表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
3章 逆襲編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/590

第3章ー㉕

 黒い槍が、勇者の腹を穿つ――はずだった。


 「ッ!? 勇者さ――」


 叫び声が喉から漏れた瞬間、父が目の前で倒れたあの日の光景が脳裏をよぎる。

 身体が勝手に震え、心臓が凍りつく。


 だが。


 「ふぅっ、あっぶなかったぁ」


 聞こえてきたのは、呑気とも思える声だった。


 「……え?」


 目を凝らす。

 勇者の腹は、確かに槍の軌道上にあった。

 しかし、貫かれていない。


 勇者は咄嗟に右手を突き出し、槍の穂先を真正面から受け止めていた。

 掌から小さな炎が噴き出し、黒槍を焼き焦がすように震えている。

 血が一筋、指先から滴り落ちる。

 だが、貫通までは許していない。


 「ゆ、勇者さん……!?」


 安堵と恐怖が入り混じった声が漏れる。


 「『ほう……油断していれば、あるいはと思いましたが』」


 静かな拍手のように、空気が揺れた。


 「『流石は勇者。反射だけは一流ですね』」


 黒い影が地面から滑り出すように立ち上がる。


 ――エイシャ。


 先ほどまで姿を消していた十死怪の一角が、悠然と勇者の前に現れた。


 「……おまえは……」


 勇者が低く唸る。


 こいつ。

 さっきまでどこに潜んでいた?

 ダークボルトとの戦いの最中、逃げ出したとでも思っていたのに。


 「仲間がやられてる間に逃げる準備でもしてたかと思ったが……案外義理堅いじゃねぇか」


 勇者が皮肉を投げる。


 だが、エイシャは微笑むだけだった。


 「『仲間思い? ふふ……勘違いなさらず』」


 「『私はただ――貴方が油断する瞬間を待っていただけです』」


 「『魔王軍にとって、勇者とは唯一にして最大の障害。排除する好機を逃す理由がありません』」


 淡々と語られる言葉。

 感情の揺れが一切ない。


 それが逆に、不気味なほどの余裕を感じさせた。


 「なら今度はお前が相手だな。俺は構わねぇ」


 勇者が剣を再び構え直す。


 だが。


 「『ええ。そのつもりです――が』」


 その一言と同時に。


 ズズ……と地面が低く唸った。


 周囲の土が円形に沈み込み、そこから漆黒の影が湧き上がる。

 影は次々と形を成し、魔物へと姿を変えていく。


 「ッ!?」


 息を呑む。


 村で戦った魔物たち。

 自分が倒しきれなかった生き残りだ。


 十体以上――いや、それ以上かもしれない。


 「『彼らはね』」


 エイシャが楽しげに語る。


 「『そこの赤髪の子に、たいへん手酷い歓迎を受けたそうで』」


 「『お礼を申し上げたいと、うるさくて仕方がないのですよ』」


 「……っ」


 視線が、魔物たちから自分へ向けられる。

 殺意。

 憎悪。

 生々しいほどの報復心。


 確かに、怒るのは理解できる。

 だが、元はといえば――村を襲い、人を殺したのはこいつらだ。

 報復など、筋違いにも程がある。


 「そうかよ」


 勇者が、肩を鳴らす。


 「じゃあ、その“お礼”は俺が代わりに受け取ってやる」


 だが、その声色は軽い。


 「ただし――」


 右手から、まだ血が落ちる。


 本来なら、自分が前に出なければならない。

 それなのに、身体はまだ重く、思うように動かない。


 ――まずい。


 そう思った瞬間。


 「受け取るには少々手間がかかりそうだからな」


 勇者は不敵に笑った。


 「そこんところは……よろしく!」


 剣が、再び炎をまとう。


 そして戦場は、再び動き出した。


 絶体絶命の幕が――今、上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ