第8章ー44
「がっ!?」
業火剣で受け止めたにもかかわらず、背中にまで衝撃が走ってきた。あり得ない程のパワーに業火剣にヒビが入り、自分の身体も支える事が出来なかった。その結果、海の方に凄まじい勢いで吹き飛ばされてしまった。にしても、あんな軽々と人一人を吹き飛ばせるなんて。しかも奴は魚人族。地上では本領を発揮出来ない状態でこれだけのパワーなのだ。海中で戦ってたらどうなっていたことか。
「ぐっ!?」
五十、百、百五十メートルとどんどん陸から離れていく。マズい。吹き飛ばされた際の風圧で業火剣も壊れ、ミオ達とも離れていく。今襲われたら助けに…
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「ッ!?」
行けない、などと考えていると、グリムフィッシャーは自分の方目掛けて飛んでくる。もしかして最初は自分からと決めたのか。
それなら好都合、とも言っていられない。奴にとって海は主戦場。そんな場所で戦うとなったらこっちに勝ち目はほぼなし。
「ふははははは! 今度こそ貴様の腹にどデカい風穴を開けてやろう!」
「ッ!? 速い!?」
グリムフィッシャーはとんでもない跳躍力で徐々にこちらに近づいて来る。未だ吹き飛ばされている最中にもかかわらず凄まじいジャンプ力。腕力だけじゃなくて脚力も化け物級かよ。コールスタッシュ先生の比じゃないぞ。
「…くっそ!」
それよりも早くこちらもなにかしらの対応をしなければ。奴は冗談混じりに言っていたが、本気であの一発を食らったら腹に風穴が開けられてしまう。それだけは絶対に避けねば。
それに厄介なのはそれだけじゃない。今自分は海の上に居るのだ。この速度の勢いで着水すれば海底に真っ逆さまだ。我々人間は海中では当然声は発せられない。つまり、魔法が使えなくなる。そんな状況で奴の相手なんて到底出来る訳が無い。だからなんとか着水する前に対策を取らねば。
「聖なる守護神よ。絶対の防御を誇る御身の防壁で親愛なる者達を守りたまえ。【絶防結界】!」
そう思った自分は、海に落ちる前に結界を張る事にした。授業で習ったとはいえ、結界はまだまだ未熟。だが、人一人分の結界ならばなんとかいける。
結界の魔法を唱えると、自分を囲うように結界を展開。その直後、砂浜から三百メートルは離れた海へと落ちていく。
「ぐぅっ!?」
着水した際、衝撃で背中を軽く打ち付けた。けど、結界を張ったのは正解だったかもな。このまま落ちてたら背中を軽く痛める程度では済まなかった気がする。




