第6章ー㊿
あれは魔道具…なのか? 一見何の変哲もない棒にしか見えないのだが。これで一体何をするつもりなのだろうか。
「なあ、なんで俺達がタリスターの花を狙ってるか知ってるか?」
「魔薬だからだろ?」
「そうだ。魔薬はよー、ただの薬じゃねーんだ」
「依存性があるだけじゃないのか? ドラッグみたいに気持ちよくなったりするんだろ?」
「はは、学園じゃ薬のお勉強はやってねーみたいだな」
「何?」
白い棒を見せつけてくるホープは余裕そうな笑みを浮かべながら自分に話しかけてくる。この状況でなんで笑ってられる? 窮地に陥っておかしくなってしまったのだろうか。だが、奴の発言が妙に気になって問いかけてしまう自分がいた。今のうちにもう一撃与えて眠らせてしまえば確実に拘束出来るが、どうしても奴の話を聞きたくなってしまった。
「魔薬は快楽を与えてくれるだけじゃねー。直接肉体に投与することで、一時的に自分の魔力量が増加したり魔法の威力が底上げされたりするんだ。こういう風によっ!」
「ッ?!」
ホープは饒舌に語りながら手に持っている白い棒を自身の首にくっ付けだした。奴の口振りから察するに、あれは薬物を投与する為の注射器のようなものか。まだタリスターの花は回収されてないし、事前に用意していたようだ。
「こいつの中にはタリスターの花の成分を液体状に抽出したものが入ってる。こいつを一発キメりゃあ才能のねー俺等でも馬鹿みてーに強くなれんだぜー! 最高だろー!?」
「くっ?!」
魔薬を自身に注射したホープは途端に立ち上がり出す。しかも奴の魔力が増大している気がする。なんとなくマズい状況になってきた感じがしてきた。向こうに打つ手がないと思って完全に油断した。
「はあ…はあ、これやると後で頭痛すっから、本当は一日に二回も使いたくはなかったんだがな」
「二回? まさか、騎士団や集落の人達を殺した時に?」
「ああ、そうだ。精鋭の騎士団様なだけあって出し惜しみは出来なかった。それに比べりゃあ学園のガキなら使わずともなんとかなると思ってたが、俺の見積もりが甘かったわ。今度は本気だ。跡形もなく消してやるよ!」
起き上がったホープから更に殺気を感じる。どうやらさっきまでは遊び感覚だったようだ。だが、今は違う。どんな手を使っても自分達を殺す気だ。
「深淵の虚空で万物を喰らい尽くせ、【漆黒の追放球】!」
「「ッ?!」」
ホープが魔法を唱えると、目の前に今までの十倍以上はある大きくて黒い球体が出現した。




