第10章ー7
「全く。油断も隙もないんだから」
「……すいませんでした」
あれから大体一時間ほど経っていた。あのミオの風魔法の一撃で、自分とギリスケは揃って意識を飛ばされていたらしい。
気が付いたときには、女性陣はすでに食事を始めていた。
シンプルなスープとパン、干し肉の煮込みが並び、湯気がふんわりと立ち上っている。
しかし、周囲の空気は微妙に重い。
というか、かなり気まずい。
俺たちは隅の席に座らされ、肩身の狭い思いをしながらスープをすするしかなかった。
視線を合わせるのもなんとなく避けたい雰囲気で、ミオの視線がチラチラとこちらを刺すように感じる。
フィーは苦笑いを浮かべ、マヒロは何事もなくでパンをかじる。ソンジさんはいつからかってやろうかと言わんばかりににやけていた。
食べないわけにはいかないので、黙々とスープをいただく。
味は悪くないんだけど、なんだか喉を通りにくい。
「ホントだぜ。誰かさんのせいで俺まで巻き添え食らっちまったし」
「どの口が言ってんだ。元々、お前が氷面で覗こうとしてたのが悪いんだろうが」
「うるせぇ! この役得野郎め!? てめーだけいい思いしやがって!」
「どこがだよ!? 俺だって腹に直撃くらってんだぞ!」
自分の横で、同じくスープを啜りながらブツブツと愚痴を零すギリスケ。
元はといえばこいつの変態行為がすべての発端なのに、なぜか俺への逆恨みがエスカレートしている。
意味が分からん。
お前が興奮して抵抗したせいで俺が後ろに倒れ、結果的に彼女たちの全裸を正面から拝むハメになったんだぞ?
それが「いい思い」だって?
いや、確かに一瞬は視界に映ったけど、即座に魔法で吹き飛ばされたんだから、むしろトラウマ級の記憶だ。
ギリスケの目が血走っている。
こいつ、本気で妬んでるのか?
「もお、サダメお兄ちゃんってば~! ソンジの裸みたいなら、いってくれればいいのに~!
な・ん・な・ら~、どこか二人っきりで見せ合いっこでもしてあげよっか~?」
「ソンジさん!?」
「……すいません」
そんな俺たちの小競り合いに、まるでタイミングを計ったようにソンジさんがロリボイスで割り込んでくる。
いつもの天然ボケかと思いきや、今日はなんだかトーンが違う。
目が少し本気で輝いているというか、冗談の皮を被った本音が漏れ出している感じ。
しかし、流石のミオも堪忍袋の緒が切れたらしい。
一瞬の沈黙の後、ソンジさんは「あっ」と小さく声を上げ、慌てて頭を下げる。
しょんぼりした表情でスープに戻るが、口元が少し緩んでいる。
……今のはけっこうマジだったな。
「……はあ。私の魔力もだいぶ回復してきましたし、これ食べたらすぐ行きますからね!
もうこれ以上、無駄な騒ぎは起こさないでくださいよ」
「「はい」」
ついにミオが仕切り役を買って出た。
彼女の声には、クールさの中に疲労と諦めが混じっている。
今のミオはどことなく「おかん」味が強い。
長く生活を共にしてきたから分かるが、こういうモードの彼女は本気でイライラしている証拠だ。
俺とソンジさんは揃って「はい」と小さく返事をする。
抵抗する余地などない。
食事が終わり次第、この空洞を脱出——いや、出発することになった。
外はまだ凍てつく寒さだが、この気まずい空気よりはマシだろう。




