第9章ー54
「…ウソだろ? 実在したのかよ!?」
「なんで? なんでこんなところに?」
「…なんと美しい」
『あ、ああ…あああ…』
「…」
『なにか』が姿を現すと、皆目を丸くし、その姿に気圧されていた。自分も思わず言葉を失う。
この世界の人なら誰しもが知っている昔話。日本でいう桃太郎ぐらい有名な作品だ。国一つを凍らせ、勇者達と戦い敗れる白銀の怪鳥。その怪鳥と今目の前にいる魔物の姿の特徴が非常に酷似していた。いや、そういう次元ではない。幼い頃に読んだ絵本の姿と完全に一致していた。
銀色の翼に白銀の鱗。鋭い牙や凶悪な顔つきにギザギザとした顔立ち。これだけ特徴が似ているものなど他にはあるまい。
初期の話では怪鳥と呼ばれているが、後々この作品は時代によって改変され、その怪鳥を『龍』と呼称されるようになった。昔と昨今の認識がいつしか変わったからなのであろう。
その銀色の龍を筆頭にいくつもの派生作品が生まれ、炎、風、水、雷などの龍が登場し、それらを総称して『龍族』という括りが生まれたという説がある。まあ、諸説あるという話だから確実な情報ではないが。なかにはその歴史を解き明かし、それを生業としている人もいるそうだから、まだ完全に解明されているわけではなさそうだ。
話は逸れてしまったが、その銀色の龍が今、自分達の前に現れているという事実に皆が驚きを隠せない理由である。中にはその美しさに魅入っている者、逆にその姿に怯える者と様々。フィーに至っては涙声にまでなっていた。
「【銀鏡の翼龍】。まさか伝説の龍族がこんな場所に眠っていたなんてね。てっきりこの世界でも創造上の生き物だと思ってたけど」
ソンジさんも銀色の龍に目を奪われていた。銀鏡の翼龍。銀色の翼や鏡のような鱗の特徴からそう名付けられた龍族である。
彼女の言う通り、この世界も自分達のいた世界同様、龍は空想上の生き物だという認識だった。似たような個体もいるにはいるし、ドラゴンの名を冠した魔物もいたりはする。だが、絵本なんかに出てくるような個体は今のところ確認されておらず、それゆえ世間では実在していないものと扱われていた。
だが、目の前にいる魔物は特徴も似ているし、さっきの攻撃の威力は並の魔物では到底出せるものじゃない。十死怪のような特殊な個体を除けばだが。
「…」
正直、信じたくはないところだが、これだけ似ていると信じるほかない。あの伝説の龍は存在していて、今ここでどういうわけか復活してしまった。




