第9章ー80
―――――?!
何が起こったのか理解できないとでも言いたげに、捕らえられた銀鏡の翼龍が大きく身をよじる。
先ほどまで空を支配していたはずの巨体が、突如として自由を奪われ、空中で縫い止められている。その事実が受け入れられないのだろう。
あの光の輪――。
間違いない。フィーの拘束魔法だ。
どうやら、ギリギリで彼女の魔法効果範囲内に入ることができたらしい。
胸の奥で、張り詰めていた何かがわずかに緩む。
「出かした、フィー」
思わず漏れた言葉には、心からの感謝がこもっていた。
おかげで銀鏡の翼龍は完全に動きを封じられ、抗うこともままならないまま、さらに地上へと落下を続けていく。
――間違いなく、彼女の判断力に救われた。
一瞬でも遅れていれば、この好機は生まれていなかっただろう。
―――――!!
だが、やつがこのまま無抵抗で終わるはずもない。
拘束されたまま、翼を力任せに広げようと暴れ始める。光の輪が軋み、空気が震える。
フィーが言っていた。
この拘束魔法は、数秒しか持たない、と。
このままでは、すぐに解かれる。
早いうちに、追撃を決めなければ――。
「サダメー!!」
「ッ!?」
そのタイミングで、自分の名を呼ぶ声が響いた。
地上でマヒロの叫ぶ姿が視界に飛び込んでくる。
彼女は叫ぶや否や、助走をつけて地を蹴り、一直線にこちらへ飛び出してきた。
脱兎跳躍――その加速は凄まじく、五十メートル近くあった距離を、文字通り一瞬で詰めてみせる。
「サダメ、一緒にあやつを攻撃するでござるよ。フィー殿が作ってくれた好機、絶対に無駄にはできぬ」
「……ああ」
合流するなり、迷いのない提案。
正直に言えば、先ほどの攻撃の反動で、両腕にはまだ痺れが残っている。魔法そのものよりも、やつの肉体があまりにも頑丈すぎたせいだろう。
だが――そんなことは、どうでもいい。
ここまで来たのだ。
出し惜しみなどするつもりは、最初からない。
たとえ痺れが走ろうが、激痛が腕を貫こうが、倒れるまで戦い抜く。
ミオが、ソンジさんが、ギリスケが、フィーが――命懸けで作ってくれた、この一瞬の好機だ。
それに比べれば、手が痺れる程度、屁でもない。
死んでも、皆の頑張りを無駄にはしない。
「けど……あいつに、決定的なダメージを与える方法があるのか?」
冷静に考えれば、そこが問題だった。
自分の新魔法で、ようやく軽傷を与えられた程度。マヒロの赤鬼も水龍も、これまで通用していない。
最高速度を誇る鳴雷。
遠距離から削る鎌鼬。
どれも、決め手には欠ける。
果たして、他に手段があるのか。
「……今の拙者の攻撃では、あやつに太刀打ちできる術はござらぬ」
一瞬、沈黙。
だが――。
「だが、サダメの先程の攻撃を拝見して、拙者にも名案が浮かんだでござる」
「……名案?」
思わず聞き返す。
自分の新必殺技を見て、何かを閃いた? 一体、あの一撃のどこから――。
マヒロは、静かに息を整え、刀の柄に手をかけた。
その瞳には、迷いはない。
「……抜刀、【鬼龍】!」




