第1章 同窓球技大会やるってさ①
時は2020年代中頃。あの伝説のエースが河北高校を卒業してから早5年。河北高卒、元バドミントン部。高校野球好き小企業社長になった笠沼大五郎のもとに同窓会のお知らせが届く。それは同窓会を兼ねた球技大会の案内だった!だが、メインは笠沼の草野球物語じゃない。あの伝説のエースを引きずり出してからこそが、あの夏の忘れ物を取り返す、青春の再スタートなのだ。
本当は、伝説のエースと人気アイドルの大恋愛を描く青春ストーリー。
醜い小企業の社長になったおっさん達による金券を巡った草野球は、あくまでもおまけなのです。
時は2020年代中頃。伝説のエースと伝説級のナインが健闘した全国高等学校野球選手権北北海道大会から早、えーっと、えーっと5年くらい。いやもっとか。そのナインが卒業してからも、そのくらい。久しくあの高校名を目にしていない。あれ、監督は変わったんだっけ。まぁ、それはさておき。あのナインも応援団も生徒たちももう20代中盤。早いモンだなぁ。それはさておき。この度、とっても楽しそうなイベントを企画している奴らがいるらしい。そしてそのイベントには、あの、毎年話題になっている社会人野球のエースが出るようだ。そう、河北高の元エース、あの伝説のエースだよ。サ、俺も情報収集して、試合に備えますかネ。
第1話:笠沼社長にFAX届く
俺の事務所のFAXにイベントの企画書が届いたのはもうめちゃくちゃに暑い7月中旬のこと。なんでも、河北高校70期生の同窓イベントをやるらしいんだが、それが球技大会だって。ただ、どこがバックについてんだか知らんが、優勝賞品は3万円分の清酒券 or お米券&2万円分の商品券だと。それも優勝チームの一人一人に配られるんだとさ。アッと驚く為五郎!ってか。3年次の時のクラスがチームだってことだから、43人分。43×5万=215万円分!運営の誰か、富豪にでもなったんだろか。まぁそれはさておき。
うちの親会社の社長と関連会社の社長がウイスキー党、日本酒党なんだよナぁ。言っとかなきゃいけんナぁ。なんたって俺が3年の時のクラス、4組だったんだけどサぁ、近重映像株式会社っていううちの親会社の関係者が一番多いクラスなんだよな。4人もいる!それだけじゃないゼ!監督やコーチにも5万円分やるって言うんだから、最低でもあと3人分はもらえるな。でも親会社の若岳社長と関連会社の佐藤社長、野球好きでもあるんだよなぁ。どうすっぺ。2人分、名前だけ貸してくれる奴探すっきゃないか。同窓会にもクラス会にも参加してない奴…。まぁおいおい考えるか。今は7月、開催は10月。
時は8月頭。クーラーガンガンの部屋で台本執筆中。そこに一通のFAXが。
『河北高70期生 同窓会イベント 大球技大会 開催決定』
だと。そのお知らせとともに次々に印刷されてきたのは、各チームのメンバー表。元委員長あたりが作ったクラスの名簿だよ。俺は卒業アルバムを引き出しから取り出し、クラスの人数を数えるため、1から名前を確かめていった。おや?1人足りないナ。うん、やっぱり。カゲの薄かったあいつがいない。大田だ、大田和樹がいない。しめた!こいつと連絡が取れる奴がいなかったら、若岳社長を大田と偽って出場させればいい!そう思い、大田と唯一話をしていた近重映像の情報管理部長、後藤颯斗にTELした。よ~し!これはいける!大田の連絡先を知らなかった後藤にも、この計画を話し、納得してもらった。関係者だしな。みんな金券欲しいだろって。ただ、若岳社長だけ出ても、女房役がいない。若岳社長はピッチャーなんだ。良い球、放るぞ!でもサ、歴が短いし、佐藤社長しかキャッチャーが務まらないんだよナぁ。もう一人分、枠はないものか。
後藤に聞いたところ、4組は一番、集まりがいいらしい。ただ、美大に行って建築家になったとかいう前中だけ連絡が取れないんだってよ。まぁ、大田のことはまだ黙っておくか。俺は高校時代、前中とよく話した。ちょっと連絡してみっか。
連絡ついたよ。元気だった。一級建築士だってサ。すんげぇな。んで計画を軽く話したら快諾してくれた。ほんといい奴なんだよ。見た目ちょっと威圧感あるだけで。そんで、タダで名前借りるのは悪いから、優勝したら、商品券2万円分は渡すことにした。別にいいのに、とか言ってたけどそんなわけにゃいかんぜよ。とにかく、この計画を後藤、前中以外の関係者と社長2人に話さなきゃな。次の休みにでもどっかで。
まず手っ取り早く済む奴。カメラマンをやってる3組の伊藤と近重映像の草野球チーム『カルヴァーズ』の正捕手である4組の谷田に話した。さすが飲み込みが早い。二人とも元河北高野球部。特に谷田なんてのは、あの伝説のエースとバッテリーを組んでいた主将だ。エースにはいまだに変わらないクセがあり、それも丁寧にコーチングしてくれるらしい。ありがたや~ありがたや。次に6組の浦松。近重映像の音楽制作に協力してくれてる医学部出身の音楽家。浦松も協力的だった。宴会楽しみにしてるよだってサ。あとは同じクラスの舞台演出家。谷田から話してもらった。なんか俺嫌われてるみたいだから。そしたら名案!って褒めてたってさ!うれしいねぇ。さぁ、第一次決戦は次の日曜日。若岳さんと佐藤君に話してみようか。迷案って言われないといいなぁ。
第2話:夢のようなお話
『こんにちは、笠沼大五郎です。次の日曜日のp.m.1:00 純喫茶 北風で会いましょう』
さて、日曜日です。一通りの説明を終えました。なんということでしょう!二人とも清酒券に惹かれ、出場したいということです!いやぁ、びっくりだね。でも、やったね!
さぁ早速!二人から返事をもらったということで。FAXを送ってきた運営の1人、曽良美花へ。
『前中、出場するってよ。んで、名簿に大田入ってなかったろ。大田も参加するから』
送っといたよ。俺も後藤も誰もかも、大田の現在は知らぬけども。心の中で、悪いな大田、と謝っといた。勝手に名前使ったことだけじゃないぜ、みんなが俺に言われるまで、大田という奴の存在を忘れていたということに対してもだ。アルバムには載ってる。だけんど、思い出せん。大田、悪いな。
時は過ぎ、お盆休みが明けた。まだ暑い。北海道とは思えん。日差しはカンカン、クーラーガンガン、頭もガンガン。氷の食べすぎだネ。そうだそうだ、1個重要すぎるルールが決まったんだと。
『全員出場が大原則!(けが人は除く)1打席でも0.1イニングでも出場すること!』
らしい。これで、俺らの記憶から消えていた大田も出場できるわけだ。身体能力のよくわからんやつを普通は出さんだろうけど、こんなルール出来ちまったからには出さんといけないよね。よ~し!がんばるぞ!清酒券は俺らのものだ!
この物語は、一応、スポーツ&ラブコメである。まだ、ヒロインはおろか主人公すら出てきていないが。今まで散々語ってた奴は主人公ではない。ただの小企業の社長。ただのおっさんだ。
いま一度言う、主人公はまだ登場していない。




