第9章ー79
「ハア……ハア……ハア……」
喉の奥が焼けつくように痛み、肺が悲鳴を上げている。
凄まじい熱量を孕んだ炎の魔力を一気に解き放った反動で、両肩が酸素を求めるかのように上下し、無様なほど呼吸が乱れていた。
だが、不思議と体は軽いような気がする。
まるで、ずっと背負っていた重たい荷物をようやく下ろしたかのような感覚だ。全身を圧迫していた魔力の負荷が抜け、力が抜けたその瞬間、急激な脱力感が押し寄せる。
銀鏡の翼龍が落下した直後、宙に留まっていた自分の身体も、遅れて重力に引かれ始めていた。
どうやら、あの爆風と衝撃波の余韻が、わずかながらも浮遊状態を保ってくれていたらしい。
「ハア……ハア……ハア……。このまま……落ちてくれれば……」
自分自身も落下しながら、視線だけはやつから離さない。
巨体が重力に従って沈んでいく様子を、必死に見届ける。
あと少しで、フィーの拘束魔法の圏内だ。
このまま落ち続けてくれればフィーが魔法で拘束してくれるはずだし、その隙にマヒロの追撃も狙える。
最悪――やつが自ら開けた下方の空洞に、そのまま叩き込めれば……。
――――――
やつを倒せる。そんな、ほんのわずかな期待が芽生えた、その瞬間だった。
「ッ!?」
落下中の銀鏡の翼龍の様子が、明らかに変わった。
身体が痙攣するように震え、低く、苦しげなうめき声が漏れる。一見、苦しみ出しているようにも見えた。だが、違う気がした。直観でそう感じた。
まさか――。
あれだけの直撃を受けて、もう立ち直ろうとしているのか? 俺の最大火力の魔法だぞ?
――――――!!
「……マジかよ。くそっ!」
吐き捨てるように呟いた。
分かっていた。分かってはいたが、それでも胸の奥が強く締めつけられる。
自分の決死の一撃は、やつを倒しきるほどの致命的ダメージには至っていなかった。
ここまでやっても、なお足りないのか。
この化け物には。
――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!
そんなこちらの悔しさなど意にも介せず、銀鏡の翼龍は翼を大きく広げ、再び浮上しようとしていた。
落下の勢いを殺し、空気を掴み直すその動きは、紛れもなく再行動の兆しだった。
マズいマズいマズい。
このままでは、やつに逃げられ――。
『相手の自由を奪い取れ、【拘束麻痺】!』
――?!
「ッ!?」
るかにみえた刹那、フィーの詠唱が響き渡り、その直後に稲妻のごとき光を放つ巨大な輪っかが銀鏡の翼龍を捕らえた。




