第6章ー63
「はあ…はあ…、ゲホッ、ゲホッ」
「ふう。こんなもんでいいだろ」
「そろそろずらかろうぜ。御者が様子見に来たらマズイし」
「ああ。けど、こいつどうするよ?」
「置いてくに決まってんだろ。一人だけボロボロになってたら怪しまれるし、適当に理由つけて逃げたってことにしようぜ」
「そうだな。どうせこんな無能一人居なくなっても誰も困んねーだろうし」
「ぎゃはははは! こいつがぼっちでマジ助かるー」
「けっ、結局反撃もロクにしねーし、やっぱ裏口確定だなこいつ。ザマ―みろクズが、ぺっ」
あれから数分、罵声を浴びながらボコられた俺は地面に突っ伏していた。奴等も気が済んだのか、罵声と唾を吐き捨てて馬車に戻ろうとしていた。
一度も反撃することなく暴行を受けた俺は身体中痛くてまともに動けなかった。仮に反撃したところで向こうは四人。流石に今の実力では勝ち目はなかっただろう。
「なあ。お前、自己紹介の時に人の役に立ちたいとか言ってたよな?」
「…」
去り際、リーダー格の男が俺に話しかけてくる。あれは入学初日の話。クラスメイトの前で自己紹介する時間を設けられた時に俺は自身の夢を語った。人の役に立てるような人間になりたいと。奴はその話をしているのだろう。
「なら、その辺の道路で石拾いでもやってろよ。そうすりゃあ誰かが転ばずに済んで人の役に立ってる事になるし、お前の魔法を使えば効率よく拾えて優位性も少しは証明できんだろ? 要するに、お前の存在価値はその程度だってことだ。分を弁えろよ、石ころ風情が。んじゃな、二度とその面見せんじゃねーぞ」
「…」
奴は俺を哀れみながらも辛辣な言葉を残して去って行った。俺はそれに対して何も反論する言葉が思いつかなかった。あいつらからすれば俺はただの身の程知らず。それをはっきりと分からせる為にこんな事をしたのだろう。
「…うぅ…」
その時、あいつらの言う通りだと不覚にも考えてしまった。魔法の才能のない奴が世界有数の魔法学園に入学するなんて冷静になって考えてみれば可笑しな話だ。人一倍努力しましたという過程の話なんて二の次三の次だ。
「うぅぅ…」
才能の有無はどう足掻いても努力じゃ補いきれない。俺は産まれた時から底辺の人間なんだ。あそこは底辺の人間が居ていい場所じゃない。
「う゛う゛う゛う゛う゛っ!!」
雨が降りしきる最中、横になって蹲りながら俺は改めて気づかされた。才能のない奴は夢を持つ資格すら与えられていないんだということを。
呻き声を漏らしている俺の顔には雨粒と涙がごちゃまぜになっており、次々と溢れ出る俺の涙は激しい雨にうち消されていた。




