第7章ー㉒
「…ふぅ…」
大鷹が臨戦態勢の状態に入っておる。先程まで拙者の殺気に怯えていた様子だが、ライラック師範の声を聞いて正気に戻った様子。活気が戻る前に始末しておくべきだったか。
「…いや、それではつまらぬでござるな」
愚門。弱っている相手を斬り伏せるなど性分に合わぬ。やるならば正々堂々。フィー殿も流石に終点付近へと近づいている筈。ならば、遠慮をする必要はあるまい。
「マヒロ・トーエン、いざ参る!」
刀を構えながら口上を述べる。相手が使い魔とはいえ正々堂々と相対するなら一応の礼儀を示すのは武士の流儀。
「抜刀! 鎌鼬!!」
初手は鎌鼬の素早い斬撃を放つ。この使い魔は空中を得意とする鳥類。ならば、飛ばれる前に翼を使えなくさせるのは必然的。
「ピエ―――――!!」
「くっ!?」
しかし、斬撃が届く前に大鷹は地上から飛び立ってしまった。かなり至近距離で撃った筈なのでござるが、あの巨体で躱すとは見事。素直に賞賛に値する反応でござる。
「ピエ―――――!!!」
「ぬっ?!」
拙者の一撃を躱し、上空に飛び立った大鷹は真上から見下ろしながら深呼吸。その際に風魔法が集約している光景を確認した。あれはもしや風魔法による攻撃。恐らく真上から落として拙者の動きを封じさせる気でござるな。そうはいかぬ。
「抜刀! 鳴雷!!」
瞬時に刀を鞘に納め、今度は鳴雷で前方に回避を試みる。
「スゥ―――――、ピ――――――――――!!!!!」
「ぐっ!?」
鳴雷を発動したのとほぼ同じ頃合いで大勝の風魔法が放たれる。口から放たれた魔法は物凄い勢いで地面に直撃。まるで風圧で押し潰されるかのように地面が凹んでいく。拙者の読みは正しかったでござるな。危うくぺしゃんこになってしまう所でござった。
「ピエ―――――!!」
圧倒的威力を誇る風魔法を見せつけた大鷹は上空で高らかに鳴いておる。勝ち誇っての雄たけびでござろうか。
たしかに、地上と空中での戦いは空中の方に分がある。鎌鼬を撃った所で躱されるのが目に浮かぶ。刀ででは届かぬ距離、遠距離攻撃も躱される。ハッキリ言ってかなり絶望的な状況でござるな。
「…ふっ。面白いでござるな」
しかし、拙者は思わず笑ってしまう程気分が高揚しておった。強者と戦うのは武士にとって誉れであり、生き甲斐でござる。なんだか久しぶりな気がするでござるな、この感覚。この感覚はいつ以来でござろう。
「…いや、今はそんなことどうでもよかろう」
今は過去に耽っている場合ではござらんな。それに、本来の目的を忘れてはいけぬでござる。フィー殿にもあまり心配掛ける訳にもいかぬ。
「この戦い、早いとこ決着を着けて合格させてもらうでござるよ!」
空に居る大鷹に刀を向けながら、拙者は高らかに宣誓する。奴を倒し、この試験を突破してみせると。




