第9章ー67
「なっ!? ミオ、お前…」
少し横になっていたミオは上半身を起こして話に参加してくる。だが顔色は僅かに青く、調子はまだよくなさそうだ。これ以上無茶させられないというのに、まだやるつもりなのか。
『無茶しちゃダメだよミオ。ミオは少し休んでた方が…』
「ううん。大丈夫。思いっきり魔法を使うのは無理かもしれないけど、風でロープを引っかけるぐらいならなんとか…」
「…ミオ…」
彼女いわく、自身の風魔法を利用すればロープを引っかけられるとのこと。たしかに風をコントロールすればできなくはない芸当だとは思うが、本当に彼女の具合が大丈夫なのかははなはだ疑問だ。皆もその一点だけが気がかりだった。
「それに、ここで休んでたって死んだら元も子もないんだよ? なら、やれることは最後までやりたいの。皆で生きて帰りたいから」
「…」
しかし、彼女の言い分はもっともだ。いくら休んだところでここで死んでしまえば休んだ意味なんてない。その言葉に言い返せる者は誰一人いなかった。
「…わかった。あんまり無茶しすぎるなよ?」
「うん。ありがとう、サダメ」
やむを得ず、彼女の作戦参加を許可してしまった。せめて無理はするなと言うほかなかった。
「本当にいいのかい?」
「仕方ありません。時間ももうありませんし、この方法でいきましょう」
ソンジさんが不安げに確認してくるが、これ以上説得する時間も惜しい状況。負担のかからないように、最初は結界で落とし、それで無理そうならミオの風魔法でロープを引っかけ、力ずくで引きずり下ろし、五十メートルのところでフィーの拘束魔法……という順序でいくことにした。
となると残る問題は、やつとの綱引きだ。自分とマヒロはやつを倒すという重要な役割があるため、どうしてもここでは力を温存しておきたい。そもそも自分たちだけで力比べに勝てるとは思えないが。
「やつとの綱引きなら私に任せときな。この魔道具があるからね」
「それは?」
そう思っていた矢先、ソンジさんはバッグから、釣りで使われるリールのようなものを取り出してきた。
「これは【自動巻き取り機】といって、自動で糸や縄を巻き取ってくれる代物だ。頑丈で、巻き上げ力だけなら一般男性の数倍は強い。これを設置してここのスイッチを押せば、あとは勝手に引いてくれる。さすがに完璧に勝てるとまではいかないだろうけど、私たちが引くより断然マシになるはず」
「は、はあ」
どうやらその魔道具は、電動リールのように自動で糸や縄を巻き取ってくれるものらしい。やつとの綱引きにどれだけ貢献してくれるかは分からないが、とりあえずこの問題は解決したということでよさそうだ。
「これを二つ。ここと向こうに設置して両足を狙う。片方だけだと簡単に解けるかもしれないし、念のためもう一個くっつけておきたい。そこでだ! 君の力を借りたいんだ」
「…え? 俺?」
巻き取り機は二つあるらしく、両足を狙うため、もう一方を設置する必要があるとのこと。しかし、端に向かうには正面の巨大な穴を飛び越えなければならない。だが自分とマヒロはそんなことをしている余裕はない。設置したとしても誰かが壊れないように見張っておく必要があるからだ。この氷の床じゃ滑って勝手に動いてしまう恐れもあるしな。穴に落ちてしまったら巻き取ることもできなくなってしまう。
自分たち二人が動けない中、ソンジさんが指名したのは、ギリスケであった。




