第9章ー73
「う゛っ!? ぐうぅぅぅぅ!?」
「…」
二人が壮絶な綱引きを繰り広げているなか、自分達はその光景を見守っているばかりで心苦しい気持ちになっていた。
いちおう彼女達は万が一のために魔道具の手袋を装着しているものの、圧倒的パワーを誇る相手との戦いにおいてその手袋も大した意味を持っておらず、ソンジさんの手袋は破れかけ、手はすでに血まみれになっていた。その状態で綱引きをしているのだ。どれだけ苦痛なのかは想像に容易いことだろう。
「…ソンジさん。俺達も手を貸し…」
彼女の痛々しい姿を見かねた自分は彼女に代ろうとした。のだが、
「だ、駄目だ」
「ッ!?」
食いしばりながら彼女は自分の提案を拒否した。こっちを向いている余裕などないというにもかかわらず、彼女は自分達だけでやるつもりのようだ。
「き、君達にはまだ役目がある。君達の役目は非常に重要なところだ。こんなところで力を使っちゃ、駄目だ」
「で、でも!?」
懸命にロープを引っ張りながら彼女は自分の行動を抑えようとしてくれていた。
当然、彼女の言い分は重々理解しているつもりだ。自分とマヒロにはやつを倒すという重要な役割がある。そのために今、やつを引きずり降ろそうとしていることも分かってはいる。
だが、彼女の悲惨な手といまだ微動だにしないやつの姿を見ていると、どうしても動かずにはいられなかった。
このままでは彼女の手も駄目になってしまうし、ロープだって持たない。そうなればこの作戦も失敗に終わってしまう。
「ぐっ!? がっ、あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」
今にも死にそうな悲鳴を上げるソンジさん。駄目だ。どうにかして彼女を止めなければ…
「待たれよ、サダメ」
「ッ!? マヒロ?」
いけないと考えていると、後ろにいたマヒロが自分を止めに入ってきた。彼女の予想外の発言に面食らう自分。彼女なら自分の意見に賛同しそうなものだが、今の彼女はなぜか冷静であった。
「ソンジ殿の言う通り、拙者達には拙者達の役割がござる。ここで無駄に力を消費すればやつにトドメを刺せぬやもしれぬ」
「なっ!?」
彼女から意外な正論を突きつけられ、自分の頭が困惑している。たしかに彼女の言う通りではあるが、ここまで辛辣なことを言われるとは思いもしなかった。まるで別人のようだ。
「…け、けど、このままじゃあソンジさんもギリスケも持ちそうにない。そうなったらあいつが…」
それでも二人の心配をせずにいられない自分はマヒロを説得しようとした。
が、それを人差し指を立てて制止させるマヒロ。
「安心されよ。拙者達の役割は『今』でござるよ」




