第7章ー㊿
「お願い! 一回止まって!?」
「…」
必死に追いかけながら声を掛けるも完全無視。聞こえていない可能性もあるだろうけど、全く後ろを見ない辺り、ガン無視決めこもうとしている気がする。参ったなあ。これ以上飛ばすと制御しづらくなるし、どうにか彼を止める方法はないのかな。
『はっはっはっ! お前ら、いい移動手段持ってんじゃねーか!?』
「オーヴェン先生!?」
そんな事を考えている中、後ろからマイク越しに高らかに笑うオーヴェン先生の声が聞こえてくる。ただでさえ遠くまで聞こえるようにしてあるのに、素の声が大きいものだからいつもより若干うるさく感じる。そのせいで私の声も掻き消されちゃうし。
『だがなー、私から逃げ切ろうなんざ百億年はえーぞ!』
「ッ!?」
更に先生は私達に向かって啖呵を切り出したかと思えば、いきなり上に向かってジャンプ。一瞬で建物の屋上を優に飛び越えていた。コールスタッシュ先生もそうだけど、この学園の先生方は人間辞めちゃってるの?
『空を舞う巨躯の炎龍よ、爆ぜる息吹で一帯を蹴散らせ!』
「…なに、アレ」
オーヴェン先生はその上、手から巨大な火球を僅か数秒で出現させる。アレはサダメの火球とは比なんかじゃない。直観で分かる。あの魔法はヤバすぎる。急いで防御魔法を展開しないと。
「アラガ! それ以上進んだらダメ!?」
「…あ?」
その前に、彼にも警告を促す。ここに来てようやく私に視線を向けてくれた。睨むような視線と口調が少し怖いけど、足を止めてくれた。これなら彼も私の魔法で守れる。
「吹き荒れろ、嵐の防壁よ」
その隙に詠唱を開始。なんとか間に合って。
「【乱気流の城壁】!」 「【紅龍の爆炎弾】!」
私が防御魔法を展開すると同時にオーヴェン先生の魔法も発動。巨大な火球を力強く投げる先生の姿が見えた。
「ぐっ!?」 「う゛っ!?」
乱気流の城壁で私とアラガを風のドームで覆い身を守った。けど、先生の魔法がどこかに着弾すると、凄まじい爆風と爆発音が私達を襲う。防御魔法を展開したというのに外の風圧が伝わってくる程の威力。間に合っていなかったらどうなっていたことか。
「…ど、どうなったの?」
しかし、ここからでは外の様子が分からないので爆風が収まったのを確認して一度魔法を解除。
「ッ!? こ、これは…」
解除した瞬間、衝撃の光景を目の当たりにして背筋がゾクッとさせられた。
先生が魔法を撃った後、私達の前にあった筈の建物や道路は跡形もなくなり、隕石でも落ちたかのように巨大な窪みが出来上がっていた。




