第10章ー13
「ッ!? 滅んだ?! どうしてですか?!」
思わず声が出た。
その言葉だけは聞き流すことができなかった。
「私も、昔の書物を読んだ程度の知識しか持っていなくてね」
ライラック先生は少し困ったように眉を寄せる。
「なぜ滅んだのか、その決定的な理由までは記されていなかったと記憶している。ただ――」
そこで一拍置き、続けた。
「この五百年の間に“目撃された”という記録は、私の覚えている限りで三十五件。確認された個体数は四十七体。その被害者数は、累計で千人以上にのぼるとされている」
教室が一気にざわついた。
「……四十七人で、千人以上?」
ギリスケが呆然と呟く。
「まあ、単純に言えばそういうことになるね」
「……ヤバすぎだろ」
その数字を聞いただけで、どれほど危険な存在だったのかが嫌でも伝わってくる。
五十にも満たない数で、千人以上を殺害――いや、捕食したのかもしれない。
それほどの力を持つ魔物が、「滅んだ」と言われても、すぐには納得できなかった。
「それだけ強力な魔物なら、滅んだっていうのは正直、腑に落ちぬな」
マヒロがそう口にする。
「うん。私もそう思うよ」
先生は頷いた。
「けれどね。ここ百年ほど、吸血鬼族の目撃情報は一切ない。記録も、その時点で完全に途絶えているんだ。それが今も続いている。だから、すでに絶滅したと考える者も多い」
「理由は、今も分からないけどね」
淡々とした口調が、逆に重かった。
たしかに、四百年で三十五件ということは、単純計算で十年に一度は目撃されていた計算になる。
それが、百年間まったく確認されていないのは、どう考えても異常だ。
実際、自分もこの世界に生まれてから吸血鬼族を見た、という話は一度も耳にしたことがない。
周囲の反応を見る限り、クラスの誰一人として実際に遭遇した者はいないだろう。
「……だとしたら」
ミオが、静かに口を開く。
「尚更、人間社会に溶け込んで生き延びている可能性もあるんじゃないですか?」
再び教室の空気が張り詰める。
彼女の言うことは、決して的外れではなかった。
人間に近い外見を持ち、繁殖能力もある。
数を減らし、正体を隠して生き延びる――それは、十分にあり得る選択だ。
「……可能性がゼロとは言わない」
だが、先生は首を横に振った。
「でもね、書物によれば吸血鬼族は非常にプライドが高い。人類だけでなく、魔物すら下に見て、自分たちこそが至高の存在だと語ったと記されている」
「実力も、十死怪と同等、あるいはそれ以上だとされている。そういう連中が、わざわざ人間社会に紛れて、こそこそ生き延びようとするとは……私は考えにくいと思うんだ」
「……そう、なんですか」
ミオは納得しきれない様子で呟いた。
確かに、誇り高く、自分たちを最上位と信じて疑わない存在が、
“下等”と見なしている人間の中に溶け込む――その姿は、あまり想像できない。
結局、吸血鬼族がなぜ滅んだのか。
本当に滅んだのか。
その答えが語られることはなく、
教室に残ったのは、解消されない違和感だけだった。
授業はそのまま、何事もなかったかのように続いていく。




