第10章ー16
「くっ!?」
衝撃に弾き飛ばされ、地を滑るように距離を取ったマヒロの姿に、思わず声が漏れる。
「大丈夫か、マヒロ?!」
「うむ。拙者は問題ござらん」
即答だった。
息も乱れておらず、受け身も完璧。どうやら致命的なダメージは負っていないらしい。
それでも――
今の一撃が、彼女にとって想定外だったのは間違いない。
「しかし……あの剣速を、避けるどころか受け止められてしまうとは」
マヒロはブラムから視線を逸らさぬまま、低く呟いた。
「相当な動体視力と筋力だな」
「それもあるが……」
一瞬、彼女の目が細められる。
「ほんの刹那、やつの腕が赤く光ったように見受けられた」
「腕が赤く……?」
自分の位置からでは確認できなかった。
だが、マヒロの観察眼を疑う理由はない。
「何かの強化か、それとも――」
「……からくりがあるかもしれぬ」
彼女はそう結論づけると、わずかに刀の柄を握り直した。
冷静だ。焦りはない。むしろ、今の一撃で“情報”を得たことを前向きに捉えているようにも見える。
強敵相手の戦い方を、彼女はよく心得ている。
「どうした? もう終いか?」
ブラムが、退屈そうに肩をすくめる。
余裕。
それも、隠そうともしない露骨なものだ。
やつの能力が分からない以上、下手に突っ込めば同じ結果になる。
だが――
このまま様子見を続ければ、主導権は完全に相手に渡る。
「拙者の攻撃を受け止められる余裕があるのであれば」
マヒロが静かに言った。
「受け止められぬ一撃を放てばよいだけのこと」
その言葉と同時に、彼女は再び納刀する。
鳴雷の構えだ。
だが、すぐに違和感に気づく。
空気が、先ほどとは違う。
「……?」
鳴雷は、初見で見切られた。
ならば次は、速度以外で勝負する――そういう選択か。
「抜刀! 【水龍】!!」
宣言と同時に、マヒロの髪色が蒼へと変わる。
魔妖は水を纏い、その刃は液体のように揺らめきながら形を変えた。
彼女は踏み込まず、その場で剣を振る。
「はあっ!!」
振り抜かれた刃は、空を裂き――
そのまま、伸びた。
水の刃が、鞭のように、否、龍の顎のように空間を喰らいながら伸長していく。
「ッ!?」
通常の魔妖では、到底届かない距離。
だが水龍は、刀身の長さを自在に変化させる。
一瞬で、倍以上。
いや、それ以上だ。
ブラムの胴体へ届くまで、僅か二秒もかかっていない。
鳴雷ほどの初速はない。
だが、剣筋が読めない。伸びる距離も予測しづらい。
それでも――
ブラムは動かない。
避ける素振りはない。
また受け止めるつもりなのだろう。
右手が、ゆっくりと刀の軌道がある右側に出る。
「……ふむ」
その瞬間。
「ぬっ?!」
ブラムの声が、わずかに上擦った。
水の刃は、差し出された右手を――
そのまま断ち切った。
そして刃は勢いを失うことなく、そのまま胴体へ到達し――
ズバリ、と。
ブラムの身体を、真っ二つに切り裂いた。




