第9章ー64
やつが地上に近づいてくれればまだなんとかなるかもしれない。問題はどうすればその状況まで持ち込めるか。やつが自ら降りてくる可能性は百パーセントない。上空はやつにとって安全圏。手放すメリットもないし、向こうもそれをよく理解している。その可能性は期待するだけ無駄だろう。
ならばこっちから仕掛けるほかない。一応自分なりの策は考えてはいる。ゆらめく炎の光球でやつの目を眩ませ、その状態で壁に激突させるという作戦だ。いくら空中で停止しているとはいえ、目くらましされたらやつも混乱し、飛行能力も著しく下がるであろう。当たり前のようにやっているようだが、空中で停止するのはなかなか難しいことだ。人が目隠ししたまま真っ直ぐ道を歩くのが困難なように、視界を奪われた状態でその場で羽ばたきながら定位置を維持するのは至難の業。
今のやつは言わばブランク明けの状態。閉鎖的な空間で飛び回れる程度には回復しているようだが、リハビリの段階でしかない。その状態で至難の業をこなすのは流石の伝説の龍族様でも厳しいだろう。
しかし、この作戦にもいくつか問題はある。まず一つはやつに当てられるかどうか。自分の全力でも全ての場所に光を照らすのは少々難しい気がする。いや、氷の壁もあるし、ワンチャンいつも以上の明るさを照らせる可能性もなくはないけど。
それが仮にできたとしても、問題はその光が皆にも当たってしまうこと。目を潰してしまうのもあるが、自分が問題だと思う点はその光の熱で体力を奪ってしまうことだ。これだけの量の氷で屈折する光だ。その熱量は測り知れない。というか、氷の方が持たない気がする。魔力を帯びた氷が光で溶けるのかは疑問の余地があるが。もし溶けた場合、それはそれで大量の水で埋め尽くされてどっちみちおしまいだ。地面だって氷でできてるしな。
他にもやつが視界を奪われて暴れ回ってこの空間ごと崩壊しかねない問題やら色々あるが、長々と言い訳を垂れ流しているみたいだからこれ以上は割愛させてもらう。要するにこの作戦にはリスクが高すぎるということだ。無論、そのまま素直に落ちて来てくれる可能性もあるけれど、この手の作戦はうまくいかない可能性の方が高いのを薄々感じてる。これは苦肉の策として最後に取っておくべきだな。少なくとも、やつの攻撃を防ぐ手段にはなり得るだろうしな。それ以上のリスクがあるという話だ。
「…」
しかし、この策が使えないとなるとどうするかだな。やはりマヒロをなんとか上に飛ばして落としてもらう方が…
『あ、あの。それなら、一つだけ方法がある、かも?』
得策なのかと葛藤していると、おずおずとした表情でフィーから意外な発言が飛び出した。




