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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
3章 逆襲編

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第3章ー30

 「はあ、よかったぁ……。いきなり鼻血を出した時は、本当にびっくりしちゃったよ」


 「す、すみません……」


 「……」


 あの騒動の後。

 なんとか鼻血を止めてもらった自分は、天女――いや、この教会のシスターから昼食をご馳走になっていた。


 テーブルを囲むのは三人。

 金髪のシスター・エリカさん。

 目を覚ましたばかりのミオ。

 そして、自分。


 鼻血の話題が出た瞬間、ミオがじっとこちらを見つめてくる。

 不機嫌……というより、理解不能なものを見るような視線だ。


 いや、誤解しないでほしい。

 不可抗力だったのだ。

 天女が目の前で着替えていたら、普通の男子なら鼻血の一つや二つ出すだろう。

 ……いや、普通じゃないかもしれないが。


 「どう? 美味しい?」


 エリカさんが朗らかに微笑む。


 「はい! エリカさんのご飯、とっても美味しいです」


 素直に答えると、彼女は嬉しそうに笑った。


 食事をしながら、色々と事情も聞くことができた。


 今自分たちがいるのは、リーヴ村にある教会。

 そして目の前の金髪美女は、この教会のシスター――エリカ・レーベルさん。

 二十五歳。


 ……悪くない年齢だ。

 だが、聖職者。恋愛不可。

 だが、それもまた一つの尊さ。

 などと、どうでもいい思考が頭をよぎる。


 ちなみに、あの時彼女が服を脱いでいたのは、買い物へ行くための着替えだったらしい。

 つまり、自分は完全に“異性として見られていない”。

 見た目がショタ寄りだから仕方ない。

 おかげで眼福だったが、ちょっとだけ複雑な気分でもある。


 ……話を戻そう。


 自分たちは、倒れていたところを勇者に拾われ、この村まで運ばれたらしい。

 地図感覚からすると、あの場所からここまで馬で二日はかかる距離だ。

 だが、ドレーカ村で聞いた話によれば、勇者は馬より速く走れるという。

 つまり――自分たちは、文字通り“抱えられて疾走”されたことになる。


 想像しただけで、色々と申し訳なくなった。


 さらに、自分たちは丸一日以上眠っていたらしい。

 気絶してから目覚めるまで、合計で二日以上。

 そんなに眠っていたのかと、今さら驚きが湧いてくる。


 「そういえば……その勇者は、今どこに?」


 ふと思い出して尋ねる。


 「えっとね。昨日はここで一晩休んでたんだけど、今朝『急ぎの用がある』って言って村を出て行ったわ。かなり急いでいる様子だったわね」


 「……そう、ですか」


 急ぎの用。

 魔物討伐か、別の村の救援か。

 勇者とは、そういう存在だ。


 だが――


 話さなければならないことが、まだ山ほどある。

 ドレーカ村の状況。

 生き残った人々。

 魔王軍の動き。

 そして――自分が見たもの。


 「……ここに、戻ってきますかね?」


 思わず口をついて出た問い。


 「うーん……どうだろう。勇者様も忙しいからね。もう戻ってこない可能性の方が高いと思うわ」


 「……」


 胸の奥が、じくりと痛んだ。


 そうだ。

 勇者は“待っていてくれる存在”じゃない。

 世界を救うために、前へ進み続ける人だ。


 「どうしたの、サダメくん?」


 エリカさんが心配そうに覗き込む。


 「……すみません」


 「えっ、ちょっ――」


 気づけば、自分は椅子を蹴って立ち上がっていた。


 勇者と話さなければならない。

 今、追わなければ――きっともう二度と会えない。


 衝動が理性を追い越す。


 エリカさんの制止の声を背に、

 自分は教会の扉を押し開け、外へと飛び出した。


 ――まだ間に合え。


 そう願いながら。

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