第6章ー60
「? え、っと、何の話してるんですか?」
突拍子もない話に俺は困惑。我が魔法学園? 本気で何を言ってんのか分からないのだが、この人マジでナニモンなんだよと思っていた。
「ここだけの話、私はソワレル魔法学園で理事を務めているんだが、趣味の旅行がてら良い人材を見つけたら声を掛けたりしてるんだ」
「そ、ソワレル魔法学園って、あの?!」
「ああ。出来れば声量をもう少し落としてくれると助かるんだが」
「あっ。す、すいません」
思わず大声を上げる俺を宥めるリーフ。どうやら彼はあまり素性を知られたくない様子。意外と人の目を気にしてるのだろうか。にしても、前から只者ではないとは思ってたが、まさかこんな辺鄙な地に大物が現れるとは。世の中って本当によくわからん。
「話を戻すが、どうだろう? 君も学園に入学してみる気はないかな? 勿論、試験はちゃんと受けて貰うから入学できるかどうかは君次第になってくるけど?」
「…」
リーフは話を戻して俺に魔法学園の入学を勧めて来る。しかし、俺は正直その勧誘に困惑の顔をしていた。いきなり学園の理事長と名乗ってきたというのもあるが、困惑している理由は他にもある。
「…いいんですか? 俺なんかみたいな奴が試験受けて?」
「ん?」
「俺には魔法の才能なんてありません。ちょっと物を引き寄せるだけで大して役に立たない。仮に試験を受けた所で入学なんて百パー無理ですよ」
「…」
俺には魔法の才能がない。それを自分自身でよく理解しているからこそ、冒険者や騎士団になる夢を諦めたんだ。そんな俺が試験受けたとてどうなるってんだ。どうせ受かる訳ない。結果が分かり切ってるならやるだけ無意味だ。
「君の話を聞いていて思った事があるんだが」
「はい?」
「君は自分自身に対する自信がないように見える。だから周囲の目が気になって気分を害しているんだと思う。君を責めないのは皆仕方のない事だと理解しているからだ。君が思う程人っていうのは純粋で善良な生き物なんだよ。言い方はあれだが、少々過敏なだけだよ君は」
「そう、なんですかね?」
「恐らくだけど、自分の才能に早々見切りをつけてしまったせいで自身を喪失してしまってるんだ。自分を過小評価してしまっているから周囲の目が怖く見えているんだと思う。君はまだ若い。才能が無いと決めつけるのはまだ早いと思うよ」
「で、でも、努力してもちっとも成長しないんです。どれだけ頑張った所で無意味ですよ」
「一人で鍛錬するには限界がある。だからこそ魔法を学ぶ為の学び舎があるんだよ」
「…」
「それに、才能がないと言いながら学園を首席で卒業して騎士団の団長にまで上り詰めた人を私は知っている。そこまでの例は特殊ではあるがゼロじゃないし、本当の実力を発揮出来るかどうかは本人の頑張り次第だ。諦めるなら、やれるだけやってみてからでも遅くはないと私は思うんだが?」
彼の説得に心が揺らぎ始めていた。たしかに、一人で訓練するにも限界がある。独学でやるにも無理があるし、学園に入学出来ればもしかした俺の魔法だって役に立つのかもしれない。彼の言う通り、俺は人の目を異様に気になってしまっている。あの優しい目を見ていると、本当は裏で陰口を叩いているのではないかと勘繰ってしまうのだ。それが俺にはとてつもなく怖かった。あの時姉の代わりに俺が死んでいたらと考える時もあった。
けどもし、俺が魔法学園に入って立派な冒険者や騎士団員になって人の役に立てたのなら、姉の死にも少しは報いれるだろうか。そんなことを脳裏に過った俺は意を決する。
「…分かりました。俺、試験受けてみます」
姉の死を無駄にしない為、そして一度諦めた夢を叶える為に俺は彼の説得に答えることにした。




