第9章ー12
「…えっと、これは?」
「石だが?」
「いや、それは分かるんですけど…」
自分がそれがなんなのか聞いてみると、見て分かるまんまの回答をする先生。そういう意味で聞いた訳じゃないんだが。アレ? ひょっとして俺、馬鹿にされてる?
「とにかく一発撃ってみろ。撃てば分かる。無機物なら遠慮なく撃てんだろ?」
「は、はあ」
なんか若干はぐらかされてる気もするけど、とりあえず言われた通りに撃ってみることにした。まあ、石なら気兼ねなく撃てはするはずだけど。
「…ふー」
少し石との距離を置き、また深呼吸から入る。大丈夫。今度はただの大きい石。失敗する要素はなし。次は確実にいける。
「爆ぜる焔よ、火の球として右腕に聚合し、眼前に移りし標的に爆炎の一撃を与えん。【火球・炎衝拳】!」
右拳に集中し、詠唱を唱え、距離を一気に詰め、魔法を放つ。先生の時とは違い、躊躇うことは一切なくフルスイングで火球・炎衝拳を撃てた。よし、今度は完璧に決ま…
「ッ!?」
った筈だった。だが、石は微動だにしず。ヒビも一つも入っておらず、自分の放った魔法は何事もなくゆっくり消滅。さっきのような反動はきていない。けど…
「いっっっっってぇぇぇぇぇ!?」
ただただ右手が痛かった。固い物を殴った時の感覚。右手の甲に軽く擦り傷のようなものができており、そこからちょっとだけ出血していた。これは地味に痛いやつだ。
「どうだ? イテーか?」
「せ、先生。どういうことなんですかこれ?」
痛みで悶えていると、自分の元に歩み寄り、様子を窺う先生。どことなくニヤついているように見えるが、もしかしてこうなることを既に予測してたのか? なんか思惑通りにされてるようでちょっとムカつく。
「これは魔断石って言ってな。どんな魔法でも無効化する特殊な鉱石だ。この石は体育館や他の学園施設にも使われてる。気づかなかったか?」
「ッ!? 言われてみれば」
自分が痛い思いをしながら問いかけると、先生はようやく自分の質問をまともに答えてくれた。
どうやらその石は魔断石と呼ばれている代物のようで、あらゆる魔法を無力化できるヤバイ石らしい。先生に言われて気づいたがこの体育館、魔法を放っても全く壊れる様子はなかった。考えてもみなかったが、まさかそんなチートアイテムがこの建物に使われているとは。
「…ん? ってことは今魔法を撃ったのは無意味だったってことじゃないですか?!」
しかし、魔断石の話を聞いてさっきの一撃はなんの意味もなかったことに気が付いてしまった。魔法を無効化するのに何故わざわざ撃たせた? まさか、自分を嘲笑う為にやらせたんじゃないだろうな。
「馬鹿。意味のねーことするほど俺も暇じゃねーんだよ。さっきの一撃、手ぇ軽く痛めた以外に反動はなかったろ?」
「はい。それ以外は特に」
「つまり魔法は失敗してないってことだろ。魔断石は魔法を無効化できても魔法自体をキャンセルさせる訳じゃねーからな」
「ッ!? それってつまり…」
そう思っていた自分だったが、先生は思いのほか真面目に自分の疑問に答えてくれたし、納得もできた。そうか。魔法を失敗した際の反動がないっていうことは魔法自体は成功しているということ。
火球・炎衝拳の威力を消しつつ、イメージ通りの魔法を撃つ。一見無茶苦茶なこと言っているようだが、要はそういうことだ。
「これからお前には魔断石に向かってひたすら魔法を撃つ練習だ。多少イテーだろうが、さっきのよりはマシだろ。治療なら俺がなんとかしてやれるし。それじゃあ始めようか。地獄の訓練を」
そう語る先生は魔断石にもたれ掛かり、タバコを吹かしながら不敵な笑みを浮かべていた。たしかにある意味これは地獄の訓練になりそうだ。




