表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
9章 迷宮~攻略編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

531/542

第9章ー91

 ――ッ!?


 まるで自分の思考を読み取ったかのような間で、謎の存在は名乗りかけた。

 だが、その名を聞き取ることはできなかった。

 いや、正確には――聞いたはずなのに、脳裏に留まらなかった。


 「私はな、この地に“美しい龍が眠っている”という噂話を耳にしてな。半信半疑ではあったが、退屈しのぎに様子を見に来た、というわけだ」


 赤く染まった氷海の中で、その声だけが明瞭に響く。


 「だが……なるほど。噂は誇張ではなかったようだな。その銀色の翼、鏡のように光を映す鱗――やはり、其方で間違いあるまい。そうであろう?」


 ――……。


 何を言われているのか、完全には理解できていない。

 だが、少なくとも分かることが一つある。


 この存在は、純粋な好奇心で自分を見に来た――らしい。


 「暇つぶし」という言葉には、わずかな苛立ちを覚えた。

 だが、不思議なことに、怒りは湧かなかった。

 敵意も、殺意も、そこには存在しない。


 それどころか、相手はまるで芸術品でも鑑賞するかのような声音で続ける。


 「しかし……まだ傷は完全に癒えてはおらぬか。完璧な状態であれば、さらに美しく映えたであろうに」


 残念そうな響き。


 その言葉に、銀鏡の翼龍は否応なく己の現状を意識させられる。

 無数に刻まれた切り傷。

 一部欠け、ひび割れた鱗。


 かつての絶対的な姿と比べれば、見る影もない。

 自分が、ここまで無様な姿になるなど――かつては想像すらしなかった。


 「ふむ……この氷塊、其方自身の魔力で形成されたものだな」


 謎の声は、すでに全てを見透かしているかのようだった。


 「この氷に囲われることで、己の傷を少しずつ癒している。理にかなっておる。だが……完治までは、まだ暫し時間が必要であろう」


 そして、少し間を置いて。


 「そうだな。であれば――こうしよう」


 ――?


 唐突な言葉に、銀鏡の翼龍は思考を巡らせる。


 「其方の傷が完全に癒えた時、私が迎えに来よう」


 ――なっ!?


 予想だにしない提案だった。

 助けに来る、という言葉の意味を理解するのに、一瞬の遅れが生じる。


 「美しき姿を取り戻した暁には、其方を私の配下として迎え入れる。どうだ?」


 声には、疑問というより確信が滲んでいた。


 「このまま動けぬ生涯を送るよりは……幾分か、ましであろう?」


 ――……。


 なるほど。

 観光目的というのは建前で、本命はこれだったのだろう。


 正体も分からぬ存在の配下になる。

 それは不安であり、屈辱でもある。


 だが――。


 ここで、何もできず、ただ時に風化していくよりは。

 外へ出る可能性があるなら、どんな手段でも掴むべきだ。


 ――わかった。好きにするといい。


 言葉を発することはできない。

 代わりに、彼は静かに瞬きをした。


 それを、謎の存在は確かに受け取った。


 「うむ。交渉成立だな」


 満足げな声が、氷海に溶ける。


 「では、私は一度失礼しよう。この状態では、私の魔力が介入し、其方の治癒を阻害してしまうようだ」


 「また数十年後か、数百年後か……いずれ再会しようぞ」


 その言葉を最後に、気配は遠ざかる。


 赤く染まっていた氷塊は、ゆっくりと元の透明な色を取り戻していった。


 静寂が、再び訪れる。


 それから銀鏡の翼龍は、ただ待つことを選んだ。

 約束の時が来る、その日まで。


 再び、長い眠りにつきながら――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ