第9章ーおまけ8
それから約一分後。
女子生徒の下着を回収しながら室内を歩き回る――傍から見ればあまりにも異質な光景。その異常さを本人だけがまったく気にしていないまま、彼は音の発生源へと足を進めていた。
「ん? なんかやたら足元に物が増えてきたな。研究素材か? ったく……こんなに散らかしたら、必要な時に取り出せなくなるだろ。帰ってきたら整理整頓もさせないとな」
進むにつれ、床には色とりどりの鉱石のようなものや、大小さまざまな木材がゴロゴロと転がっている。どうやら研究に使う素材らしいが、その扱いはあまりにも雑だ。
几帳面な彼にとって、この散乱具合は看過できない。素材を踏まないよう慎重に歩きながら、彼はすでに「帰省から戻ったら部屋の片付けを命じる」という未来の説教スケジュールを心の中で組み立て始めていた。
――ドン。
「いたっ!?」
突如、頭上から石のようなものが落下し、脳天を直撃する。思わずしゃがみ込み、痛みに顔をしかめながらも、彼はすぐに上を照らして様子を確かめた。
そこでようやく、音の正体を発見する。
天井には、小さな板状の転移装置――先ほど研究室で使われていたものと酷似した魔道具が貼り付けられていた。そして、その下から、素材が絶え間なくポロポロと落ちてきている。
「あっぶないな……なんでこんな所に張ってるんだ? というか……今ここから落ちてきたってことは……」
嫌な予感が背筋を走る。
この転移装置が、迷宮内とここを繋いでいるのだとしたら――彼女は今も迷宮で素材集めを続け、その成果物がリアルタイムでこの部屋へ送り込まれていることになる。
つまり。
彼女は、安全確認もせず、素材投下ポイントを自室の天井に設定している。
先ほどの石は小さかったため、軽く小突かれた程度で済んだ。しかし、もし次にもっと大きな石が落ちてきたら――普通に命の危険がある。
そう考えた彼は、急いでその場を離れ、別の方法で転移装置を移動させようと駆け出した。
――が。
「おわあぁぁっ!?」
次に降ってきたのは、一つや二つではなかった。
大量の石。まるで小規模な岩雪崩。
逃げ切れないと判断した彼は、反射的に結界を展開する。
自分の体がギリギリ収まるほどの簡易結界。無詠唱で発動したそれは、降り注ぐ石を弾き、九死に一生を得る。
「……っ」
結界は数秒で砕け散り、最後に一つの小石が――まるで追い打ちをかけるかのように――脳天に直撃した。
軽い痛み。
だが、それよりも大きかったのは、呆然とした感情だった。
「………………」
しばらく、彼はその場でぽかんと立ち尽くす。
床一面に積み上がった素材の山。
天井からは、なおも時折、何かが落ちてくる音。
そして。
「……帰ってきたら、たっっっぷり説教しておかないとな」
静かに、しかし確実に怒りが込み上がる。
彼は心の中で、今日一日分の説教メニューを完成させるのだった。




