第4章ー⑪
「それで? 話というのは?」
夕食を作り終え、皆で揃って食卓を囲み、あらかた食べ終えた頃だった。
エリカさんは隣に座る神父さんへお茶を注ぎながら、こちらへ視線を向ける。
「んん? 話とは何のことだ、シスター?」
「えっと、詳しくは分からないんですけど……サダメが皆に話したい事があるそうで」
「ほう?」
神父は湯気立つ茶を一口すすり、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。
「それで、話というのは何かな?」
「えっ、えっと……」
一斉に集まる視線。
胸の奥がぎゅっと縮まり、頭の中が真っ白になる。
ただ「学園に行きたい」と言えばいいだけなのに、その一言が喉に引っかかって出てこない。
――でも、言わなければ何も始まらない。
「俺、魔法学園に……その、行きたくて……だから……」
支離滅裂な言葉が転がり出る。
自分でも何を言っているのか分からない。それでも必死だった。
「ふむ。つまり――魔法学園の入学試験を受けたい、ということかな?」
「は、はいっ!」
どうやら神父には意図が伝わったらしい。
とりあえず第一関門は越えられたようだが、本番はここからだ。
「ふーむ……」
神父は大きく息を吐き、白い顎髭を撫でながら考え込む。
即座に却下される覚悟もしていた分、沈黙が逆に怖い。
「シスター。君はどう思う?」
「えっ? 私、ですか?」
突然話を振られ、エリカさんが少し目を丸くする。
嫌な予感がした。エリカさんは優しいけれど、同時にとても過保護だ。
遠くへ行くこと自体、反対される可能性は高い。
「そうですね……私は、子供たちが幸せでいられるなら、反対するつもりはありません」
「っ!? じゃあ――」
思わず立ち上がりかけた、その時。
「ですが」
エリカさんの声が、柔らかいまま鋭さを帯びる。
「魔法学園は授業が非常に厳しいと聞いています。
卒業できるのは入学者の三割ほど。
大怪我をして学園を去ったという話も珍しくありません」
「……」
「そう考えると、保護者の立場としては……正直、心配でなりません」
その表情は、まぎれもなく“母”の顔だった。
自分を育ててくれた人の愛情が、痛いほど伝わってくる。
――反論できない。
自分が逆の立場でも、きっと同じことを言うだろう。
「うむ。私も同意見だ」
神父も静かに頷く。
「合格したとしても、将来が必ず安泰になるわけではない。
卒業までに何かあれば、それこそ取り返しがつかん」
「……」
「サダメ。それでも君は、学園へ行きたいのかね?」
問われて、胸の奥が熱くなる。
――分かっている。
二人は自分の身を案じてくれている。
だからこそ、このまま引き下がるわけにはいかない。
俺はゆっくりと席を立った。
「昔、予言師に……勇者の才能があると言われました」
「……?」
「父は、魔法学園へ進み、騎士団の副団長にまでなりました」
「サダメ……」
床へ一歩進み、そして膝をつく。
「勇者に……学園へ行くよう勧められました」
静寂が落ちる。
俺は両手を床につけ、深く頭を下げる。
「お願いします。
俺は――勇者みたいに、誰よりも強く、誰よりも優しい人になりたいんです」
畳に額が触れそうになるほど、深く、深く。
これが、今の自分にできる最大の誠意だった。




