第9章ー72
「ああ。わかってる。ミオ君!」
「はい!!」
ソンジさんに合図を送ったあと、今度はソンジさんがミオに合図を送った。呼吸を整え、落ち着いた表情で両手を構えるミオ。完全に調子を戻したわけではなさそうだが、さっきよりはマシになっているように見える。頼んだぞ、ミオ。
「はああああっ!!!」
ミオは気合いを入れると同時にリールの魔道具に掛けられたロープに風を纏わせる。手前と奥の両方をコントロールするため、かなりの集中力を要する。その上素早く引っかけなければならないし、今の状態のミオにその集中力がどれだけ持つか。自分達はただ彼女を信じるしかない。
「…」
二つのロープを持ち上げ、一気に上昇させる。ここまではいい。あとはやつの身体の一部に引っかけるのみだが、はたして。
「ふっ!」
「ッ!?」
―――!?
ミオが僅かな大きさの輪っかをやつの足元の鱗に引っかける。外れないよう向かい風を駆使して上手く結んでいるミオ。不調であるというのにこの繊細なコントロール。まるで手足のように風を操る彼女の技量に感嘆の声を上げそうになった。
―――――!!!
そんなことを考えているなか、足元の違和感に気づいたのか銀鏡の翼龍はロープを解こうと暴れ始めた。マズい。今暴れられたら折角付けたロープが外れてしまう。
「ギリスケ君!!」
「あいよ!!」
やつが暴れ出したのをみてすぐにソンジさんはギリスケに合図を出す。ギリスケも急いでリールにあるスイッチを起動させた。
―――――?!
スイッチを押すと地面に設置したリールが凄まじい速度でロープを巻き取っていく。あまりの巻き上げスピードに魔道具からバチバチと火花が散っていた。この勢いだとロープが焼き切れそうだが、大丈夫なのだろうか。
――――――――――!!!!!
「ぐっ!?」
などと心配していると、リールが突然巻き取るのを止めた。いや、止まったというべきか。どうやら銀鏡の翼龍との綱引き戦が拮抗している模様。
「流石に龍族相手に使うとは思っていなかったからね。ギリスケ君、ここからは自力で引くよ!?」
「う、うっす?!」
想像以上に手強い相手に苦戦を強いられるソンジさんはギリスケと協力して自力でロープを引くこととなった。ギリスケは困惑しつつも言われた通りにロープを掴んで引っ張っている。さっきの約束の効果が効いているのか、弱音を吐かなくなったなあいつは。
「ぐっ!? うぬぬぬぬぬ!!!」
――――――――――!!!!!
それから数十秒もの間、ソンジさんとギリスケ対銀鏡の翼龍との綱引き合戦が幕を開けた。




