第9章ー78
―――――――――――――――――――――――――――――――――――?!
咆哮。
本来なら、すべてを押し潰す威圧となるはずのそれを前にして、やつ――銀鏡の翼龍は一瞬、確かに動揺した。
自らの咆哮をものともせず、なおも攻撃に打って出ようとする存在がいるなど、想定外だったのだろう。
巨大な瞳がわずかに見開かれ、その意識がこちらへと向けられる。その刹那、やつの動きが止まった。
今だ。
ほんの一瞬――だが、狙いを定めるには十分すぎるほどの隙。
「――ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
喉の奥から絞り出すように自分も叫ぶ。
マヒロがいつもそうしているように、理屈も恐怖もすべて振り切り、ただ気合いだけを叩きつける。
内部に溜め込まれた炎の魔力でパンパンに膨れ上がり、皮膚の下で弾ける寸前の圧力を感じる。制御を誤れば、自分の腕が先に吹き飛びかねない。
それでも、躊躇はなかった。
ここで振り抜かなければ、すべてが無駄になる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――?!
視界が赤く染まる。
振り抜いた両腕が、一直線に突き出される。
狙いは、銀鏡の翼龍の頭頂。
分厚い鱗に覆われた、急所とは言い難い部位。だが関係ない。威力でねじ伏せる。それが、この一撃の本質だ。
次の瞬間。
振り抜いた両腕は、やつの頭頂に――もろに直撃した。
ドンッ、という音では済まなかった。
ゼロ距離で解き放たれた爆炎が、瞬時に空間を塗り潰す。
凄まじい爆風。
空気を引き裂く衝撃波。
耳を貫く、破壊の爆音。
それらすべてが、同時に叩きつけられる。
「――ぐっ!?」
反射的に歯を食いしばる。
至近距離すぎるがゆえに、その余波は自分自身にも容赦なく襲いかかってきた。体が宙に持っていかれそうになるのを、必死に踏ん張って耐える。
だが、その威力は――確実に、やつにも届いていた。
銀鏡の翼龍が、はっきりと悲鳴を上げた。
威厳も、余裕も、咆哮の力強さもない。ただの、苦痛と驚愕に満ちた叫び。
巨体が大きくのけぞり、翼の動きが乱れる。
制御を失った身体は空中でバランスを崩し、やつはそのまま重力に引かれるように落下を始めた。
――効いた。
これは、間違いない。
「…フゥゥゥゥゥゥ」
自分の新必殺技――【火球・双爆拳】。
その威力は、伝説の魔物、銀鏡の翼龍を叩き落とすに足るものだった。一息つきながら落下する奴の姿を見て、そう確信する自分なのであった。




