第3章ー㉓
「うらあぁぁぁぁっ!!」
「はぁぁぁっ!!」
大型倉庫ほどの広さを持つ結界の内部。
そこでは、もはや人の限界を超えた速度と力のぶつかり合いが続いていた。
剣と槍が交差するたび、火花と雷光が散り、床が抉れ、空気が震える。
時に魔法が炸裂し、炎と黒雷が空間を引き裂く。
だが――互いの力量があまりに拮抗しているがゆえ、決定打は生まれない。
時間だけが削られ、体力だけが磨耗していく。
――もう、三十分は経っている。
どちらが先に崩れてもおかしくない。
息をするだけで胸が痛み、腕は重く、脚は震え始めていた。
「はあ……はあ……」
「ふうぅぅ……」
互いに距離を取り、呼吸を整える。
汗が頬を伝い、蒸気となって消えていく。
沈黙。
張りつめた空気だけが、結界の内側を支配する。
「んんん……本当はもっと殴り合いてぇがよぉ」
ダークボルトが首を鳴らし、笑った。
「ちまちま削り合う地味な戦いは性に合わねぇ。だから――」
その瞬間。
黒雷のオーラが、今まで以上に激しく噴き上がった。
大気が唸り、床の石が浮き上がる。
「ッ……まさか……」
嫌な予感が、背筋を凍らせる。
体力は消耗している。だが、魔力は――まだ底を見せていない。
ならば、奴が選ぶ手段は一つ。
「お互い、全力の一撃で終わらせようぜ!!」
その言葉に、結界の中の温度が一段下がった気がした。
魔法による一撃決戦。
建前は“互いの誇りある決着”。
だが本音は違う。
――黒雷天を、もう一度放ちたい。
それが、ダークボルトの狙い。
あの魔法を真正面から受けるなど、ほとんど自殺行為だ。
「……いいだろう」
「ッ!?」
思わず息を呑む。
勇者は――受けた。
「……へっ!」
ダークボルトが、不敵に笑う。
罠に獲物が自ら踏み込んできたとでも言うように。
まずい。
この勝負、理屈で考えれば圧倒的に不利だ。
奴は“全力”と言った。
つまり、さきほどの黒雷天すら、本気ではなかった可能性がある。
「俺も伊達に勇者を名乗ってるわけじゃねぇ」
勇者が一歩踏み出す。
「数えきれねぇ修羅場を越えて、ここまで生き残ってきた。来いよ。お前の全力――俺の魔法でまとめてぶち破ってやる」
その声には、一片の迷いもない。
死を覚悟した者の静けさではなく、勝利を疑わぬ者の確信。
「はっ、面白れぇ!」
ダークボルトの笑みが、狂気へと変わる。
「■■■、●●、▲▲▲▲……」
人の耳では理解できない魔族の言語。
だが、その詠唱が危険であることだけは、肌で分かった。
紅天画撃の周囲に、黒雷が渦を巻く。
空気が焦げ、結界の壁が軋む。
一方、勇者も詠唱を開始する。
「紅き焔よ。炎天に轟く一振りとなり、界雷を吹き飛ばせ――」
剣を下段に構える。
刃から噴き出す炎は、もはや“火”の域を超えていた。
床が赤く溶け、湯気が立ちのぼる。
熱が肺を焼き、息をするだけで痛い。
――これが、勇者の全力魔法。
「【黒雷天】ッ!!」
「【昇炎天下】ッ!!」




