁ!」
「分かった分かった。俺が見てきてやるから待ってろ」
パンテオンがお気持ち程度のダメージをエルダーにディールするのをやめ、カジックスを探すためにドラゴンピットを抜けてトライブッシュの方へ、ぐるりとフェイスチェックに向かう。
「てかさぁ、おいグウェン!!あいつ何でいまファームしてんの?早くエルダー寄ってこいよぉ!!!!」
それでもグラガスの不満は収まらず、今度は未だにトップレーンのウェーブをクリアしてる味方のトップ、グウェンの真上に怒りの支援ピンを連続で出した。するとグウェンも、負けじと怒涛の勢いでチャットのログを埋め尽くした。
十色 (グウェン): ツイステッド・フェイト - 生存中
十色 (グウェン): ツイステッド・フェイト - 生存中
十色 (グウェン): ツイステッド・フェイト - 生存中
十色 (グウェン): ツイステッド・フェイト - 生存中
十色 (グウェン): ツイステッド・フェイト - 生存中
十色 (グウェン): ツイステッド・フェイト - 生存中
「なに?TFのスプリットが怖いってこと?」
確かにトップレーンのウェーブがインヒビタータワー直前まで押し込まれている。加えて相手のミッドレーナーが使用しているのはツイステッドフェイトだ。
もしこっちのチーム全員がドラゴンに集まってしまえば、ツイステッドフェイトがオブジェクトを無視してスプリットプッシュしてきたとき、少なくともインヒビター、ひどければネクサスさえも破壊されてしまう危険性があるだろう。グウェンはそれを警戒して、トップレーンのクリアを優先している。
しかし少しでも早くエルダーを倒し切りたいと考えるドラゴンピットのプレイヤー達はそんな事をあまり気にしてもいられなかった。
「いいから寄れや!もうこっちはエルダー始めてんだよ!!!」
「マジでこいつピン連打ばっかしやがって。何人なのか知らねぇけど、考えがあるなら英語でいいからチャットで言えや!!」
「この【十色】って奴めっちゃ暴言吐くから、多分チャット制限食らってるw」
「アハハ、なるほどw」
エルダーのヘルスも残り1万を切ったそんな頃。ホワーン!特徴的な効果音とともにドラゴンピットが青く光った。レッドサイドの誰かが置いたファーサイトオルタレーションだ。
「あー、エルダーやってんのバレたな」
グラガスが殴ってすぐに破壊するが、これでエルダーをラッシュしているのが確実に気づかれた。
それでも視界はこちらが有利、そう思っていた次の瞬間、ブルーサイドのプレイヤーたち全員の頭の上に不気味な目玉が表示された。敵ツイステッドフェイトのアルティメットスキル「デスティニー」だ。完全にこちらの位置関係が把握され、パンテオンが一生懸命置いたワードで得た視界有利もこれで良くて五分五分か、それ以下になった。
エルダーのヘルスは残り9000。
「これ狩り切れるか?どうする?」
「やばくね?一旦リセットかけよう、少なくともTFのウルトの効果が切れるまで・・・」
「いやそれよりもカジックスどこだよ!まだ見えないんですけぉ!!まさかピットの裏とかいねぇよなぁ!?」
「トライブッシュには居なかったからな!!」
あるものは撤退ピンを鳴らし、あるものは何も考えずにエルダーを殴り続ける。
誰も自分がどうするべきか正しく分からなくなっていたが、しかし4人はただ、雰囲気でエルダーを殴り続けた。
「あ、待って・・・ カジックス映った!!」
しかしその時、相手のジャングル、カジックスの姿がブルーバフのブッシュに置かれたワードに映った。一応オラクルレンズを回してはいるが、慎重な様子は無い。見つけたワードも殴らずTFのウルトで得た視界を利用して、一気にドラゴンピットへと詰め寄ってくる。
「オイやばいぞ!!これ狩りきれない!!スマイトバトルになるぞ!!」
「いや、スマイトバトルなんかしねぇよ!!おいパンテオン!どこ行ってんだぁ!?早く戻ってこい。カジが入ってきたらお前が捕まえるんだよ!」
「ハイハイ、今行くって!!」
カジックスに続いて、視界の無いジャングルを進みにくそうにしていたレッドサイドの他のプレイヤー達もどんどんと森の中を進み、ドラゴンピットに詰め寄ってくる。集団戦が今まさに始まりそうだ。
「大丈夫か?やっぱり一旦リセットかけない!?」
「どうすんだよ!!」
「と、取り敢えずエルダー殴るか・・・」
エルダーのヘルスはもう6000を切り、そのまま5000、4000と止まる事なくじりじりと減っていく。
だが、ヘルス3000を切ろうとしたその時、試合が動く。カジックスが突然、Eのスキル「リープ」を使ってジャングルの壁を越え、リバーの中心、ブルーサイドのプレイヤー4人の目の前にジャンプして飛び込んできた!
「え?」
「なんだコイツ!?」
「お前ら・・・ かかれぇ!!」
パンテオンがWスキル「跳撃の盾」によって目の前のカジックスにスタンを入れる。4人ものプレイヤーの目前で、完全に動けなくなってしまったこのバッタに、タロンのアルティメット込みのコンボ、セナADCの重いAA、グラガスのボディスラム、ありとあらゆるブルーサイドの攻撃がカジックスの顔面に向かって一気に飛んで行く!
【敵を倒しました】
アナウンスが響く。序盤から大量のデスを重ねながらも頑なに脅威アイテムを積み続けたカジックスは、4人のフォーカスを受け、跡形もなく消し飛んだ。
「ナイス!!!!」
「こいつ無茶しすぎだろぉ!w、エルダー、そんな欲しかったぁ?」
「ウルトで消えるつもりだったんだろうけど、流石に無理じゃね?」
「お前ら、エルダー殴れ殴れ殴れ殴れ!!」
スマイトを持つ相手のジャングルが死んだことでエルダーを触っているところに飛び込まれ、スティールされる可能性はこれでなくなった。ブルーサイドのプレイヤーたちは勝利を確信し、もはや誰も迷うことなくエルダーの命を狙った。
エルダーさえ手に入れればこの直後時間差で沸くバロンがほぼ確定でとれる。そのあとはゲーム中最強の2つのバフを身にまとって相手の陣地に攻め込み、全てをを終わらせるだけだ。
エルダードレイクのヘルスが残り2000を切った。
序盤勝ちまくった割に怪しい試合になってしまったが、もう大丈夫。エルダーバフを手に入れ、あとは詰将棋。負けるリスクは何もない、少なくともブルーサイドのプレイヤーたちはそう確信していた。
ホワーン!
バラバラバラバラ!!!その時、突如ドラゴンピットの奥にずらずらとトランプが舞い始めた、魔法の力で宙を浮かぶカードたちは、まずは円を描くように地面に配置されていき、次にゆっくりと人の形になっていった。そしてそこに敵のミッドレーナーが現れる。
TFのアルティメットの二段目「ゲート」。自分を中心に超広範囲で、サモナーズリフト上を一瞬で移動する事が出来る。
「TFここに飛んできた!スキルで命がけのスティールするつもりだ!」
「大丈夫大丈夫、TFなんかのダメージじゃ俺からスティールは出来ねぇって!w」
「ハハハ!どいつもこいつも目の前に飛び込んできて馬鹿すぎだろ!」
「俺まだW上がってない!まずはエルダー狩切ろう!TFはその後だ!」
混乱の最中でも、もう低くはないレートのプレイヤー達。AAのみを使いエルダーのヘルスをスマイト圏内へと丁寧に調整していく。
エルダーのヘルスが1200を切り、、、ズドン!
その瞬間、エルダーの上に完璧なスマイトが落とされた!
グオオオン!!
ついにエルダードレイクが倒され、その理不尽なバフ効果が片方のチームへと一歩的に振り撒かれた。もはやゲームから駆け引きの要素は消え、蹂躙が始まる。
「よし、相手突っ込んでくるぞ!!構えろ!」
「俺はセナのピールする!」
「とりあえずこのバカTFを片付けるぞ!」
ドラゴンピットの中で一人浮いているTFをフォーカスしようと4人が一斉にスキルを放つ。
しかしキーン!とTFがゾーニャの砂時計を使用した。
「ああもう!いいや!TFは取り敢えずほっとけ!!リバーの方から敵来るぞ!」
サイドをクリアしていたトキシックなグウェンがTFがピットにウルトをしたのをみてやっとこちらに寄り始めた。まだミッドの辺りだが、それでもカジックスは先に倒して4v4。集団戦の形も悪くない、エルダーバフがある事を考えれば余裕を持って勝つ事が出来る筈だった。
「どうしたセナ!敵を殴ってくれ!!」
「う、動けない」
メインディーラーの筈のセナがスタンしている。どうやらTFが砂時計を使う直前におまけでイエローカードを投げていた様だ。
「あ、俺サッシュ有ったんだった」
「馬鹿が!早く殴れ、押し負けるぞ!」
「ご、ごめん。でも大丈夫だって・・・!こっちには最強のエルダードラゴンの力がある!」
サッシュを使うのが一瞬遅れたセナに、レッドのADジンクスが、少し離れた位置からスーパーメガデスロケットを放った。そのメガデスロケットのモーションを見たとき、セナはケラケラと内心嘲笑った。
「おいおい初心者か?ジンクスのウルトはな、減少ヘルス割合でダメージが増えるんだぜ?俺のヘルスはまだ8割もある。そんな打ち方をしちゃあダメージは・・・」
ヘルスがあるうちのメガデスロケットは大した脅威ではないと油断するセナ。しかしそれが自分にぶつかる頃、セナはジンクスが放ったそのウルトの真の意味にふと気付いた。
「あれ?なんか俺のヘルスバーに処刑ライン表示されてね・・・?」
ドラゴンピットに密集するブルーのプレイヤーたちにメガデスロケットがAOEでぶち当たる。すると彼らの体をゆらゆらと青白く燃えるエルダーの炎が燃やし始めた。
そして集団戦が始まったその瞬間、セナは一瞬でデッドした。ギャオーン!とドラゴンの真髄に燃やされて・・・
タロンがフラッシュを使って一心不乱でジンクスに飛びついた。なんとかヘルスを減らそうとするが、ウルトをさっきカジックスに使ってしまったこともあり、全く倒せる気配はない。負けを悟った頃、タロンも気づいた。
「あれ?俺たちエルダー取られてたの?」
セナのデスによりパッシブスキル超エキサイティン!を発動させたジンクスは、ピット付近にいる残り3人のプレイヤーをあっという間に葬り去った。理不尽な確定ダメージと共に・・・
ギャオーン!ギャオーン!……ギャオーン!
【ジンクスのクアドラキル!】
?????
ホワン!ホワン!(効果音)
?ピンが数人分、大量に炊かれた。場所は、ドラゴンピットのすぐ後ろでリコール中のグウェンの頭の上。ギリギリまでサイドでウェーブをクリアしていたグウェンは急いで寄ってきてはいたものの、結局戦闘に参加できないまま、ただ目の前で他の味方がクアドラキルされたのを眺めるしかなかった。
正直、グウェンが悪いのかは分からないが、デスしたプレイヤー達にはとにかくその苛立ちをぶつける相手が必要だった。そしてその苛立ちは、最後までファームし続けた癖にダメージを出さず、死にすらもしなかったグウェンに向けられた。
十色 (グウェン): グラガス スマイト - 準備完了
十色 (グウェン): グラガス スマイト - 準備完了
十色 (グウェン): グラガス スマイト - 準備完了
十色 (グウェン): グラガス スマイト - 準備完了
十色 (グウェン): グラガス スマイト - 準備完了
十色 (グウェン): グラガス スマイト - 準備完了
グウェンも言い返すようにグラガスのスマイトにピンを炊く。そのピンを見てタロンの怒りの矛先もグラガスへ向かった。
「確かに・・・それはそうだぜ。おいグラガス!何TFなんかにエルダースティールされてんだよ!!訳わからん!俺たちには偉そうに指示してきたくせにさ!!」
パンテオンも不満を込めてグウェンに乗っかり、スマイトにピンを挿した。しかしグラガスが反論する。
「いや、なんかあいつスマイトしたんだよ!!」
「は?そんなわけないだろ!!言い訳やめろ!!」
「ほんとほんと!!!」
「ああ、これだわ!!!」
グラガス: ツイステッド・フェイト 解放の魔導書
グラガス: ツイステッド・フェイト 解放の魔導書
グラガス: ツイステッド・フェイト 解放の魔導書
「これだよ!あいつ魔導書でスマイトを出してたんだ!!」
「ハァ~?知ったことかよ!クソが!!」
「あ~うるせぇ~!そもそもさぁ、グウェンがとっとと寄ってればラッシュ間に合ったじゃん!カジックスが入ってきたときエルダーのヘルス3000ぐらいだったよ、後3000ぐらいグウェンが初めから寄ってきてたら余裕で出せただろ。グウェンがワリィわ!」
「まぁそれはあるわ!このグウェン戦いもしないでずっとミッドうろうろしてさ~、まじで何やってん?」
「確かに、グウェン何もしてなくないか?」
グウェンのプレイヤーは何かを言い返したそうに再びピンを鳴らした。
ツイステッド・フェイト - 生存中・・・
「そんなにTFのスプリットが怖いならさぁ、TP持ってこいや!!お前のサモナースペル、ゴーストとイグナイトって、LoL舐めてんじゃねぇよ!!!」
「それな・・・!」
「大体さぁ、TFのスプリットなんてエルダー取った後にリコールすればええやん。俺たちがもうエルダー触ってんだからとっとと寄ってこいや!」
「それな!!!」
責任を押し付け合うピンやチャットの応酬の中、結局ただ何もしていなかったこのグウェンに、段々とチームメイトのヘイトが完璧に集まり始める。
ヘルスを十分に残した4人の敵がミッドのインヒビタータワーをシージしてくる。ドラゴンピットでデスしたプレイヤー達ののデスタイマーは後25秒・・・
グウェンがタワーをなんとか守ろうとW「聖なる霧」を展開しながらアルティメットスキル「針仕事」でウェーブのクリアを試みる。しかし・・・バシュン!TFが聖なる霧の内側にまで入るフラッシュイン、からのイエローカードでグウェンをスタンさせると、そのままエルダーバフの乗った4人からのフォーカスで最後に残ったグウェンも呆気なく死んでしまった。
?????(ホワンホワン)(効果音)
プレイヤー4人分の、とてつもない数の?ピンが死んだグウェンの上に炊かれた。
「は~、マジでさ~」
「なんでネクサスの前まで引かないんだよ。ネクサスの前にはタワーが2本あるんだよ?ワンチャン俺らが湧くの間に合っただろ」
「はー、しょうもね~」
インヒビターが割れたタイミングでデスタイマーが1番早いセナでも後15秒。ゲームの敗北が確定した。プレイヤー達の苛立ちはもう止まるところを知らない。
そんな頃、敵のツイステッドフェイトのプレイヤーが何やら全体チャットをしてきた。
[all]トランプマン (ツイステッド・フェイト): GG!!!!!!
[all]トランプマン (ツイステッド・フェイト): グウェン、ダイア昇格失敗、ドンマイ~w
煽りチャットだった。
「なんだあのトランプマンって奴・・・」
そうは思うが、しかし何故かそのヘイトが向いているのはブルーのプレイヤー達と同じグウェンに対してだった。おそらくこのグウェンが日頃から暴言を吐いているからだろう。
グウェンがこれでダイア昇格失敗。しかしそれを聞くと、負けたブルーのプレイヤー達はむしろ面白がり、一緒になって笑い始めた。
「あれ、この十色って奴、これ勝ったらダイアだったの?」
「マジかよww時間的にこの試合今シーズンラストだぞw」
「ザマァ!ああ~、俺今ちょっと機嫌良くなったわ!アハハハ!!!」
ネクサスを守る最後の2本のタワーも、充分なビルドの揃った4人のチャンピオン達によってあっという間に壊されていく。レッドのプレイヤー達はむき出しになったネクサスの破壊をわざと遅らせ、楽しそうにファウンテンの前でダンスを始めた。そうしてゲームが終わる直前に出来た少しの時間。普段暴言を吐きすぎてチャット制限がされているらしいグウェンのプレイヤーが、ここにきて初めて少しのチャットを行った。
十色 (グウェン): 全員親ごとくたばれ
そうして1年間の、長いLoLのシーズンがまた一つ終わった。




