第10章ー11
時は少し遡り、学園内での出来事である。
生物学の授業を受けていた時の話だ。
「今日は魔物の誕生について扱う。しっかりノートを取るように」
生物学はライラック先生の担当教科で、一般的な生物の生態系だけでなく、魔物の生態についても学ぶ。
その日のテーマは、魔物がどのようにして生まれるか――というものだった。
「一学期に勉強した内容だね。魔物の誕生には大きく分けて二種類がある。マヒロ・トーエン、分かるかな?」
「うっ!? え、ええと……季節の変わり目に生まれるものと、そうでないもの、でござるか?」
「その通り。ちゃんと覚えていたようだね。けっこう」
「ふう……」
安堵の息をつくマヒロ。
一学期の復習を突然振られたものの、初任務の際に内容を振り返っていたのが奏功したらしい。
「魔物は、季節の変わり目に生まれる『節句種』と、それ以外の『汎用種』に分類される。ただし、その中間的な条件で生まれる種族も存在する」
先生は淡々と説明しながら、黒板に文字を書いていく。
「節句種には、春に生まれる『春生期』、夏の『夏生期』、秋の『秋生期』、冬の『冬生期』がある。さらに特殊条件で誕生する個体もいるが……テスト範囲にすると大変だから、今回は割愛だ。興味がある者は図書館で調べるといい」
生徒たちは黙々とノートを走らせる。
魔物の誕生条件は一見単純そうで、実際にはかなり複雑だ。
大枠は二種類でも、その内側は枝分かれし、例外も多い。
「一方、汎用種は誕生時期が一定せず、唐突に生まれることが多い。ギリスケ・アンドリューズ。魔物は何から生まれるか、分かるかい?」
「えっ!? 俺っすか!? えーっと……一定量の魔力が溜まると、みたいな?」
「概ね正解だ。けっこう」
「はあ……」
ギリスケは胸をなで下ろす。
答えられなければ説教も辞さない先生だけに、教室内には常に微妙な緊張感が漂っていた。正直、自分も指名されたくはない。
「魔物とは、一定量以上の魔力が集束し、具現化した存在だ。実際、不自然な魔力反応を感知した地点で魔物が誕生する事例も確認されている」
ライラック先生は続ける。
「もっとも、その瞬間に立ち会うことは自ら赴かない限り、滅多にないだろうね。一説には、魔物は自分たちに危害が及ばない環境で生まれるとも言われている。真偽は議論の余地があるが、街中で誕生した例がない以上、完全な与太話とも言い切れない」
魔物は、魔力の塊。
自分たちが魔法を使うのと同じ原理で、存在そのものが成立している。
使い魔も魔力によって生み出されると聞いたことがあるし、実験によって魔力の集積から魔物が誕生した例もあるらしい。
研究者というのは、やはりどの世界にもいるものだ。
「ただし、魔物の生態は非常に複雑だ。魔力の具現化である以上、基本的に生殖行為を必要としない。生殖器官も持たない個体がほとんどだ」
「ってことは、セックスとかしないってことっすか?」
空気を読まない質問が、教室に落ちる。
(よくその単語を平然と口に出せるな……)
「うほん! 言い方はともかく、概ねその通りだ。ただし――」
先生は咳払いを一つし、言葉を続けた。
「例外も存在する。無性生殖によって増える魔物もいる」
『えっ!? 魔物も無性で繁殖するんですか!?』
「むせい、せいしょく、とはなんでござる?」
「簡単に言えば、一人でも子供を増やせるってことかな」
「ほお……そんな生き物もおるのか」
教室がざわつく。
魔力の具現化であるはずの魔物が、繁殖という概念を持つ。
それは、今までの理屈を根底から覆す話だった。
「そして――」
ライラック先生は、わずかに声の調子を落とした。
「その中でも、特に有名なのが『吸血鬼族』と呼ばれる、伝説の一族だ」




